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義母と嫁の衣替え “心も替え”て挑むべし もめない介護135

旅立つ人
コスガ聡一 撮影

認知症介護が始まると同時に直面した「片づけ」の問題。以前、この連載でも紹介したことがありますが、なかでも「洋服の片づけ」は気になるけれど、手をつけづらいもののひとつでした。

というのも、離れて暮らしていると「しょっちゅう着ている服」ぐらいはうっすら分かるものの、「あまり着ていなさそうな服」が、本当に着ていないのかどうかまではハッキリしません。また、クローゼットの中にしまわれたままになっていそうな服も、もしかしたら義父母にとっては思い入れの強いアイテムかもしれません。さらに、義母は「もの盗られ妄想」が顕著だったため、下手に洋服を処分すると「2階からドロボウがやってきて、洋服を盗んでいった!」と不安や怒りに拍車をかける可能性もありました。

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ただ、洋服がたくさんあるとそのぶん、管理の手間は増えます。寝室のクローゼットにリビングの引き出し、2階に置かれている洋服ダンス……と、あちこちにしまうおかげで、目当ての洋服が見つからなくなる。その結果、義母が「お気に入りのカーディガンを盗まれた」「勝手にセーターを拝借していくのはやめてほしい」と嘆くといったことも、日常茶飯事でした。

認知症がある親と「衣替え」をするコツ

機会があれば多少、洋服を整理し、着たいものをパッと取り出せる環境をつくれるとよさそう。頭の片隅ではそんなふうに思いながら、なかなかきっかけがつかめずにいましたが、チャンスが巡ってきたのは「衣替え」のときです。

「そろそろ寒く(暑く)なってきたので衣替えをして、季節にあった洋服を取り出しやすいようにしましょう」

単なる整理整頓だと警戒心が働くのか、渋っていた義母も「衣替え」はすんなりOK。むしろ、ウキウキとした様子で「そろそろ、やらなくちゃと思ってたの!」「ひとりだとおっくうになっちゃって、手をつけられないのよね」などと歓迎してくれました。

そこで今回は、認知症がある親と「衣替え」をするときのコツについてご紹介します。

(1)「処分」を前提にしない

衣替えは洋服の整理整頓に着手する格好のチャンスとお伝えしましたが、それはあくまでも、子ども側の都合。目先の片づけのために必死になるより、「親の意向は尊重する」というスタンスをプレゼンする機会ととらえるのがよさそうです。

まずは親に「この子は断りなく、捨てたりしないんだ」と思ってもらう。その上で、たとえば、「足の踏み場がない状態で転倒のリスクがあるのが不安」という状態なら、床に置きっぱなしの洋服をどう片づける?の算段をするといったステップを踏むのがおすすめです。

一足飛びに「捨てるしかない」と決めてかかると、親の必死の抵抗に疲労困憊するどころか、信頼関係にもヒビが入り、その後のやりとりに苦労するなど、踏んだり蹴ったりになりかねません。

処分せずに片づけるときに便利なのが、以前もご紹介した100円ショップの「シートバッグ」。かなりの収納力があり、「おそらく着ないであろう洋服」「季節外れの洋服」とざっくり分類し、放り込むだけでOK(わたしは一緒に、防虫剤も入れておきました)。使わない寝具などの保管にも役立ちました。

(2)衣替えのついでに「思い入れが強い服」「着心地がいい服」をヒアリング

衣替えは状況が許せば、親御さんと一緒にやるのをおすすめします。

「横からあれこれ口を出されると、作業が進まないから自分ひとりでやりたい」という話も聞きますし、たしかにそういう側面もありますが、衣替えは洋服にまつわる親の好みや感性、思い入れなどを知るチャンスでもあります。

「このセーターはね、姉(義母の姉)が編んでくれたものなの。自分でも編みたいと思ってやってみたけれど、とても姉のようにはできなかったわ」
「こんなにボタンが多い服はもう、あんまり着ないかもしれないわね」
「このブラウスは軽くって、とっても好き」

おしゃべりを通じて、個々の洋服に対する親のこだわりを把握します。たとえば「手編みのセーター・カーディガン」は、通常であれば手入れが大変だし名前も書きづらいので、できれば施設入所で持ち込むラインナップに加えたくありません。でも、義母の場合は「身につけるだけで気持ちが落ち着く“お守り”に近いアイテム」にもなっていたので、あえて1着は持ち込むといったこともしました。

洋服を1枚、1枚広げながら、好きな色やデザインを確認したり、脱ぎ着のしやすさをどう思っているかなどを尋ねたりできるのも、衣替えならでは。

親が、一緒に衣替えをするほど乗り気ではない場合は、「似たような色・デザイン」をピックアップし、「こういうのが好み?」などと声をかけてみるのも一案です。

(3)親が元気なら、一緒に洋服を買いに行ってみる

義父母との衣替えを振り返ってみた時に、「やっておいてよかった」と思うのが一緒に買い物に行くことでした。
なかまぁるで記事をご覧になっている方はすでにご存じかと思いますが、認知症になったからといって、突然、何もかもできなくなるわけではありません。認知症とうまくつきあいながら、日常生活を送られている方は大勢居ます。ただ、認知症の進行具合によっては、買い物が難しくなることもあるし、認知症以外の理由で外出がままならなくなることもあります。

もっとも、親は元気で、行こうと思えば行けるけれど、一緒に買い物に行くと時間がかかるので面倒ということも少なくありません。ここは費やせる時間との相談にもなり、悩ましいところですが、事情が許せば、行けるうちに行っておくのをおすすめします。たとえ、「季節に応じた洋服を買う」という目的が1回では果たせなかったとしても、親と一緒に買い物に行くメリットはあります。

売り場を一緒に歩くとき、親はスタスタ歩くのか、それともまごまごしているのか。
自分がほしいものを見つけられるのか。すぐには見つけられないまでも、「こんなものがほしい」と意思表示できるのか。
どれぐらいの時間、「買い物」に集中できるのか。すぐ疲れてしまうのか……etc。

買い物の最中のちょっとしたひと言は、親の「今」を知るヒントになりますし、上着などはちょっと羽織ってもらうと、サイズ感もチェックしやすくなります。

親のこだわりを知れば、やがて代わりに購入することも

どうしても必要なものはあとからネット通販で調達するなり、購入して送るなりすればいい!と割り切り、親との時間を楽しむのも手です。ああでもない、こうでもないと言い合いながら、ユニクロの広い店内を義父母と夫、私の4人でウロウロ歩き回ったのは、期せず貴重な思い出になりました。

どうでもいい主張に思えても、親の言い分に耳を傾けてみる。その時間は、何かしら報われる日がやってきます。衣替えを通じて知った親のこだわりをふまえた上で片づけると、親ともめたりぶつかったりするリスクが軽減できます。結果、お互いに不愉快な思いをしなくて済むし、ストレスも軽減できるはず。また、「買い物が難しくなった親の代わりに、洋服を購入する」「施設入所の際、持ち込む服を選ぶ」といった場面で役に立つ日もやってきます。

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