認知症とともにあるウェブメディア

もめない介護

知らなかった親のアレルギー「緊急」の前に要確認 もめない介護123

食事をするひと

みなさんは、親御さんのアレルギーの有無、食の好みをご存じですか? 
わたしは義父母の認知症介護がスタートした時、食べ物の好き嫌いどころか、アレルギーの有無も知らない状態でした。認知症だと分かり、義父母の生活にもあちこちほころびがでていることが次々に判明するなか、なんとか老夫婦2人暮らしを維持するのにてんやわんや。たとえば「夏場の水分補給として、どんな飲み物なら飲んでくれるのか?」など、必要に迫られてピンポイントで注目することはあっても、食の好み全般に目を向ける余裕はほとんどなかったように思います。

そんなわたしが初めて、「そうか! 親のアレルギーの有無や食の好みってけっこう大切な情報だったのか」と知ったのは、義父が肺炎で緊急入院した時です。看護師さんから渡された「患者情報」を書き込む用紙に細かく質問項目が載っていましたが、ぜんぜん書けなかったのです。

こちらも読まれています : 夏場の「熱中症対策」しくじりエピソード

その場には義母が一緒にいましたが、「おかあさん、わかります?」と聞いても、「どうかしらねえ? 好き嫌いなんて特にないと思うけど」と頼りない返事。認知症で忘れてしまったのか、そもそも興味がないのかもわかりません。

案外知らない、親の生活習慣や好きな食べ物

アレルギーがあるとは聞いたことがないけど……ホントに?
「朝食はパンがいい」というようなことを言っていた気がするけど、コーヒーって飲んでたっけ?
チョコレートは好きだったような気がする……。

あやふやな記憶を引っ張り出してなんとか答えましたが、空欄ばかり。なんとも申し訳ない気持ちでいっぱいでした。義父が元気になったら、きちんと聞かなくっちゃ!と大反省したのですが、入院中はシチュエーションもあってなかなか聞けず。退院後のリハビリのために介護老人保健施設(老健)に入所する際、またまた同じように「用紙に記入できない」「質問に答えられない」とがくぜんとする思いを味わいました。

老健の入所手続きは夫と一緒でしたが、夫が持っている情報も似たり寄ったり。いくら親子でも独立して何十年も経っていると、親の生活習慣や好みなどは知らないことばかりです。年をとってサポートが必要になる兆しが見えてきたぐらいから、改めてリサーチする必要があると思っていたほうがよさそうです。

ただ、離れて暮らしていると、親の暮らしを観察できる機会は限られています。そこで、こんな方法を試してみました。

(1)食事の話題が出たら、ついでに「好物」を聞く

「食欲はどうですか?」
「食事をおいしく召し上がられてますか」
これらは、もの忘れ外来受診の時などによく聞かれる質問のひとつです。たいてい、義父母は「食欲はあります」「おいしく食べています」と優等生な返事をします。体重が極端に減っているわけではないので、実際に食欲はあるのだろうと推測できますが、その実態はよくわかりません。

診察が終わり、会計を待つ間のおしゃべりのなかで、もう少し聞いてみます。
わたし 「このおかずがあると、食欲がわくなあ!と思うものは何ですか?」
義母 「どのおかずも好き嫌いなく食べますよ。お父さまはどう?」
義父 「うん……好き嫌いはしません。しいていえば、豚肉かな」
わたし 「豚肉はどんな食べ方が好きですか。しょうが焼きとか?」
義父 「しょうが焼き! いいですなあ」
わたし 「タマネギは入れますか?」
義父 「タマネギはどちらでもいいですな」
義母 「あら、そうなの」

「好き嫌いはない」「とくにこだわりはない」と、つれないリアクションが返ってくることも少なくありませんが、あまり気にせず、話をしているうちに思いがけない好みやこだわりがひょいと顔を出すことも。あくまでも、おしゃべりの延長線上のイメージだと義父母もリラックスして話してくれますし、こちらも気がラクでした。

質問し、繰り返し登場するものはメモ。厳密に考えると、事情聴取みたいになってしまい親も話しづらくなるしこちらも疲れてしまうので、気が向いた時に“ついでに”聞くぐらいのいい加減さが良いあんばいでした。

(2)アレルギー情報は医療・介護チームとやりとり

アレルギーについては、義父母に聞くだけではなく主治医や訪問看護師さん、ヘルパーさんともやりとりしました。うちの義父母の場合、目立ったアレルギー症状はありませんでした。ただ、今後もし診察や日常のやりとりのなかで何か気になることや、アレルギーに関係するような症状が見られた時には「家族にも教えてほしい」と、関わってくれている医療・介護の専門職の方々に伝えています。

また、肌トラブルなどがあった時も都度、「アレルギー症状の可能性」や「本人からの訴え」について確認するようにしていました。

離れて暮らしていると、必ずしも診察に立ち会えるわけではありません。むしろ我が家の場合は、もの忘れ外来への通院以外は訪問診療にまとめることで、家族の付き添いをしなくてもすむようなシチュエーションを作っていました。何か変化があったり新たな治療が必要になったりすれば、当然、家族に連絡が入りますが、事細かに情報共有されるかというと、そうでもありません。

「たいしたことではない」という医師・看護師の判断や、「家族は当然、知っているだろう」という思い込みに基づき、こぼれ落ちる情報は発生するという実感がありました。すべて把握したいなら、立ち会うのが手っ取り早い。でも、そうすると家族の負担が重くなる。我が家にとっての落としどころは、訪問診療は立ち会わないけれど、情報共有のかじ取りについては家族も積極的に関わるというものでした。

(3)発言だけではなく、行動も観察

さまざまなおしゃべりを重ねるなかで、義父はチョコレート、義母はアップルパイが好きだとわかりました。義父は、チョコレート単体はもちろんのこと、チョコレートクッキーもチョコレートデニッシュも大好き。チョコレートアイスにも目がありませんでした。

寡黙で真面目を絵に描いたようなキャラクターの義父でしたが、晩年は「チョコレートソフトが食べたい!」「チョコレートをもっと買ってきてほしい!」と強くリクエストする場面が増えたのも印象に残っています。

自分の好みにより一層、忠実になった義父とは対照的に、義母はその日の気分で「クッキーはとくに好きでも嫌いでもない」「チョコレートはあれば食べるけど、なくてもいい」などと言うことが多かったように思います。そう言いながら、義父が食べているクッキーを「あら、おいしそう!」と横取りしたりするのでややこしいのですが、こちらも深刻にとらえすぎず、“今日はそういう気分なんだな”と考えるようにしていました。そして、発言と行動が大きくズレているような時は、行動軸で考えます。

忘れてしまうこともあれば、気分が変わることもある。ウソをついているわけではなくて、どれもご本人の中ではつながっている。でも、周囲からするとチグハグな言い分に聞こえることもある。また、心のありようをそのまま言いたくないことは誰にでもある。「あの時こう言っていたのに!」と腹を立てるより、「今日のことは今日のこと、明日は明日の風が吹く」ぐらいに思っておいたほうがお互いに気がラクだ、ということは、義父母との関わりで学んだことのひとつです。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について

認知症とともにあるウェブメディア