本好きだから歌手デビュー? コマタエ誕生秘話 今になって知る母の思い

“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづるこの連載。読者の皆さまの反響が大きく、予定していた5回の短期連載から継続して執筆していただくことになりました。この先も、コマタエ流のポジティブな暮らしのヒント満載でお届けします。
すべては「本が好き!」から始まった
なかまぁるの連載開始に際して、初めてリモート打ち合わせを行った時のこと。開口一番、編集のかたから「駒村さん、本お好きですよね?」と言われました。え!?と不意打ちの質問に面食らっていると、「SNSの文章を読んでそうじゃないかと思ったんです」とのこと。プロの編集者はサラッと読んだだけでそんなことまでわかるのかと唸る一方、文章力の程度もバレバレなんだなと、書く前から丸裸な気分にもなりました。
実際、私は本ばかり読んでいる子供でした。図書館に入りびたり、借りた本を早く読みたくて、帰り道を歩きながら読んで側溝にはまったり電信柱にぶつかったり(良い子はマネしないように!)、バスや電車を乗り過ごすことも。
夏休みになると朝から読み始め、昼ごはんができたと呼ばれても部屋から動かず、窓を閉め切ったまま気温が上がっていることも気付かず汗だくで本に没頭。様子を見にきた母に「もう本読むのは止めなさい!」と激怒され、「先生が本を読めって言ってたもん!」と口ごたえをすると、「じゃあ先生に本を読めというのはやめてって言ってくる!」と本当に言いに行ったこともありました……。
そんな攻防が毎日のように続いていたある日。トイレに鍵をかけて本を読んでいたところ、不審に思った母が扉をドンドン叩き「本読んでるでしょ!!」と大きな声で叫びながらドアノブをガチャガチャ開けようとしました。焦った私は「読んでない!」と咄嗟にトイレの窓から本を庭へ放り投げ、鍵を開けて出てきました。すると、「噓ついてるでしょ!」「物を粗末にしたらあかん!」と母は激高。本格的に本禁止令が出されました。

そこに目を付けたのが父です。父は私を歌手にすることが夢でした。引っ込み思案だった私はステージで歌うなんてもってのほか。デパートの夏休みイベントのちびっこ歌合戦に出そうとする父に「いやだ!」とずっと拒否していました。そこへ母の本禁止令。父は「テレビのちびっこ歌合戦のオーディションを受けたら、本を5冊買ってやろう」と条件を提示してきました。
「受ける!」
即、翻意しました。

オーディションを受けると思いがけず合格。嫌々歌っているので、当時の映像を見ると不愛想極まりないですが、番組で出会った子どもたちと過ごす時間はとても楽しく、文通をし、学校以外の友達が全国に出来たことで新たな世界が広がりました。

そして、合格しないと次の再会はないため、会いたい一心で歌やダンスのレッスンに身が入るようになりました。そんなことをしているうちにスカウトされ、歌手としてデビューすることが決まりました。
母は反対でした。上京することも、歌手になることも。よく父と、このことで喧嘩をしていました。

ところが最近、片付けをしていると手紙の下書きのようなメモが出てきて、母の字で「娘がデビューすることになったのでよろしくお願いします」というようなことが書かれてあったのです。あんなに反対していたのに知人にこんな手紙を送っていたとは。
時々片付けをしていると、昔の母の思いを知ることがあります。長い年月を経て大人になってから知るそれは、照れくささより感謝を伴うことの方が多いです。
幼稚園の頃の絵本貸出ノートもその一つ。
私が図書館で借りた本について述べた感想を、母が書き留めていたノートです。スペースが足りず、紙を切り貼りして記録されていました。そこには、本を好きになっていく私を喜ぶような母の言葉も綴られていました。

私が本を好きになったのはこのノートのせいではなかろうか。
あんなに本を読むなと言っていたのに!
本が好きだったことで動き出した私の人生。すべてはこのノートから始まっているようにも思えます。そして、また一つ、母に感謝することが増えたなと思うのです。
※次の回「母を支える三日月クッション 紆余曲折、完成までの長い道のり」を読む
※前の回「“食”がつなぐ家族愛 母の「食べられへんわ」から生まれた介護食作り」を読む
