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本当はできないのに……要介護認定の調査時に見栄を張る親への対処法

要介護認定調査時の様子

高齢の親がけがや病気で入院した場合、無事に回復したとしても、退院した後、これまでと同じようには自宅で暮らせなくなることが多くあります。けれど、ご本人(親)自身は、様々なことがうまくできなくなっていることをなかなか受け入れられず、「できる」と言いがちです。ご本人のプライドを傷つけずに、必要な介護サービスに結びつけるには、どうしたら良いのでしょうか。架空の朝日太陽さんのエピソードをもとに、要介護認定の認定調査時の注意点などについて解説します。アドバイスしてくださるのは、高齢になっても安心、安全に財産管理や契約など経済活動を円滑に行える社会の実現に向けて取り組む一般社団法人「日本意思決定支援推進機構」の理事で、社会福祉士の上林里佳さんです。

【今回のエピソード】
東京で働く朝日太陽さん(50)。地方で一人暮らしをしている母の月子さん(78)が転んで骨折し、入院して手術を受けました。治療を終えた月子さんは、歩く際には歩行器や杖が必要なものの、体調は回復し、退院できることになりました。入院中に、介護保険制度に基づく要介護認定を申請したところ、「要介護1」の認定が下りました。そして、いよいよ自宅での生活が始まりました。太陽さんが、自宅での月子さんの様子を見ていると、一人では、トイレや入浴だけでなく、台所に立つこともできません。もの忘れも気になりだしました。太陽さんは「本当はもっと要介護度は高いのではないか?」と疑問に思うようになりました。どうしてこのようなことになったのでしょうか? そして、対応策はあるのでしょうか?

備えのためのアドバイス

介護保険で利用できるサービスの内容や支給限度額は、要介護度によって異なります。現状にそぐわない認定を受けてしまうと、必要なサービス量が介護保険でまかなえなくなったり、本来、使えるはずのサービスが使えなくなったりする場合もあることから、認定調査はとても重要です。

認定調査時は家族や支援者は立ち会いを

要介護度認定は、医師の意見書に加え、認定調査員による本人への聞き取りや状態確認などの認定調査の結果などをもとに、保健、医療、福祉の専門家によって審査、判定が行われます。

聞き取り調査では74項目にのぼる事柄を聞かれます。主な項目は以下の通りです。

  • 麻痺の有無や、起き上がり、立ち上がりなどの身体機能、起居動作機能
  • 移動や食事、排泄などに関する生活機能
  • 意思の伝達や短期記憶などに関する認知機能
  • 同じ話をする、もの忘れなどに関する精神・行動障害
  • 薬や金銭管理、日常の意思決定などに関する社会生活への適応
  • 点滴や酸素など過去14日間に受けた特別な医療
  • 障害のある高齢者の寝たきり度、認知症高齢者の日常生活自立度

聞き取り調査で、こうしたことを確認されると、本人は「『できない』と言うのは恥ずかしい、格好悪い」などと感じたり、そもそもできていないという自覚が乏しいこともあったりするため、できないこともできると伝えてしまうことがあります。そのため要介護度が実際よりも軽く認定されてしまい、必要な種類、量の介護サービスが受けられないケースもあります。
そうしたことにならないためにも、認定調査には、本人の状態をよく知る家族や医療者、支援者が立ち会って、現在の状態を正確に伝えることが重要になります。特に認知症がある人の場合、認知面の調査では、実際と異なる返答をされる場合もあります。家族の方は、日々のエピソード、言動などの様子をメモしておき、認定調査時に活用するとよいでしょう。ただ、ご本人の目の前で、あれもこれも「できない」と認定調査員に伝えるのは控えていただければと思います。ご本人の気持ちを害してしまいかねないからです。ご本人のいないところで、認定調査員にメモを渡したり、あとで伝えたりといった配慮も大切です。
月子さんの場合、太陽さんは遠方に暮らしていることもあり、入院中の認定調査に立ち会えませんでした。月子さんは、認定調査時に、容易にはできないことも「できる」と言ってしまったり、無理に頑張ってできるように見せてしまったりしていたのかもしれません。

認定結果に不服のある場合は、認定の通知を受けた翌日から60日以内ならば不服申し立て(審査請求)をすることができます。当初の認定結果が妥当かどうか、都道府県に設置されている介護保険審査会で検討され、必要ならば要介護認定をやり直すことになります。ただし、審査結果が出るまでに一般的には数カ月かかってしまいます。
より短い期間で要介護認定の結果を変えられる可能性があるのが「区分変更」と呼ばれる方法です。これは、要介護認定を受けた後に、大きく心身の状態が変わった場合(悪化も好転も対象)に、次の要介護認定の更新時期を待たずに認定調査を行う方法です。原則としてご本人か親族の方が、市区町村の担当窓口へ区分変更を申請します。その後は、主治医に意見書を書いてもらうなどし、改めて、前述のように要介護認定を受けることになります。ただ、同じ認定結果が出る可能性もあります。気になることがあれば、遠慮なく、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談するとよいでしょう。

一時帰宅し、自宅生活のシミュレーションを

介護保険サービスを利用するにあたっては、担当のケアマネジャーがケアプランを作成します。ケアプラン作成時にも、ご本人や家族の希望をしっかりと伝えることが大切です。そのことによって、ご本人にとって必要なサービスが利用できるとともに、ご本人やご家族の意思を尊重された暮らしが手に入ることと思います。

リハビリテーションのスタッフなどによる家屋調査の様子

月子さんのように入院中にケアプランを作成する場合は、一時外出、帰宅をお勧めします。退院が見えてくる時期は、ご本人は回復を実感し、帰宅したいという思いも増しているでしょう。そして、退院後の生活を以前の心身の状態で考え「勝手知ったる自宅なら大丈夫」「手助けは必要ないわ」などと考えることもあります。
病院という環境は、自宅とは異なり、空間が広く、段差も少ない。また、あちこちに手すりなど設置され、安全に移動できるようにしつらえてあります。もし、転倒したり、体調が悪くなったりした時も、看護師などのスタッフがすぐに来てくれる安心があります。しかし、自宅では、そうはいかないことはいうまでもありません。
こうしたことから、退院が近づいた患者さんを対象に、一時帰宅の際に「家屋調査」を行い、退院後の生活では「どの場所でどんなことに困るのか」「どういう風にしたら安全に動けるのか、安心して暮らせるのか」ということを確認することがあります。そうすることで具体的に退院後の在宅生活をイメージすることができるのです。

もう少し具体的に申しますと、家屋調査は、リハビリテーションのスタッフなどが患者さんの一時帰宅に同行し、在宅生活をするにあたって手すりの設置や段差解消の改修をした方がいい場所や、必要な福祉用品の利用などについてアドバイスを行うものです。家の中を実際に移動し、動線を確認してみると、入院前は大丈夫であっても、今はちょっとした段差でもつまずきやすかったり、トイレや玄関、浴室、寝室などの入り口が狭くて車いすが入れなかったり、もともと手すりがついているけど高さが合っていなかったり、和室に布団での就寝では寝起き、立ち座りがつらいなど、さまざまな課題が見えてくることがあります。
環境面や金銭面も関係してくることですので、気づいた課題のすべてを解消するのは難しいかもしれませんが、優先順位をつけて住宅改修や福祉用具の準備をすることで、安全に過ごせる在宅復帰を進めることができます。また、たとえば段差は蛍光テープを貼って注意喚起するなど、あまりお金をかけずにできる工夫もあります。リハビリテーションのスタッフやケアマネジャーはこうした知恵をたくさん持っている人が多いので、アドバイスをしてもらうとよいと思います。是非、活用してください。

上林里佳さん
上林里佳(かんばやし・りか)
京都市出身。上林里佳社会福祉士事務所代表。日本意思決定支援推進機構理事。成年後見人。社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、証券外務員。元証券会社・元地域包括支援センター職員。福祉、医療、法律、金融機関に対し「認知症高齢者対応実践編」「認知症高齢者の意思決定支援」「シニア層の健康と医療」「成年後見人」「高齢者虐待対応」等の講演を行う。「認知症の人にやさしい金融ガイド~多職種連携から高齢者への対応を学ぶ」等、共著多数。

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