「死にぞこない」実母を罵倒する息子 言葉の奥にある裏腹な心にもケアを
《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
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私はひどい人間。
老いたあなたに
憎しみさえ抱いている。
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『消えて欲しい』
残酷な言葉が、口からこぼれ落ちる。
私は、人間失格?
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だって忘れられない。
あなたが元気だった頃を。
私は、心揺れる人。
「うちのババア、死にぞこないで…!」
攻撃的な言葉で、激怒しながら延々と。
介護の現場で働いていたとき、
私にお母様の現状を語った、男性がいました。
思いだすと今でも体の奥が、ひゅっと縮みます。
きっと息子さんは、介護士である私にも怒っていたのでしょう。
『どうせお前ら介護士は、俺みたいな家族を軽蔑しているんだろう』と。
実際、私はその息子さんが苦手でしたし、
訪問介護サービスチームの誰も
その方とのつながり方を見つけられずにいました。
私たちは他の業務と、自身の心を守るために、
息子さんを『問題がある家族』と名付け、
手近な距離感を見つけるのに必死でした。
どんな理由が息子さんにあったのかわかりません。
が、ご自身こそが、お母様を思いながら苦しまれていました。
もし、あの時。
息子さんを『問題がある家族』ではなく、
心のケアが必要なひとりとして、
事業所から適切な支援へとつなげることができていたら。
または誰かが「つらいですね」と、心から思いやれていたら。
なにかが変わったのだろうか、と今でもぼんやりと思い返します。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
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