複雑な成年後見制度 なぜ人によって言うことが違う? もめない介護127
編集協力/Power News 編集部
義父母の認知症介護が始まったとき、戸惑ったことのひとつに「成年後見制度」に関する助言がありました。
「いまのうちに、できるだけ早く後見人になったほうがいいんじゃない?」
「下手に法定後見を申し立てると、その後が面倒だし、お金もかかるからできるだけ使わないほうがいい」
「後見人がいないときっと困るわよ」
「家族がいれば、あわてて後見人を立てる必要なんてない」
それぞれ良かれと思って教えてくれるのですが、人によって言うことがまるで違う。後見人を立てたほうがいいのか、そうでもないのかという違いに加えて、「家族でもなれる」と言われたかと思うと、「家族はなれないので気をつけて」と教えてくれる人もいて、何が何やら……。
何をどうしたらいいものかと途方に暮れながらいろいろ調べてみると、人によって言うことがまちまちな理由がわかってきました。
認知症などの理由で判断能力が不十分な人を保護・支援する「成年後見制度」は、任意後見制度と法定後見制度の2つに大きく分けられます。
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任意後見制度は、本人が十分な判断能力を有する時にあらかじめ、任意後見人となる人や将来その人に委任する事務(本人の生活、療養看護及び財産管理に関する事務)の内容について、任意後見契約を結びます。本人の判断能力が不十分になった後、任意後見人がこれらの事務を本人に代わって行う制度です。
つまり、後見される本人が「誰に後見人をお願いするか」を自ら指名する仕組みです。
成年後見人の8割は「親族以外」
一方、法定後見制度は、本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所によって選任された成年後見人などが本人を法律的に支援する制度です。
こちらは「誰に後見人をお願いするか」を決めるのは家庭裁判所です。申し立ての際、候補を挙げることはできますが、指名はできません。東京家裁本庁後見センターがまとめた「よくある質問」には以下のように解説されていました。
Q. 後見の選任には、親族の意見は反映されないのですか。
A. 意見をお聴きした場合には参考にしますが、そのとおり判断されるとは限りません。
最高裁判所事務総局家庭局がまとめたデータによると、2020年に選任された成年後見人の8割を「親族以外」(弁護士、司法書士、社会福祉士、市民後見人等)が占めていました。
「後見人を早めにつけたほうがいい」あるいは「後見人をつけるとかえって面倒」というアドバイスは、それぞれ経験や何らかの知見に基づくものではあったかと思いますが、少なからず制度への誤解も混ざっていたように思います。
また、任意後見の話をしているのか、法定後見の話なのかもあいまいでした。メリット・デメリットをよく知った上で選択するのならまだしも、よくわからないままに飛びつくと、“そんなはずじゃなかった”に陥りかねない、危うさもありました。そもそも、アドバイスした人がどこまで制度のことを理解して言っているのか、いま振り返ってみると認識差はかなりあったように思います。
かかりつけ医に勧められた法定後見制度
もの忘れ外来で、後見制度の利用を勧められ、ギョッとしたこともあります。
この連載でも紹介してきましたが、義母はもの盗られ妄想があり、「2階の女ドロボウにお金を盗まれた」「さっきまであったお札をすべて小銭にすり替えられた」など、金銭にまつわる訴えも多くありました。連日のように愚痴を聞かされる義父はへきえきしていたようで、「どうにかならないですか」と医師に相談を持ちかけたことがあります。
「お金の管理は、息子さんたちにお任せになったらどうでしょうか」
医師の返事は義父にとって想定外のものだったようで、明らかにムッとしていました。黙り込む義父を見て、医師はこう続けました。
「もし、息子さんたちに任せるのがちょっと……ということであれば、法定後見制度を使って専門家にお願いするという手もありますよ」
義父が力強く「利用しません!」
当時はすでに、後見制度についてそれなりに調べてあって、「ひとまず行けるところまでは親と相談しながらお金の管理を進め、どうしても必要になったら申し立てよう」と夫と決めたばかりでした。たしかに、義母はしょっちゅうプリプリ文句を言っていましたが、最終的には「コトを荒立てたくない」に着地することがほとんど。
お金の管理そのものも、そこまで切迫した状況ではなかったのです。
先生からすると、会話の流れでさらっと持ち出しただけで、本気で勧めていたわけではないのかもしれません。でも、ここで義父が法定後見に乗り気になると、家族としてはぶっちゃけ面倒……。しかし、横から「法定後見はやめましょう」と口をはさむのもおかしい。ハラハラしながら見守るしかありませんでした。
「法定後見は利用しません!」
義父が力強く言い放ったときはホッとするやら、驚くやらでした。それにしても、ふだん医師のアドバイスは粛々と受け止めることが多い義父にしては意外なほど、バシッとノーを突きつけています。いったい、何が……?
法律やお金の専門家が医療や介護に詳しいとは限らない
義父いわく「法定後見は、専門家による不正も横行していると聞くので利用する気はありません。つい最近のテレビで見たばかりです」
なるほど……! 息子夫婦に任せるのもイマイチ納得がいかないし、かといって専門家にも任せたくない。そんな出口なしの結論を堂々と宣言する義父に、主治医の先生も苦笑い。「ご家族でよく話し合われるといいですね」という締めの言葉をいただき、診察室を出ることに。
診察が終わってからも義父は、主治医のアドバイスが納得いかなかったようで、「なぜ、成年後見制度なのか」とブツブツ言っていました。義父がどのような番組を見たのかわかりませんが、よほど、テレビの印象が強かったようです。
「医療や介護の専門家だからといって、医療費や介護費用に詳しいとは限りませんし、法律やお金の専門家が医療や介護の実情に詳しいとは限りませんからね」
「まったくだね。その通りだ」
義父に言いながら、自分自身も気付かされる思いでした。言ってしまえば当たり前のことではあるのですが、身内が認知症になってあわてふためいているタイミングだと、忘れてしまいがちにもなります。「専門家が言うなら間違いないだろう」と必要以上に判断を委ねたり、そもそも、その分野の専門家というわけでなくとも、自信たっぷりに言われるとすがりたくなる。誰しも、こうした心理が働くことを知っておくことも、不要なトラブルを回避するための助けになるのではないかと思うのです。