手づかみで食事する認知症の母 手助けした方がいい?【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
作業療法士の野村和代さんが、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.同居している認知症の母(79歳)は、食事の際に箸を使わずにすぐに手づかみで食べようとします。介助したほうがいいのか、手づかみでも1人で食べさせたほうがいいのか、悩みます。(49歳・女性)
A.悩むお気持ち、よくわかります。食事の時間は1日に3回訪れますし、食べることは命をつなぐ大事な行為です。今までできていたことができなくなって、どう支えればいいのか、わからないですよね。
お母さんはなぜ箸を使わないのでしょうか。最初から全く使わないのであれば認知症の症状である失行(手足の運動機能には問題がないのに、簡単な日常の動作ができなくなる)によって、箸を操作することが難しいのかもしれません。食べ始めるときは箸を使うけれど、次第に手づかみになってしまう場合は、認知症によって食の衝動が抑えられず、箸の操作がもどかしくなって手づかみになるのかもしれません。
しかし手づかみで食べられるということは、食べ物を目で確認して手指でつかみ、口まで運び入れるというように、目と口と手の協調運動ができているということです。また、つかんだ食べものを口に運んで入れる際にも口の中に入れやすいように指を使うなど、実は複雑な工程を瞬時に行っているのです。こうした工程ができるということは、大脳にある視覚情報と体性感覚情報を統合する場所が機能しているといえます。
介助されて食べる際には、こうした機能は使う必要がありません。つまり、手づかみでも自分で食べるほうが、脳は活性化しているのです。このため、たとえ手づかみでも自分で食べられるうちは自分で食べてもらったほうがいいのかもしれませんね。
とはいえ、目の前で食べものをぐちゃぐちゃにして食べられると、気分が悪くなる人もいるかもしれません。そこで手づかみでも食べやすいように、米飯ならおにぎりにするのがおすすめです。「天むす」のようにおかずを入れてもいいでしょう。誤嚥しないように、米飯やおかずは少なめにすると食べやすいですね。パンもお好きなら、サンドイッチにしてはいかがでしょうか。おかずも一口大にしたり、野菜もスティック状にしたり、食べやすいように工夫できます。
スプーンなら使えるのでは、とお考えになる方もいるのではないでしょうか。認知症の人が手づかみになってしまうのは、前述したような理由が考えられるので、スプーンでも難しいかもしれません。そもそも大人になってからスプーンを使って食べるのは、カレーライスなど限られた場合だけですよね。かえってなじまずに、結局は手づかみになってしまうことも十分に考えられます。試してみる場合は、通常のスプーンだと料理によっては食べにくいので、先割れタイプのスプーンがおすすめです。
認知症が進行して本人が食べなくなってしまうと、家族は悲しい思いをします。自分で食べられるうちは自分で食べてもらい、食事の時間をできるだけ楽しく、おいしい時間にできるといいですね。
【まとめ】手づかみで食べる認知症の母。介助したほうがいい?
- 手づかみでも脳は活性化するため、自分で食べることを優先する
- 手づかみでも食べやすいように工夫する