地域で違う「いつもの暖房」高齢者の空調管理の落とし穴 もめない介護134
編集協力/Power News 編集部
肌寒くなってきました。この時期になると思い出すのが、夫の実家の「暖房」をめぐるすったもんだです。
夫の両親がふたりそろって認知症だとわかったのは、2017年春のこと。訪問看護や訪問介護などを次々に導入し、高齢夫婦のふたり暮らしのメドが立ったころには夏にさしかかり、当時の気がかりなことと言えば、もっぱら「熱中症」でした。
暑くてもエアコンをつけたがらない。ヘルパーさんにエアコンをつけてもらっても、「もったいないから」と消してしまう。冷房を巡る攻防戦は、この連載でもご紹介しましたが、寒くなってくると新たな敵に直面します。「暖房をどうするか」問題です。
そもそも冬場、親がどのように暖を取り、部屋の温度を快適に保っていたのか。湿度に気を配っていたのか、気にしていなかったのか。さっぱりわかりません。
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「床暖房がメインだったと思うけどなぁ……。ほかにも何か使ってたのかなぁ」
夫が実家で暮らしていたのは20年以上も前のことなので記憶もおぼろげです。
当時、義父母との電話のやりとりは「往診日時のリマインダー」など、シンプルなやりとりであればOK。でも、話の内容がちょっと込み入ってくると理解しづらく難しい状態でした。何を質問されているかうまく理解できないと、義父母のいらだちや不安の原因になります。そして、そのイライラは長引くこともわかっていたので、今回の暖房に関する話などは、電話で持ち出すのは避けたいところです。
実家の古くなったガス栓。使える? 使えない?
次回、実家に行ったときにでも聞いてみよう。そんなふうにノンキに構えていたら、ヘルパーさんから切羽詰まった電話がかかってきました。
「A子さん(義母の名前)から“床暖房を使うのに、ガス栓を開けてほしい”と頼まれたんですが、指定された場所のガス栓はかなり古く……。安全かどうかの判断がつかなかったので、開けるフリだけして開栓していません」
なんと! ヘルパーさんと義母のやりとりを聞く限り、夫の実家にはガスで温めた温水を循環させ、部屋を暖める「ガス式」の床暖房が設置されているようです。そしてその床暖房を使うには、専用の元栓を開けるのが必須。でも、私たち夫婦は実家の暖房事情をまったく把握できておらず、ゴーサインを出していいものかどうか判断がつきません。しかもタイミングが悪く、締め切りや出張が重なりまくっていて、ダッシュで実家に駆けつけるのは難しい状況でした。これはマズい!
慌てて義姉に、相談のLINEを送りました。
「お姉さんすみません、状況確認と対応をお願いできますでしょうか(去年も使っていたなら大丈夫な気もしつつ、現時点でのおふたりの記憶を元に開栓するのはこわい気も……。もしかしたら点検などの名目で、東京ガスを呼ぶ必要などが出てくるかもしれません)」
義姉からはすぐ返信が来ました。
「床暖房はガス式で毎年使っています。ストーブより安全なので新築時からあります。今までは問題があったと聞いたことはないのですが、定期点検をやっているかどうか、やっていたとしても最後にいつしたのかはわかりません。メンテナンスは東京ガスに依頼するか、家を建てたときの住宅メーカーにするか実家に確認します。今週末は申し訳ないのですが動けません。とりあえず、エアコンでしのいでもらうように伝えます」
床暖房で謎解きゲーム
そうか、エアコンを使ってもらう手もあった! 「夏場の温度管理」と違って、冬場は洋服を重ね着するという選択肢もあります。年を重ねると気温の変化を感じにくくなるので油断はできませんが、ヘルパーさんに声がけしてもらえれば、重ね着は昔ながらの習慣として、抵抗なく受け入れてもらえるかもしれません。
さっそくヘルパーさんの事務所に状況報告と声がけのお願いで連絡をとっていると、義姉から続報が届きました。
義姉が義父母に確認した情報によると、床暖房は1981年の新築当時から設置されているもので、毎年無料点検が実施されていたそう。ただ、「去年、定期点検を受けた記憶はない」(義父)とも。床暖房の仕組みや、ガスの元栓の位置も義父が詳しく教えてくれたと言います。おとうさんブラボー!
ただ、その後のやりとりで、「床暖房も含めて定期点検してもらっていた」は、義父の記憶違いだったことが判明。東京ガスに改めて、相談してみることになりました。さらに、ヘルパーさんと「ガスの元栓」だという想定でやりとりしていた“それ”は「温水を流すコック」だということも判明。ややこしい! 謎解きゲームのような様相を呈しながら、床暖房使用に向けて一歩一歩進んでいきます。
“いつもの暖房”は、地域や家庭によってさまざま
ヘルパーさんからの最初の連絡から2週間後。義姉の立ち会いのもと、東京ガスによる点検と試運転が行われることに。
ところが! 待ちきれなかった義父母が独自に東京ガスに連絡をとり、点検日を待たずに「温水コック」を開けてもらっていたというハプニングも発生。ただ、床暖房は使えるようになったものの、義母曰く「温度が高すぎる」。さらに、「お風呂にお湯を入れようとしたら、水しか出ない」(!)という新たな問題が勃発していました。そっち!?
お風呂が沸かなくなっていたのは、室外に置いてあるガスの元栓が閉まっていたのが原因。床暖房とは関係ありませんでしたが、いずれも東京ガスの管轄だったので点検日にオールクリアとなりました。てんやわんやの末に、ようやく義父母の冬支度が整うことに。一度使えるようになってしまえば、床暖房はつけっぱなしでも火事の心配もありません。穏やかに暖まるので、高齢の人に優しく、家族としても安心に過ごせるのも発見でした。
冬場に活躍する暖房器具はバリエーションに富んでいます。夫の実家の場合は床暖房とエアコンが中心でしたが、灯油ストーブやファンヒーター、こたつなど、地域によっても家によっても“いつもの暖房”は変わるはず。昨年使ったものが、今年も問題なく使えるのかどうか。そもそも、親はこれまでどんな暖房器具を使ってきたのか。もし、メンテナンスや修理が必要だとしたら、どこに連絡をとればいいのか。離れて暮らしている場合はなおさら、寒さが本格的になる前に確認しておくことをおすすめします。