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今日は晴天、ぼけ日和

町の理容室で髪と心をリセット わずかな日常会話が社会への架け橋に

《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》

「お父さん! 床屋予約したから行ってよ!!」「勝手に・・・面倒だな」

一郎さんは、家にこもりっぱなし。
そのせいで体力も意欲も落ちっぱなし。

でも散髪だけは、どうしようもない。

シャキシャキ「今年の夏はお神輿かつごうかなって」シャキシャキ「神輿ならかついだよ」そうなんですか!!

来てしまえば、散髪は気持ちがいい。

話しやすい話題に
「誰かと話すのもいいもんだな」
と、こっそり思う一郎さん。

笑顔で床屋をあとにする人

身も心も、すっきりさっぱり。
「これからは、出かけてみるか」
と、一郎さん。

…さて問題です。
一郎さんにこの明るいきっかけを
作ったのは誰でしょう?

答え : 一郎さんのご家族と、店員さんです。

ご家族は、引きこもっている一郎さんの状況をあらかじめ店員さんに話し、
店員さんは
「そんな一郎さんにあった時間を提供する」
という視点でサービスを行ったのでした。

実はこのストーリーは、
私のご近所の理容室を、下敷きにしています。

「うちの母、認知症があって外に出たがらないの」
「家族に障害があって、髪を切りに行くのが大変で…」
「一人で出歩かれるのが心配」

そんなご近所さんの
『うちうちの困り事』が
その理容室では気楽に交わされています。

若い店主さんたちは、
認知症や障害などの知識が
福祉関係者のようにあるわけではありません。

それでも「なにができるだろう?」と
高齢者の休憩場として店内を勧めたり、
本人の症状を聞きながら
「じゃあシャンプーだけ」などと
その人にあったサービスをされたりしています。

実は一般の人こそ、専門家では思いつかない、
かゆいところに手が届くアイデアと
実行力を持っていたりします。

もしかしたら、ご近所さんと
「家族でうちうちで」
と思うような困り事を分かち合うことは、
話すほうも聞くほうも、
勇気がいることかもしれません。

けれど暮らしなかで
分かち合われるそれこそが、

人の「生きる」を自然に支える突破口になるのです。

《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》

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