歯みがき拒否の認知症の父 無理をさせるのもストレス【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
作業療法士の野村和代さんが、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.認知症の父(83歳)を自宅で介護していますが、歯みがきをいやがります。やらないわけにはいかず、半ば無理やりしているので、歯みがきの時間になるとストレスを感じます。どうしたらスムーズに歯みがきしてくれるでしょうか。(56歳・女性)
A.歯みがきを拒否される認知症の方は、よくいらっしゃいます。歯みがきの必要性を感じていないのかもしれませんし、認知症の症状である失行(手足の運動機能には問題がないのに、簡単な日常の動作ができなくなる)があれば、歯みがきという行為自体を理解できなくなったり、歯ブラシなどの道具が何なのかわからなくなったりします。
そうした状況で、他人から口を触られたり、口に何かを入れられたりすれば、恐怖や不安を感じるのも当然かもしれません。無理やり歯みがきをすると、お互いにストレスになるばかりか、やればやるほど、ますます抵抗することもあるでしょう。認知症になっても相手の感情はしっかり感じとれるので、相談者のストレスがお父さんに伝わっていることも考えられます。
とはいえ、歯の健康は食生活の質に直結するうえに、誤嚥や感染症にも影響を与える大切な事柄です。また、かむことは、認知機能にも影響を及ぼすことがわかっています。このため、口腔(こうくう)ケアはできれば実施したいですよね。まずは次のような取り組みをしてみてはいかがでしょうか?
1.「一緒に歯みがきしよう」と声をかけ、一緒にやって見せる
2.歯ブラシはやわらかめのものを選ぶ
3.歯みがきを介助する場合は、奥歯の表面などから始め、感覚が鋭敏な前歯や歯の裏側は後回しにする
歯ブラシを使用するのが難しければ、下記のような口腔ケアを試してみましょう。
1.デンタルリンス(できれば刺激が少ないもの)や緑茶でうがいをする
2.口腔内の乾燥は細菌の増殖につながるため、こまめに緑茶などを飲んで口腔内を潤す
3.唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)のマッサージを一緒に行い、唾液(だえき)の分泌を促す
家族が無理して頑張るのではなく、デイサービスで歯みがきをしてきてもらうのも一つの方法です。その場合は、ケアマネジャーに「歯みがきをしたい」という要望を伝えて、口腔ケアを重視している施設を選ぶといいでしょう。
まずは歯みがきやうがいによって、「さっぱりする」「気持ちがいい」と感じてもらえるといいですね。
【まとめ】認知症の父が歯みがきをいやがる。どうしたらスムーズにできる?
- 声がけして一緒に歯みがきをしたり、歯ブラシのかたさや歯を磨く順番を工夫したりする
- 歯ブラシを使用するのが難しければ、こまめにうがいをしたり、緑茶などを飲むようにしたりする
- 口腔ケアを重視しているデイサービスなどの通所介護で歯みがきをしてきてもらう