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診察室からエールを

悪徳業者のカモに…認知能力が高い人が狙われる 被害を阻止する方法は

ミーアキャット

大阪の下町で、松本一生先生が営む「ものわすれクリニック」。今回は、高齢者宅を狙って商品を売りつけようとする悪徳業者への対応をめぐるお話です。松本先生はどんなアドバイスとエールを送るのでしょう。

今林 恭子さん(81歳): 「度重なる業者の訪問に辟易」

こんにちは、今林さん、今日は受診日ではなかったと思うのですが、何か困りごとでもありましたか。このところの受診日ではいつも、商品を売りつけようとする業者が自宅に来て嫌な思いをしたという悩みを話されますね。

今林さんは、介護していたご主人を見送って今年で17年目でしたね。その間は、ひとりで生活を続け、慎重に毎日を過ごしてきた人ですからね。そんな今林さんを訪ねてくるのは、どういう業者なのですか。健康食品ですか。何度も玄関先に座り込んで商品の説明をしはじめて、あなたが「嫌だ」と拒否しにくくなっていることを、相手は知っているのでしょうね。「老化を防ぐ栄養食品」ですか。返品しようとして雲隠れされたんですね。

被害にあう人の傾向とは

ボクも認知症を診療する医者として今年で30年を迎えました。以前と比べると悪徳業者の訪問先もずいぶんと変わったように思います。昔は誰が見ても「この人は何もわかっていない」とわかる人が、こうした業者の被害にあっていたように思います。それがここ10年ほどの間に被害者像が変わってきました。

あえて、あなたにそのことをお伝えしますが、最近では認知能力が高そうな人が被害者になっているのだと、今回のことを教訓にしていただくためにお話ししましょう。誰が見ても認知能力の低下がわかる人、言いかえれば認知症の当事者として重度の人の場合、地域包括支援センターや家族介護者、そして地域の見守りネットワークなど、何らかの社会資源がサポートするために関わっています。言いかえれば「必ず地域の誰かの目が届く」という状態なので、悪徳業者からすると、自分たちが継続的にかかわろうとしても、誰かが定期的に当事者の安否を確認するため、深く入り込むことができなくなっています。

レモン

それゆえ最近では認知能力が高い今林さんのような人が被害者になりやすくなっています。たとえばあなたはボクにもとても礼儀正しく接してくれます。要介護1なので週2回のデイサービス利用時にもほかの利用者のことをおもんぱかってくれます。人への気配りもできるレベルにある反面、判断力は、脳の側頭葉の細い血管が詰まる「ラクナ梗塞」と呼ばれる脳梗塞の影響で、かつてのあなたのような決定をすることができにくくなっています。このように、一見すると何でもないように見え、相手に対するおもんぱかりもできる反面、いざというときに判断して「NO!」と断ることができにくくなっている人が悪徳業者に狙われやすいのです。

後見制度の活用も

こうした被害を防ぐためには、あなたが自発的に財産管理を自らが選んだ人に依頼すること、すなわち任意後見を進めることで、あなたの財産行為(家や財産をどのように扱うか)を後見人があなたに代わって管理する制度があります。弁護士、司法書士や社会福祉士といった専門職への依頼のほか、大阪市をはじめとする自治体などでは市民後見人など、今林さんの財産を守ってくれる制度があります。

孤立を避けること

でもそこまでしなくても危険を回避するアドバイスがあります。それは…、あなたがいくらご自身のお気持ちの中では「自分はまだ騙されない」と思っていたとしても、最近のプロ中のプロ、それも悪意を持ったプロは、そのような今林さんと同様の人をだます手段に長けています。彼らはあなたを脅すのではありません。あなたが相手の言葉を断りにくくなっていることを知ったうえで、じっくり時間をかけてあなたを離さないよう縛り付けていきます。

それを阻止する唯一の手段は、あなたが信頼できる人びと、先にも述べた地域包括支援センターや信頼できるケアマネジャーといつも連絡を取り続けることです。ボクの経験からしても、孤立している人ほど被害を受けやすいこともわかっています。みんなとの連携はあなたの病気を悪くさせないだけでなく、あなたの財産や人権を守ることにもつながるのですから。

次回は「妻を残して先に逝けない」です。

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