「急ぎなさんな」と語りかける花束 生きがいとともに息づく花屋さん
《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
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その花屋の店主さんは。
曲がった腰を、もっと折り曲げ、
冷たい水にしわしわの手を入れて、
花を束ねる。
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花束の注文は、彼女の楽しみ。
ゆっくりゆっくり時間をかけて、
「とびきりのひとつ」を作る。
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その花屋は今日も、
しっかり町に息づいている。
「そう、急ぎなさんな」と。
ある日、急きょ花束が必要になり、
慌てて花屋に飛び込みました。
けれど、店に貼り紙が。
「ちょっと、休憩に行ってきます」
近隣に他の花屋もなく、
時計を気にしながら、待つこと30分。
戻ってきた店主さんは、なんと
80代後半に見える女性でした。
驚きながら花束を頼むと、その方は
私の時間などお構いなしに
ゆっくりゆっくり花束を作りはじめました。
「このお店は、生きがいなのよ」
店主さんのひとことに、
私は生き急ぐ自分を恥じました。
『早くしてほしい』
今まで私は高齢の方々に、
なんど胸の内でつぶやいてきたことか。
年齢を重ねても、
その人らしく、
生きがいと共に暮らせる町。
私たちは、
自身の心に余裕を持つことで、
そこに近づけるかもしれません。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
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