ヤングケアラー調査隊

押しつけられる「ヤングケアラーの枠」見つけるだけで終わらせないために

加藤雅江さん どーん! ハキハキサバサバ情にあつい!!

最近、さまざまなメディアで「ヤングケアラー」と呼ばれる子どもたちがよく取り上げられています。でもぶっちゃけ、どのような存在なのか聞かれたら、あなたは即答できますか? 認知症だった祖父母の介護を、25歳から7年間続けてきたゆずこが、いろいろな人たちに話を聞いてひもときます。名付けて「ヤングケアラー調査隊」。一人だけどな!

今、全国各地で中高校生を中心にヤングケアラーの実態調査が行われたり、ヤングケアラーを含む“ケアする人”を社会全体で支える「ケアラー支援条例」が制定されたりしています。

ゆっくりと、確実に、広く知られるようになったヤングケアラーという存在。日々メディアなどで取り上げられ、注目を集めるようになってきています。しかし、そんな動きに「ちょっと冷静になってみない?」と声をあげる人がいます。精神保健福祉士の加藤雅江さんです。

加藤さんは杏林大学保健学部の教授を努めながら、「家族や自分の気持ちとどう向き合ったらいいんだろう?」と頭を抱える子どもや大人、家の中の困りごとの相談などに対し、心に寄り添ったり、必要であれば行政や支援に繋げたりする活動をしています。

※ 日本精神保健福祉士協会「子どもと家族の相談窓口」

「この相談窓口は20205月からスタートしました。2年弱で、およそ400件以上の相談が寄せられました。大人も子どもも、まだまだコロナ禍で気軽に人と会えない日々が続いていますよね。だから家の中で起きている困りごとや悩みごと、グチを吐き出す場所がそもそも少ないから、どんどん追い詰められて不安になってしまう。大人だけではなく、10代の子どもたちや20代の若者からの相談も多いんです。連絡が来るのは大体深夜ですね」

 そんな加藤さんが向き合う子どもたちの中には、少なくない数のヤングケアラーも含まれていると言います。加藤さんが今なぜ、「一度冷静になってみよう」と声をあげるのか。ご本人にズバリ直撃しちゃいました。一体、どういうことでしょう?

子どもたちへのケアは圧倒的に不足している

埼玉県が2020年、全国に先駆け、県内すべての高校2年生を対象にヤングケアラーの大規模調査を行いました。そして翌年には、国が全国調査結果を公表。以降、全国の自治体が続々と実態調査を続けています。

この一連の動きに対して加藤さんは、一定の評価をしつつも、ある疑問を覚えたそうです。 

「強い言い方かもしれませんが、どこか“ヤングケアラーと呼ばれる子どもたちを見つけようキャンペーン”になってしまっている危うさを感じます。数年前からヤングケアラーという言葉やその子どもたちの存在が知られるようになり、多くのメディアにも一斉に取り上げられましたよね。そしてコロナ禍の影響も重なって、誰に相談したらいいか分からない子どもたちから『自分もヤングケアラーかもしれない』『この状況って普通じゃないんですか?』という相談が増えました」

「おーい!」キョロキョロ

これ、子ども自ら「もしかしたらヤングケアラーなのかもしれない」と気づいているようで、メディアや周囲から「あなたはヤングケアラーだ」と言われるようなもの。自身がヤングケアラーとはどんな存在なのかをのみ込む前に、第三者に突然、枠を押し付けられる怖さを感じます。

そして、同情されたら「そっか……よくわからないけど私ってかわいそうな存在だったんだ」って、プライドが傷けられて落ち込みそう。私だったら、結構ダメージをくらうと思います。

 「ヤングケアラーに限らず、何かしら問題を抱えているような家庭の中では、社会ではありえないような独自のルールが生まれてしまいます。玄関の扉ひとつを隔てた別世界というか。ヤングケアラーと呼ばれる子どもたちはそれを独自ルールと思わず、その中で必死に生きているんです。
それなのに、ある時突然『きみはヤングケアラーだ』『支援の対象だよ』って言われて、そのルールが独自のものだとわかっても、きっと戸惑うはず。そして、今は社会がヤングケアラーを見つけることに力が入っていて、見つけたあとの支援や相談窓口は圧倒的に足りていません。正直、まだまだ『見つけちゃったけど、どうしよう』という状態。これでは子どもたちが混乱してしまいますよね」
 うーん、難しい。めちゃくちゃ繊細で、すごく難しい!

 支援や寄り添い方を考えるために、実態を把握するのはすごく大切なことです。ただ、加藤さんの言うように、どう支援していいかまだ分からない状態のまま、一方的に“支援の対象”にされてしまったら、それこそ子どもたちは余計に不安になってしまうかもしれません。

 

ちなみに、2020年に埼玉県が行ったヤングケアラー実態調査の中でも、一部の子どもたちからは「突然ヤングケアラーが大変だとか、支援が必要と言われても困る。本当に大変な人はできるだけそっとしておいてほしいと思う」という声や、「へんに気を遣われると、息抜きの場である学校までも失ってしまう。それでもヤングケアラーを手助けしたいならば、正しい知識を広めていってほしい」といった戸惑いの声が上がっていました。

『埼玉県ケアラー支援計画のためのヤングケアラー実態調査結果』(2021216日更新)

「子どもたちの負担を減らして、寄り添うことはすごく大切です。ただ、見つけることを軸にするのではなく、子どもたちが困りごとを話せる大人や専門職の人と接する機会を増やすとか、こんな窓口があるんだよってきちんと紹介するとか、伝えてあげることを先に考えるべきだと思います」

 そんな加藤さんの思いが伝わったのか、ヤングケアラーと呼ばれる子どもたちの姿が見え始めた今、全国ではゆっくりと相談の窓口も増え始めています。

 自治体など行政による、SNSなどオンラインを駆使したヤングケアラー専門の相談窓口をはじめ、民間のNPO団体(特定非営利活動法人)による、ヤングケアラー当事者や元当事者同士の交流会、相談・情報交換を行うコミュニティーサイトなど。定期的にビデオ会議(Zoom)を使った交流会なども開催されています。

「答えが欲しいわけじゃない」
多様化する子どもたちのストレスの吐き出し方

困りごとを話せる窓口や状況の改善につながる支援が充実することを期待する一方で、「答えやアドバイスを求めていない子どもたちもいる」と、加藤さんは言います。

 「SNS上で匿名で悩みを吐き出して、共感し合ってストレスを発散する子どもたちがすごく増えています。ネットの書き込みを誰かに見てもらうだけでもちょっとうれしくなったり、ほっとしたり。彼らは明確な答えやアドバイスは求めていないんですよね。
だから私たち大人も、一方的に答えを出したり否定したりするのではなく、『こんな吐き出し方もありなんだな』と知っておくことが大切です。安心してグチや悩みを吐き出せる場所と、次の一歩を踏み出せる場所をごちゃ混ぜにしないこと。
私たち専門家や大人が、現実的に状況を変える手段や窓口があるということを通訳してあげる。その通訳の充実が、今はとにかく求められていると思います」

グチを吐き出す場も欲しいし、状況を変えてくれる人も欲しい。これ、かつて同じ立場だった私もすごく気持ちが分かります。たしかに、20代で若者ケアラーとして介護に携わっていた時、リアルな家族や友だちに気を遣いすぎて言えないことがすごく多かった。

認知症だったじーちゃん、ばーちゃんの介護が想像以上に大変だったこと、四六時中「出ていけ」「お前は誰だ」と言われて部屋の扉をたたかれ続けたこと。そして時には「鍋のフタ泥棒」だとか「しゃもじ泥棒」という絶妙にダサいぬれぎぬを着せられ責められたこと、人ごみの中で「あなたは藤あやこさんじゃないですか!!」と言われて(ばーちゃんはガチでそう思い込んでる)はずかしめを受けたこと。そんな時に、匿名のSNSで日々のストレスやつらかった出来事を呟いていたっけ……懐かしい。

認知症のじーちゃん、ばーちゃんの介護のしんどさを愚痴って、イイネやコメントをもらうたび、心がほっとしたっけ・・・(匿名の心地よさよ)『「出て行け!」が口癖のばーちゃん。帰って来たら、部屋の荷物が、すべて荷づくりされていた』ふふふ・・・

「ふっ。俺、常連だぜ……?
子どもがドヤ顔でふざけられる、すてきな“居場所”に潜入してみた!

加藤さんはこれまで30年間、大学病院の救急救命センターに勤務し、自ら命を絶とうとする子どもたちの姿も見てきました。

 「もし普段から周りに信頼できる大人がいたら、彼らは追い詰められて死を選ぶこともなかったかもしれません。子どもたちがこれ以上、深刻な状況に陥らないためにも、普段から身近な大人たちと一緒にご飯を食べて、いろいろ話して時間を共有する。『相談したらちゃんと話を聞いてもらえた』『対応してくれた』という経験をしてほしいし、困った時に『ここに来れば誰かが対応してくれる』と思ってもらえる、そんな居場所をつくろうと思いました」

子どもたちが構えず、気を遣わずに大人に頼れる――。たしかに、気軽に行ける“自分の居場所”があれば、ヤングケアラーも含め子どもたちが誰かに相談するというハードルがグッと低くなるかも。

加藤さんはその居場所として、子ども食堂「だんだん・ばあ」を3年前に立ち上げました。都営住宅の集会所で、月に2回の子ども食堂と月1回の学習室、そしてのんびり過ごせる時間(「だんだん・ばあのきち」)が開催されています。

現在は、お弁当の持ち帰りをメインに、お菓子、飲み物、地元の農家さんから提供された新鮮な野菜など食材を配ることも。子どもは無料、大人は300円です。スタッフを含め、小学生や中学生、そして大人たちなど、130人から200人近い人々が集います。 
大人たちがどのようにこどもに寄り添い、信頼関係を築き上げているのか。実際に自分の目で見たくなったので、私もスタッフの一人として潜入してみました。
※ 潜入と言いつつ、きちんと取材の説明と自己紹介をし、加藤さん、スタッフ、子どもたちの許可を得て記事化しています

 

私がお邪魔した時のメニューは、地元の素材をふんだんに使った「濃厚トロトロのハッシュドビーフ」! エプロンのひもをぎゅっと締めて、大なべに入ったハッシュドビーフを超高速でひたすらお弁当の容器に流し込みます。ボランティアに来ていた女子大学生(こちらはライス担当)と、あ・うんの呼吸で何百ものお弁当を作りあげるのです。
どうだい? まさかこんなベテラン・ハッシュドビーフ注ぎ職人が記者だとは思わないだろう……? ふふふ。

 ハッシュドビーフを注ぎながら、加藤さんの言葉を思い出しました。
「子どもも大人も、ウエルカム。来る人全員が気軽に自分の居場所だと思ってほしい」

その言葉通り、子どもたちは「おなかすいたー! 今日のごはん何ー!?」とまるで我が家のように声をあげて駆け寄ってきたり、小学校高学年が「俺、常連だからなんでも聞いて」と低学年の子をエスコートしたりする場面も。
ある中学生男子は、ボランティアに交ざって手伝う私にドヤ顔で「おねーさん、いつもの」とひとこと。私、初参加でして、何が「いつもの」なのか分からないのですけど……。

「おねーさん、いつものちょうだい」「知らんがな」ガビーン

ほかにも、ボランティアの大学生に恋愛相談や進路相談をして話し込む子どももいるとか。かた苦しい雰囲気はまったくなく、子どもたちがすっかり“自分の居場所”としてくつろいでいる――。加藤さんもひとり一人の子どもたちに話しかけ、気難しそうな思春期の中学生とも、すれ違いざまにノールックハイタッチを決めまくり。めっちゃ信頼し合ってるし、つながってる。かっけえ!

無言でも通じ合えてる感じがカッコいい!! すれちがいざまのハイタッチ・・・!

と、子どもたちの様子を眺めつつ、大量のルーをせっせと容器に移し替えていたら、取材を忘れてガチで働いておりました。

 そして、時間になると子どもたちが一斉にお弁当を取りに来て、団地の一画の子ども食堂は大賑わい。あちらこちらでマスク越しに笑顔が飛び交い、世間話や学校の話、塾の話が聞こえてくる。まるで遠い親戚や家族が一堂に集まって、わちゃわちゃとお祭り騒ぎで盛りあがっている。そんな絆と、居心地の良さを感じました。

 だんだん・ばあのコンセプトは、
何かをしてあげなくちゃいけない場所ではないし、
何かをしてもらわなきゃいけない場所でもない
楽しいからみんながあつまる居場所、です。

ヤングケアラーという存在が広がりつつある今だからこそ、考えなければいけない問題点。言葉の広がるスピードやその実態の把握と同時に、見つけたあとにどう寄り添うか。そしてその問題を解決する方法の一つとして、子どもたちに寄り添うために、声を上げやすい大切な居場所をつくる人々がいます。一刻も早く、調査に寄り添いが追いつくようにと。

……以上、子どもたちに寄り添う現場の最前線から、ゆずこがお伝えしました。
(余ったハッシュドビーフ超大盛をちゃっかり2個いただき、その日の夜に完食。うまいのよ、まじで)

※ 前回の記事「埼玉県すごくね? 国に先がけ全数調査 見えた本音」を読む

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