認知症とともにあるウェブメディア

今日は晴天、ぼけ日和

一筆の運び、リズム 画用紙の上で自由自在に躍るクレヨンが表現するもの

《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》

クレヨンで描くひと

「この人とは、コミュニケーションをとるのが難しい」
周りからそう思われている、あなたが、
クレヨンを持つと、おしゃべりになる。

でもそれは、言葉じゃない。

クレヨンで引かれたさまざまな線

画用紙の上で
あなたはクレヨンを躍らせる。

きゅっ、きゅっ、とんとん。

そのおしゃべりを感じようと
あなたの指先の力を見る。

画用紙の軌跡を見る。

描く人と、その絵を見つめる人

あなたの存在が
深く胸にしみる。

普段、
あなたの豊かな表現を
受けとれていないのは、

きっと、私の方。

私は今まで、
認知症が進んだ方々と
絵を描く機会を頂いてきました。 

その多くが、 
「言葉でのやりとりが難しくなり、
 コミュニケーションをとりづらいから、
 絵を利用してほしい」 
という、周囲の切なる願いからでした。 

けれど、一緒に描くたびに気づかされたのは、
普段、いかに私が
認知症当事者さんのかすかな感情の起伏を
キャッチできていないか、という事実でした。 

一緒に絵を描くときは、
その人のボディーランゲージや、
筆の運びやリズム、
画面にあらわれたものから
その人の表現を受けとります。 

つまり、
言葉や理屈じゃないところでの、
観察と理解が中心になります。 

すると、
クレヨンでなにかを描かれたり、
私の視線を追われたり、
普段、話さないことを口にされたりと、 
お相手もなにかしらの、
コミュニケーションをはかってくださる、
というのが実感です。

「絵を描くことは、
 認知症が進んだ方に、
 効果があるのでは?」 
と尋ねられることもあります。 

しかし、それが必要なのは、
どんな時も言葉や行動だけで
コミュニケーションをはかろうとする、
私たちの方かもしれません。

《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》

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