伴侶に先立たれ 重ねる年齢と悲しみ 希望は水のなかでゆれる小さな命
《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》

毎日に、小さな希望がほしい。
朝起きた時、
今日が少し、うれしくなるような。
こんなおばあちゃんの私に
それは、高望みでしょうか?

犬のタロウを愛した亡き夫は、
夏は朝早く散歩に出かけた。
できることなら、
また犬のいる生活をしてみたい。
あのにぎやかな日々が懐かしいな。

だからせめて、
金魚を2匹、家族に迎えた。
水のなかで揺れる小さな命が、
今日を照らしてくれる。
きらきら、きらきら。
「私も早く、あの世に行けたらいいのに」
そう、ニコニコ話す人でした。
訪問介護ヘルパーの私は、
その笑顔を直視できないまま、
亡きご家族の面影があちこちに残る
ご自宅に通っていました。
年を重ねることは、別れを重ねること。
直視できなかったのは、
そんな現実を間近に見るのが怖かったからでしょう。
けれど、ある日。
玄関に2匹の金魚が現れました。
「買っちゃた」と
恥ずかしそうに笑ったその顔に、
私は、はっとしました。
本当は、こっちなんだ。
これまでは、この笑顔で生きてこられたんだと。
年を重ねることは、別れを重ねることに
違いないでしょう。
でも確かにあった出会いを糧に、
ひとりの今日にだって、
希望を見つけられる。
その希望は、
ふと寂しさを感じたとき、
私の未来をも照らしてくれます。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
