認知症の父 私を母だと思って話しかけてきて困惑します【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
地域包括支援センターでセンター長を務める由井洋子さんが、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.父(82歳)は認知症で1年前から施設に入居しています。最近は面会に行くと、娘である私のことを2年前に亡くなった母と勘違いしているようです。どのように接したらいいでしょうか(50歳・女性)
A.相談者がお母さんに似てきたのかもしれませんね。認知症になると時間や季節がわからなくなり、自分がいる場所がわからなくなるなど場所の認識も乏しくなっていきます。症状が進むと家族や周囲の人を認識できず、お父さんのように自分と相手との関係を間違える場面も出てきます。認知症が進行していく中で、お父さんはそうした段階にきたのだと受け止めることが大事です。お母さんと間違えるということは、相談者は自分にとって大切な家族であるという認識はあるのでしょう。
接し方に関しては、「私はお母さんじゃないよ」と否定したり、「私は娘だよ」と正したりするのではなく、まずお父さんの話を聞いてほしいと思います。お母さんになりきって演技までする必要はないですが、否定したり正したりすると、お父さんがお母さんに伝えたかったことを聞き出せなくなってしまいます。
とはいっても、娘としては自分のことを認識してもらえないのは、悲しいことですよね。お父さんの部屋に昔の家族写真を飾ったり、相談者にゆかりのあるものを置いたりすると、お父さんも昔のことが思い出されて、ときには相談者のことを認識できる日もあるかもしれません。
自分のことをわかってもらえない相談者のショックな気持ち、悲しい気持ちは、誰かに話せているでしょうか。お父さんの前では冷静に対応するためにも、気持ちを吐き出す場が必要です。本人が施設に入居していても、地域包括支援センターなどが実施している認知症カフェや家族会などには参加できます。こうした場には、同じような経験をしている家族がいるので、思いを共有しやすいでしょう。
気持ちを吐き出しつつ、徐々に今のお父さんを受け入れていけるといいですね。
【まとめ】娘である私を亡くなった母だと勘違いする父。どのように接したらいい?
- 否定したり正したりせず、お父さんがお母さんに伝えたいことを聞く
- 昔の家族写真など思い出のものをお父さんの部屋に飾る
- 自分のことを認識してもらえないショックや悲しみは、誰かに話す。認知症カフェや家族会などに参加するのも一つの方法