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コマタエの 仕事も介護もなんとかならないかな?

歯磨きは金儲け?父の名言と2段の階段 母の月イチ歯科通い

駒村多恵さん

タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。ポジティブで明るいその考え方が、本人は無意識であるところに暮らしのヒントがあるようです。

金儲けやと思って歯を磨け

「金儲けやと思って歯を磨け」
晩年、父がよく言っていた言葉です。私の父は食べることが好きで、独自のこだわりを持っていました。ココアを飲む時は木のスプーン、バニラアイスには赤ワインをかけるなど。夏、出かける際は、出先でいつアイスを食べてもいいように、使い終わった風邪薬の小瓶に赤ワインを入れて、背広の内ポケットに忍ばせていました。
そんな父が、歯を悪くしてからというもの「とにかく、そばがきが一番。噛まんでいい」「イチゴは粒々が歯と歯の間に入るから、いらん」など、食べ物のこだわり方が、味や舌ざわりではなく、スムーズに食べられるかどうかに変わっていきました。歯科医院に行って入れ歯を作ってもなかなか合わず、調整したり作り直したりするたびに多額の費用を支払い、その割にやっぱりうまく食べられないことに苛立っていました。
そこで私に口を酸っぱくして言い始めたのが、冒頭の言葉です。その時は「歯ってお金がかかって大変なんだな」と単純に思っていましたが、母の介護に直面した今、この言葉はより深い意味を持つと感じています。口腔ケアは、誤嚥性肺炎の予防やフレイルをはじめ様々な疾患の予防につながり、逆に疎かにすると、認知症や糖尿病、心臓病にも悪影響を及ぼす可能性があると知ったからです。歯を磨くことは、単に歯や歯茎のためだけではなく全身の病気にもかかわることであり、介護においても非常に重要なのだと。

ベッドサイドに置いてある口腔ケアグッズの数々
ベッドサイドに置いてある口腔ケアグッズの数々

私は母を定期的に歯科に連れていき、口の中を点検してクリーニングしてもらっています。飲み込む力が衰えている母にとって、誤嚥性肺炎を防ぐことは必須。口から食べることを諦めないためにも、口の中の機能を維持できるよう口腔ケアを頑張ろうと思ったからです。

母が通っている歯科医院は電車で一本。30年近く同じ歯科に通っています。自力で歩いていた当初は気にも留めていませんでしたが、入口には階段が2段あります。たった2段。でも、ある日、それが越えられなくなりました。
「スロープなどはないですよね?」と伺うと、「無いけど、車椅子ごとみんなで運ぶから大丈夫ですよ。娘さんが通うのが大変じゃなければうちは構いませんから」とおっしゃってくださいました。訪問歯科への切り替えも考えましたが、お言葉に甘え、慣れた先生方に診ていただくことを選びました。月に1度の電車でのお出かけと考えれば、母にとっては小さな旅のようなもの。
それからは、到着したら先生をはじめ歯科衛生士さん、受付の方など、作業の手を止めても大丈夫という方3~4人が駆けつけて、「せーの!」の掛け声で母を車椅子ごと持ち上げ、階段の上り下りを手伝ってくださいます。

歩ける頃は気にならなかった、たった2段

そして、丁寧に口の中をチェック。「今日は眠そうね~」「今日はお口大きく空きますね!」などと継続的に観察しつつ、不具合が出るたびに改善策を考えてくださいます。部分入れ歯を作ったり、不随意運動の衝撃で下唇をかむようになったら上の歯を削って丸めたり、マウスピースを作ったり。長年受診する中で歯を温存することを優先に考え、何とか食べ続けられるように治療してくださっています。
お陰で何とか、噛んで飲み込むという機能を維持しながら、これまで一度も誤嚥性肺炎は起きていません。口の中を清潔に保つことは良い作用を及ぼしている気がします。
最近、国民皆歯科検診が話題となりましたが、義務化に関しては、費用も人手も問題は山積みで議論が必要ではあるものの、少なくとも口の中の定期的なチェックは大切だと実感します。と同時にその前にできること。それは、自分自身でしっかり口腔ケアをすること。
「金儲けだと思って歯を磨け」。我が父ながら名言だと思うのです。

※前回の話「“食”がつなぐ家族愛 母の「食べられへんわ」から生まれた介護食作り」を読む

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