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認知症と生きるには

ねぎらいのひと言が、自責の念から遺族を救う 認知症と生きるには36

「ご苦労さま」と声を掛ける人

大阪で「ものわすれクリニック」を営む松本一生さんのコラム「認知症と生きるには」(朝日新聞の医療サイト「アピタル」に掲載中)を、なかまぁるでもご紹介します。今回は、前回に引き続き、介護を終えた遺族の感情について考えます。(前回はこちら

認知症の家族を見送った遺族には後悔の念が残ることが多く、その後悔が長く続かないようにするためには遺族ケアが欠かせません。今回も前回に引き続き遺族へのことばのかけ方について考えましょう。

前回紹介した認知症の義母を見送った遺族の高山隆子さん(仮名:現在52歳)に起きたパニック障害はある出来事をきっかけに落ち着くことになりました。それは義母の長女からの一言でした。

「あなたが弟の妻として母を最期まで見送ってくれたことに私はこころから感謝しています。私が母を引き取って介護していた時には、体調を崩して入院してしまったから、あなたには『逃げ場』がなかったはず。それを一生懸命に介護者として全うしてくれたあなたは、私たち家族の誇りだわ」

気が付くと泣いている隆子さんがいました。かつて母親を引き取り、一生懸命に介護しようとして入院した長女の、あふれる思いと感謝が隆子さんを救いました。

泣いて泣いて、彼女はこれまでの罪悪感が少し軽くなりました。その後も彼女の不安感は続きましたが、彼女が自分を責めることは少しずつ減っていきました。

ここに大きなポイントがあると私は思います。介護をし尽くしたように見えても、介護を終えた時から家族は「自分たちの介護が正しかったのか」と、自問しながら日々を送ります。それゆえ介護家族が遺族になったその時にこそ、早い段階で介護を評価することが大切です。

ただし、この評価にはいくつかの注意点があります。

  1. 本当は前向きに評価していないのに、プラス評価しているような意図的なことはしない(遺族には取り繕った感じが丸見えです)
  2. 必ずしも介護や医療職がおこなわなくても、知り合いや地域の人(たとえば町内会の役員)が「よく介護されました」と評価してくれることも、大きな効果がある。もちろん守秘や人権には注意すること
  3. できれば親族が一堂に会した時に、第三者から主介護者がどれほど介護を成し遂げたかについて、声に出して評価する

つらさを口に出せれば

世間の常なのかもしれませんが、「本当にやった人」は案外言葉数が少ないものです。「何もしなかった人」に限って、あれこれと後になって「もっとやれたのではないか」などとその場限りの言葉を数多く出して、本当の介護者であった遺族のこころを踏みにじることがあります。

それゆえ、遺族ケアは一連の葬儀などが落ち着く前に行いたいほどなのですが、遺族にとっても見送った直後はなかなか時間が取れません。こちらが積極的に(しかしおせっかいにならない程度に)動くのが良いかもしれません。

当院のデータを見ると遺族となった介護者のうち、ほぼ9割の家族が私の所にあいさつに来てくれます。もちろん、当院の外来診療と長年やってきた介護者は、一般的な介護者に比べて、彼ら自身の努力を成し遂げた人々です(私が介護家族に求めることも決して少なくないため)。

その際には必ず家族に会って前向きの評価をするように心がけています。この簡単なひとこと、「よくやりましたね、私たちはあなたの努力を見ていましたよ」という、たったそのひとことが、その後の遺族を苦しめる自責の念を軽くしてくれるものなのです。

もう一つ注意が必要なのが、われわれ医療や介護に携わるものが、気づかないうちに遺族を傷つけていることもあります。研究者としてはあたり前のことですが、家族性の認知症で亡くなった人の家族に「ご遺体は一部でも残っていないのですか」、「骨だけでももらえませんか」、「なぜ早く火葬したのですか」などと発言し、その言葉に深く傷ついた遺族がいました。

夫を介護しつくしたあと、葬儀を終えて一段落したかに見えた、まさにその段階できょうだいの担当医から、見送った夫のことをそのように言われた彼女は、私の診察室に入るや否や泣きながらその時の悔しさを語りました。

その研究者はある大学の基礎医学の医師ですが、研究のため思わずそのように発言してしまったに違いありません。でも、遺族にそのような発言をする前に、本人が私のところに通院していることを知っていたのですから、連絡してくれていれば、何らかの協力ができたと思い残念でたまりませんでした。

ただし、その気持ちを考えると「つらかったろうな」と思うと同時に、「良かった!」とも思いました。このことを口に出すきっかけがどこにもなければ、彼女はこの先も夫を見送ったこと自体が罪であるかのようなイメージで研究者の発言をとらえたことでしょう。私にその話をすることで彼女の自責の念が軽減できたと思いました。

次回は認知症の支援職のストレスケアについて考えます。介護や福祉に携わる専門職であるからこそ、無理をしてしまうことはありませんか。そのような専門職のバーンアウト(燃え尽き)を防ぐことこそ認知症がある人や家族を支える大きな力になります。

※このコラムは2018年9月27日に、アピタルに初出掲載されました

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