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もの忘れ外来での両親は健康そのもの 家族はどう対応?もめない介護112

白色のエンジェルストランペット
コスガ聡一 撮影

「楽しいことは何ですか?」
「そうですねえ。庭の木に花が咲いたのがうれしいです」

「困ってることは何ですか?」
「とくにありません……おかげさまで、みんな元気に暮らしております」

もの忘れ外来の診察時に必ず医師から質問されるのが、この「楽しいこと」「困っていること」の2つです。ほかにも、「よく眠れていますか」「食欲はどうですか」などと質問され、義父母はたいてい機嫌よくポンポンと答えます。そして、ひと通り答えた後、今度は「ご家族から気になることはありますか?」と質問があり、気がかりなことを伝えたり、対応を相談したりした後、次の診察日をおおよそ決めて診察終了というのが大まかな流れです。

ただ、今でこそ、この“いつもの流れ”に慣れましたが、もの忘れ外来に通い始めたばかりのころは右往左往。義父母は不安と警戒心でいっぱい。こちらも、どこからどう関わればいいのか戸惑うことばかりでした。

とくに迷ったのが、「ご本人たち(義父母)が明らかに事実と異なることを答えているときの対応」でした。

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もともと、義父母は自分たちで総合病院のもの忘れ外来を受診した際、認知症の初期症状を思わせる情報は医師には伝えず、しれっと「認知症ではありません」という“お墨付き”をゲット。こりゃアカン……ということで別のもの忘れ外来を探し出し、家族が付き添った上での再受診になんとかこぎつけたという経緯があります。

医師の言葉に『マジか!』

今回は、ふたりそろって「アルツハイマー型認知症」(義母はレビー小体型認知症傾向のあるアルツハイマー型認知症)と確定診断が下ったものの、短い診察時間でどこまで現状を把握してもらえるものなのか、不安しかありません。

「認知症は治りません。しかし、進行を遅くすることはできます。といっても、薬を飲めば良くなるというものではありません。大事なのは生活環境を整え、適切なケアを行うことです」

かなりうろ覚えですが、最初の最初にこんなふうに説明されて、なるほどなあと思う反面、やや絶望的な気持ちにもなりました。薬をバンバン飲ませましょうという医師よりは断然、信用が置けそう。でも、ケアって? 誰が何をすればいいの……?

「お父さん、お母さんはこれまで、おふたりでよく頑張ってこられました。でも、これからはおふたりだけではなく、周囲の力を借りる必要があります。息子さんや娘さんにどんどん頼っていきましょう!」

黙って聞いている義父と、興味がなさそうにあさっての方向を見ている義母に、医師は根気強く話しかけます。いま改めて振り返ると、「先生、いいこと言うなあ」と感じるし、介護サービスを導入する布石にもなっていると思うけれど、当時は「マジか!」と叫びたい気持ちでいっぱいでした。

義父母と医師の信頼関係構築を最優先に

だいたい、わたしは“娘さん”じゃないし! なりゆきでキーパーソンを引き受けてしまった、通りすがりのおせっかいです。そんな頼りにされても困ります。仕事もあるし、しょっちゅう通ってくれるとか思われるとキツい! 助けて!!と、全力で腰が引けていたのです。

でも、その場では一切、口にはしませんでした。医師への遠慮というよりは、「ここでゴチャゴチャ自己主張を始めると話がややこしくなる」「義父母(とくに義母)に便乗されて“もの忘れ外来に通うのをやめましょう”などと言いだされるとマズい」といった計算が働いたためです。

もの忘れ外来につつがなく通い続けるためにも、義父母と医師の信頼関係は欠かせません。では、家族としてどうアプローチするか。診察中、こんなことを心がけてみました。

1)代わりに答えない

義父母は同じもの忘れ外来に通っていたので、診察は基本的に夫婦一緒。わたしと夫が付き添い、4人で診察室に入ることがほとんどでした。

たいてい、義母が医師の前に座り、その隣に義父。わたしと夫は部屋の隅にある椅子をお借りして、後ろに控えるというポジションをとるようにしました。あくまでも、主役は義父母。質問に答えるのも本人たちに任せ、なるべく口を挟まないようにしました。

モゴモゴと口ごもり、何を言いたいのかよくわからないこともあれば、時には目をつぶって“長考タイム”に入ってしまうこともありました。それでも、あわてて話題を引き取ることはせず、医師が黙って待つならこちらも同じく待つというスタンスで臨みました。

「答えたくない」あるいは「答えられない」のも、必要な情報のひとつだと考えたからです。

2)事実と異なる主張も、いったん聞く

悩ましかったのは、冒頭にも挙げた「ご本人たち(義父母)が明らかに事実と異なることを答えているときの対応」です。

とくに介護が始まったばかりのころは、受診のたびに「困っていることは何ですか」と聞かれても、義父母は「困りごとは一切ありません」とそろって即答。実際には「2階にドロボウがいる」「薬を盗まれた」と大騒ぎしていても、そんなことはおくびにも出しません。それどころか、いかに悠々自適な生活を送っているかをとうとうと語りだし……。

何からツッコんだらいいものかと仰天しつつも、その場で即座に否定するのは避けました。せっかく気持ちよく話しているのにプライドを傷つけ、「こんなところには二度と来ない」と思われては元も子もないからです。

「ご家族からはどうですか?」と医師から質問されるまでは、義父母のターン。グッとこらえて、医師に伝えるべきことをスマホのメモアプリなどに打ち込み、整理する時間にあてました。そして、自分の順番が回ってきたらメモを頼りに、コンパクトに医師に伝えるようにします。

自分たちが話し終えた瞬間、義父母は興味をなくし、「まだなの?」「早く帰りたい」と言わんばかりの態度だったこともあって、勝負は1分程度。どんなに長くても3分以内に伝えるべきことを伝えてフィニッシュ!が目標でした。

3)相談したい内容や状況が複雑なときは、手紙を用意

義父母の日ごろの言動に加えて、ケアマネさんやヘルパーさんの気づきなど、複数の情報が重なり合い、とてもじゃないけれど数分で伝えるのは無理というときは、あらかじめ手紙を書いて持っていきました。

受け付けのときに事情を説明し、「先生に渡してください」とお願いしたこともあれば、結論を急がない場合には帰り際に渡したこともあります。

口頭よりも文書のほうが、情報共有の抜けモレを避けやすいというのと同時に、義父母の目の前で“できないこと”をことさらに主張しなくていいという利点がありました。

4)“できないこと”はシンプルに、前向きに伝える

医師との会話のなかには、“そんなことを期待されても困る”と思うようなやりとりも登場しました。

たとえば、「食事の時に、誰かが薬を用意して声をかけてくれると飲み忘れが防げる」というアドバイス。

それはそうかもしれないけど、一緒に暮らしてないし同居する予定もないんですってば!と心の中では警戒警報が鳴りまくり。でも、途中で気づきます。これは「(わたしに)やってください」とリクエストしているわけではなく、単なる選択肢のひとつに過ぎません。

「離れて暮らしてるので、わたしや夫が薬を用意するのは難しいです。何かいい方法がないか、ケアマネさんにも相談してみます」

しんみり暗くならずに、ひたすら能天気。すっげえニコニコしながら「難しいです」を伝えます。これは義父母に「迷惑がられてる」と思わせないためでもありました。黙って「わかりました」と言って、実際にはケアマネさんに相談する……という方法もあったけれど、無理なものは無理とサクっと伝えたほうが気持ちがラクになりました。

家族としても、医師に頼りたいし力になってほしいのは山々です。逆に、「先生に申し訳ないから」と遠慮が先に立って、言いたいことも言えないというケースもあるかもしれません。でも、まずはなんといっても介護を必要とするご本人と医師の信頼関係づくりが最優先。そこに信頼関係ができると、その後の介護負担を減らすことにも大いに役立ってくれるのではないかと思うのです。

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