認知症とともにあるウェブメディア

もめない介護

服の山を整理して安全対策 片付けを阻むのは認知症?もめない介護21

雑然とした部屋のイメージ
コスガ聡一 撮影

認知症にはさまざまな予兆があると言われます。「片付けができなくなる」ことも、そのひとつ。整理整頓したい気持ちはあるけれど、片づけるための段取りが思い出せなくなることもあれば、片づけようと思っていたこと自体を忘れてしまうこともあります。

離れて暮らす義父母が立て続けに認知症だと診断されたときも、やはり義父母の自宅はなかなかの散らかりぶりでした。要介護認定を受け、訪問介護(ホームヘルプ)や高齢者向けのゴミだし支援(地方自治体が実施)を利用しはじめると、目に見えて部屋がきれいになっていきました。

ヘルパーさんの助けを得て、日常生活のなかで生じるゴミを捨てられるようになった影響が大きかったようです。一方、その後も長く、悩みの種となったのが洋服の問題でした。

「たくさん洋服があると、着替えのときに混乱しやすくなるので、数をある程度調整したほうがいい」
「季節にあったお気に入りの服だけを出しておくと、本人も着替えやすい」

周囲の介護経験者からアドバイスをもらい、なるほど!と思ったのですが、あいにく義母には「ドロボウが夜な夜な寝室を訪れ、洋服を盗んでいく……」という、“もの盗られ妄想”があります。

しかも、衣装持ちで押し入れクローゼットには、若い頃に着ていた仕事用のスーツや外出用のブラウスやワンピースなどがぎっしり。タンスもいくつかありましたが、まったく洋服がおさまりきらず、寝室のあちこちにたたんで積みあげてあるような状態でした。

母娘バトル勃発で、義姉へのお願いはあえなく断念

「片づけようとすると、母が怒るので無理」

当初、洋服の片づけは義姉にお願いするつもりでしたが、母娘バトルが勃発してしまい、あえなく断念。義姉曰く、「昔から、和室(寝室)はプライバシー空間だから入るなと言われていた」とのことで、洋服の片づけについてもピシャリと断られたそう。

義母にそれとなく尋ねても、「まだ肌寒くなるかもしれないし、もう少しこのままでいい」「片づけはそのうち、自分でやるからいい」と、なかなか首を縦に振ってくれません。

ただ、寝室に積みあげた洋服の山はたびたび崩れ、足の踏み場がなくっていることも少なくありません。ヘルパーさんから、デイ通いのための着替えを探すのに苦労した話も聞いています。さて、どうしたものか。

「あれこれ理由をつけて、洋服を処分されるんじゃないかって不安なんじゃないの? 『絶対に捨てませんから』って最初に約束しちゃったら?」

そうアドバイスしてくれたのは、わたしの母親でした。「おばあちゃんもそうだったよ。わたしだって、勝手に捨てられたらイヤだと思うもの」と、母は言います。

ヨレヨレのパジャマも、きちんと収納

わたしはさっそく、100円ショップで「シートバッグ」を赤と青の色違いで何セットか購入し、義父母の家に持ち込み、こう伝えました。

「畳の上に洋服をそのまま置いておくと、うっかり踏んですべって転ぶ心配があります。骨折すると、寝たきりになってしまうかもしれなくて、とっても危険なので、このバッグにまとめましょう」

すると、義母は「そういうバッグはどこで売っているの?」と興味しんしん。しめた!と思い、「100円ショップです。はい、この赤いチェック柄がおかあさん用です。季節ごとに分けておくと、衣替えのときにラクなのですよ」と、シートバッグを渡しました。

義母は「便利な世の中になったものねえ」と、バッグをしげしげと眺め、手近にあった洋服を中に入れたり、出したり、入れたり、出したり……。その横でわたしは「ホント、そうですね。100円ショップも大充実ですよ」なんてあいづちを打ちながら、まずは義父の洋服をいくつかのシートバッグに仕分けしていきます。

失禁の汚れがそのままになっていた下着類だけは、義母の目を盗んで処分しましたが、それ以外はとにかく、「捨てない」を最優先。もう着るのは難しいであろうヨレヨレのパジャマも、古ぼけたワイシャツもぜんぶ目をつぶり、季節ごとの仕分けに徹しました。

そうこうするうちに義母もリラックスしてきて、「帽子はこっちにしまうの? 夏物はこっちかしら」とノリノリに。3時間ほどかけて、床に散らばっていた洋服のほとんどをバッグに納めることができました。最後は、養生テープにマジックペンでバッグの中身を記入し、見えやすい場所に貼り付けたあと、2階に運び込んでミッション完了。

大事なのは、可能な限り本人が嫌がることを回避すること

「あっという間に部屋が片付いちゃったわ。あなた、すごいわね」
「おかあさんのおかげですよ。スッキリしてよかったですね」

じつはこのとき、2階に運んだのは失敗だったことが、のちに判明します。数日後には「やっぱり盗まれないか気になるの」と義母が言いだし、結局は自分たちで元の和室に戻してしまったそう。幸いなことに事故にはなりませんでしたが、転倒防止のために片づけたのに、大きな荷物を抱えて階段を上り下りして、足でも踏み外したら目も当てられません。

ただ、シートバッグそのものはずいぶん義母に気に入られたようで、1階に下ろした後も洋服はシートバッグから取り出さずにキープ。

「何が入ってるのか、外から見てもわかるようになっているから便利なの」
「衣替えのときラクになるから、あなたも使ってみたら? 100円ショップで売ってるらしいわよ」
などと、しきりにヘルパーさんたちに勧めていたとか。

何がツボにハマるかはわからないものです。ただ、大事なのは可能な限り、本人がいやがることをうまく回避し、好ましい方法で生活の安全を確保すること。トライ&エラーの先にはきっと、本人にとっても周囲にとっても快適な方法があると信じることが、最初の一歩なのかもしれません。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について

認知症とともにあるウェブメディア