老人ホーム選びでは要チェック!「重要事項説明書」に含まれるアレコレ
構成/熊谷わこ
有料老人ホームを選ぶ際や入居契約時に、必ず取り寄せてもらいた書類があります。それが「重要事項説明書」です。利用料金や職員の体制など、まさしく重要な事項が網羅的に記載されています。どのように重要事項説明書を読み込み、チェックすれば良いのでしょうか。架空の朝日太陽さんのエピソードをもとに解説します。アドバイスするのは、シニアライフに必要な情報を提供する株式会社ベイシスの「介護の三ツ星コンシェルジュ編集部」の荒牧誠也編集長です。
- 【今回のエピソード:重要事項説明書って何?】
- 東京で働く朝日太陽さん(52)は、地方の自宅でひとり暮らしをしている母の月子さん(80)のために有料老人ホームを探しています。要介護4になり、在宅での暮らしが難しくなってきたためです。いくつかの有料老人ホームに問い合わせをしたところ、「重要事項説明書」という書類を渡されました。色々なことが書かれているのですが、どこをチェックすれば良いのか分からず、ぼうぜんとしてしまいました。
*有料老人ホームの様々な支払い方法ついては、前回の記事「入居一時金は0円~数千万円 損しないための有料老人ホームのお金の話」をご覧ください。
備えのためのアドバイス:重要事項説明書は情報の宝庫
「重要事項説明書」とはどのような書類なのでしょうか。
事業者は、入居契約を結ぶにあたって、契約上の大切なことがら(=重要事項)を、契約者に説明します。この説明の際に使用する書類が重要事項説明書です。
契約に関することはすべて契約書に書いてありますが、膨大な分量で、使われている文言も一般の人にはわかりにくいもの。契約書の中のとくに大切な部分や施設情報について、契約者の目線でわかりやすく書いたものが重要事項説明書と考えればいいでしょう。
特に有料老人ホームの入居に際して、利用者は、提供される介護サービスなどに対して大きな期待を寄せているものです。入居後に「思っていた内容と違った」といったことがないように、老人福祉法とその施行規則は、事業者に対して重要事項説明書の作成と交付を求めています。
有料老人ホームに関する情報は、ウェブサイトやブログからも得ることができますが、そこには、そのホームが得意なことや力を入れている点が大きく目立つように、逆に弱い部分は小さく記載されがちです。
一方で、重要事項説明書に記載する内容については、行政が一定の基準を設けています。つまり、事業者が表記したくない情報についても隠すことができないようになっているのです。このため、重要事項説明書をしっかり読み込めば、ホームの概要はほぼ把握できます。つまり契約時はもちろん、ホーム選びの際にも役立つ書類なのです。
近年は、ウェブサイトからも重要事項説明書をダウンロードできる施設も増えました。ウェブサイトからダウンロードができない場合は、資料を請求するときに「パンフレットと一緒に重要事項説明書も送ってください」とお願いしてみましょう。行政からも開示を義務付けられている書類ですから、まともな事業者であれば見せてくれるはず。逆に出し渋る事業者は、避けた方が無難です。
「別料金になるもの」には要注意
重要事項説明書には、主に以下の項目が記載されています。とくに注意すべきポイントを説明します。
1)ホームの類型(「介護付き」か「住宅型」か)
2)入居時の要件(主に要介護度。自立の場合の受け入れ可否)
3)建物の概要(所有か賃貸か、居室の広さ、共用施設)
4)職員の体制(配置人員、職員の保有資格、介護従事年数、離職率、夜間体制)
5)サービスの内容・協力医療機関、食事委託業事業者の情報
6)利用料金
7)入居者の状況(要介護度、男女比、平均年齢、退去者数、退去死)
まずお金に関することは、「利用料金」の項目にまとめられています。
とくに入居時にまとまった金額(数十万~数千万円)を支払う「入居一時金方式」を選択した場合は、注意が必要です。入居一時金は、契約時に決めた期間で償却していきます。償却期間が終わる前にホームを退去する場合、未償却分は返金してもらえますが、償却期間が終わってからの退去は返金がありません。
また、入居一時金の一部または全部が、「初期償却」として入居と同時に償却される場合もあります。短期間で退去した場合でも、初期償却分のお金は戻ってきません。重要事項説明書の初期償却に関する部分(償却率として示されることが多いです)はしっかりと確認しましょう。
また介護保険サービスの自己負担額は、介護度別・負担割合別に書かれているので、入居者がどこに相当するのか確認してください。たとえば介護保険サービスを30万円分使うとして、1割負担ならば3万円、2割負担ならば6万円、3割負担ならば9万円)と、かなり違ってきます。
さらに、公的介護サービスの基準を上回る介護職員の配置を行っているホームでは手厚い介護サービスを受けられる傾向にありますが、「上乗せ介護費」を別料金として請求されることがあります。
このほか、買い物の代行や理美容サービスなど、公的介護保険で対象外のサービスについては、別料金となります。おむつなどの消耗品や洗濯が別料金だと気づかなくて、予想以上に追加費用が膨らんでしまったというケースもよく聞かれるので注意しましょう。「月額利用料金に含まれていない費用(=追加で必要な項目)は何か」は十分に確認してください。
「職員の質」を見抜く
介護業界は慢性的な人手不足ですが、できれば離職率が低く、経験年数が長い職員が多くいる施設を選びたいもの。これは、重要事項説明書にある「職員の体制」などから判断することが可能です。
たとえば50人の職員が働いている有料老人ホームで、前年度1年間の退職者数が10人と記載されていた場合、前年度の離職率は20%(10人÷50人)。(ただし、退職者数には、複数の施設を展開している大手企業で別施設に転勤するケースも含まれていることがあります)公益財団法人介護労働安定センターが実施している「介護労働実態調査(2019年10月~2020年9月)」によると、介護職(訪問介護員・介護職員)離職率の全国平均は14.9%ですから、このホームの離職率は平均よりもやや高いことになります。
また経験年数別の職員数からベテラン職員が多いかどうかがわかりますし、看護師、介護福祉士、理学療法士などそれぞれの資格の保有者数からは、医療や介護、リハビリなど様々な分野のうち「どの分野に力を入れているのか」も見えてきます。
「死亡退去者数」は看取り能力の指標になる
有料老人ホームを「終(つい)のすみか」と考えておられる方も多くいることでしょう。亡くなるまでそのホームで過ごすことができるかは、「看取(みと)り能力」にかかっています。看取り能力の乏しい施設を選んでしまうと、最後の最後に救急車で病院へ運ばれ、入院し、そこで人生を終えるということになりかねません。
看取り能力は、重要事項説明書の「退去者の状況」から判断できます。たとえば「前年度における退去者の状況」の「死亡退去」が12人であれば、月ごとにばらつきはあるにしろ、ほぼ毎月看取りが行われていることになるので、看取り能力の高いホームと言えるでしょう。逆に、いくら営業マンが「うちは看取りに対応していますよ」と言い張ったとしても、死亡退去がゼロならば、少なくとも過去1年間は看取っていないホームということになります。
重要事項説明書を読み込むと、有料老人ホームの概要や職員の能力がある程度見えてきます。複数のホームの重要事項説明書を比較してみるのも、お勧めです。契約時にはもちろんのこと、ホーム選びの段階から上手に活用してください。
- 荒牧誠也(あらまき・せいや)
- 株式会社ベイシス 取締役事業本部長、コラムサイト介護の三ツ星コンシェルジュ編集長。
1964年、大阪府大阪市生まれ。88年 関西電力株式会社入社。99年、介護事業子会社 株式会社かんでんジョイライフを設立。取締役として主に有料老人ホーム、サービス付高齢者向け住宅、認知症対応型グループホームの開発・運営等に従事。2017年に関西電力を退社後、現職。