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熱中症対策の「しくじり」エピソード、冷えてます もめない介護122

入道雲と観覧車
コスガ聡一 撮影

暑い日が続くと、気がかりなのが熱中症。もの忘れ外来の受診時などでも、「くれぐれも水分をしっかりとってくださいね」と念押しされます。高齢になると「のどが渇いてから飲もう」では水分不足になりやすく、(のどの渇きを感じにくくなっている)ご本人は「のどが渇いていないから平気」とケロリとしているけれど、その間にも脱水症状に陥っているかもしれない……といったことを繰り返し説明されました。認知症介護が始まって最初の夏は、いつ熱中症で倒れるのかと、不安と緊張で身震いする思いをしたものです。

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とにかく、熱中症で義父母が倒れるのだけは避けよう!と気合十分で迎えた夏でしたが、こうした頑張りは空回りしがちでもあります。以前、この連載「高齢者の水分補給対策はどこにでもある道具が役立つ」では、うまくいった方法を紹介しましたが、今回は水分補給をめぐる“しくじり”についてご紹介します。

(1)「水を買うこと」への抵抗感


どれぐらい飲んだか「量」がわかったほうがいいと担当ケアマネに教えられ、最初に購入したのは500mlペットボトルのミネラルウオーターです。ネットスーパーで24本入りを箱買いするのと同時に、夕食だけ利用していた宅配弁当サービスにお願いし、お弁当と一緒にペットボトルの水を1本持ってきてもらうことにしました。こうしておけば、仮に箱からペットボトルを取り出して飲むのが難しくとも、少なくとも1日1本は飲めるはず! 準備万端!と思い込んでいました。

ところがフタを開けてみると、箱買いしたペットボトルの水はちっとも減らなかったうえ、お弁当屋さんのほうは義父にキャンセルされてしまいます。お弁当屋さんによると、「なぜ弁当に水がついているのか?」「これはいくらなのか?」と義父に問いただされ、1本120円だと伝えると「必要ないので、明日から持ってこないでください」と断られたと言います。

「熱中症対策のため」と私からも改めて説明を試みましたが、義父はピンと来ないようで「それにしても高すぎる」の一点張り。横から義母が「先方もご商売ですからねえ」と、一見理解を示したふうのイヤミをチクチク言うものだから、話はややこしくなる一方です。まいった!

八方ふさがりから抜け出すきっかけは、母から言われたひと言です。
「私たちもそうだけど、若い人たちと違って“水を買う”という習慣がない世代にとって、ミネラルウオーターってすごくもったいなく感じるのよ。水はタダだと思ってるから」

言われてみればごく当たり前のことかもしれませんが、その抵抗感にまったく意識が向いていませんでした。弁当屋の1本120円に文句を言い、箱買いした分には何も言わなかったのは「箱買いはきっと安いはず」というイメージや「息子夫婦からのプレゼント」という思い込み、手配した嫁への遠慮などが重なった偶然の産物かもしれないと思い当たったのです。

(2)パウチタイプのゼリーは不慣れな人には飲みづらい

「夏場の水分補給にはゼリーがおすすめ」という情報をネットで見かけて、購入したのがパウチパックに入ったゼリー飲料(森永製菓「inゼリー」など)です。いま思えば素直にフルーツゼリーでも買えばよかったのですが、「せっかくだからビタミンやプロテインなどをついでにとってもらえたら一石二鳥」と考えたのが失敗の始まりでした。

いくつか味見をして、さっぱりした味だったので「これからいける!」と思ったのですが、結果はさんざん。ほとんど手をつけてもらえないまま冷蔵庫の片隅を占拠していました。

あるとき、おそるおそる義父に「おいしくなかったですか?」と聞くと、「そうだねえ」と苦笑い。義母が「これね、この人には開けられないの!」と教えてくれました。

パウチタイプのゼリーは、まず小さなプラスチックのフタをねじって開ける必要があります。さらに、フタが開けられたとしてもチューチュー吸い出さなくてはいけないという次のステップが! いずれの動作も、義父母のこれまでの生活になかったもので、まったくなじみがありません。苦労して飲みたいほど大好きな味というわけでもなければ、手も出ないわけです。

「この人には無理よ」とうれしそうにダメ出しする義母を、困り笑いでスルーする義父。毎度おなじみの光景とはいえ、おとうさん、不要なストレスを増やしてしまってごめんなさい!

(3)経口補水液はあくまで「脱水症のための食事療法」に用いるもの

「熱中症を心配した息子さんが、市販の経口補水液をたくさん買い込んで冷蔵庫に詰め込んで満足するというケースはよく見かけますね」

ちょっとズレてる“熱中症対策あるある”の話をケアマネさんに聞いていたときに出てきたエピソードです。ドラッグストアでもよく見かける「OS-1」(大塚製薬)が有名ですが、この“経口補水液をたくさん買いこんじゃう”はわたしもやったことがあるのでドキリ。

たしか、いちばん最初に購入したのは義父が風邪をこじらせ、熱が上がったり下がったりしていた時。ヘルパーさんに、念のため用意してほしいと言われて購入した記憶があります。でも、その後もなんとなくドラッグストアで見かけて「もしもの時のため」と複数回、購入しています。

でも、実際にはほとんど手つかず。発熱があった時にヘルパーさんが何度か勧めたけれど、義父は「飲みたくない」と拒否。「緑茶なら飲んでくれたので、お茶にしました」と報告がありました。

改めてメーカーのサイトの「よくあるご質問」を読んでみたところ、こんなQ&Aが載っていました。

Q. 健康な場合に飲んでも大丈夫ですか?
A. オーエスワンは、脱水症のための食事療法(経口補水療法)に用いる経口補水液です。脱水症でない方が、普段の水分補給として飲用するものではありません。
またオーエスワンは、一般的な飲料よりもナトリウム、カリウム等の電解質量が多いので、高血圧の方や腎機能が低下している方は医師にご相談頂き飲用ください。

「なんとなく熱中症にいいらしい」と、ボンヤリとしたイメージで取り入れていたことを大反省! もしもの時の備えとして買っておくのはいいとして、冷蔵庫に何本もキープしていつでも飲めるようにする必要はありませんでした。

こうした失敗を繰り返しながらたどり着いたのが、「500mlペットボトル(お茶)を1日2本ずつ」という方法です。ご本人が飲み慣れていて飲みやすいものを選ぶと、勧められる側も勧める側もストレスがやわらぎます。

「次はどのお茶にしましょうか?」
「ペットボトルのお茶はどれも同じよ」
「最近はこれがおいしいって評判ですよ」
「あら、そう? じゃあ、試してみようかしら」

注文のたびに義母に「好みの銘柄を聞く」というのも、前向きな雰囲気づくりに多少は役に立っていたように思います。「どれも同じ」とつれない返事をしながらも、喜々として相談に乗ってくれた義母を、この時期になると懐かしく思い出します。

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