もめない介護

自尊心を傷つけず「もの忘れ外来」に連れていく方法は もめない介護111

水たまり
コスガ聡一 撮影

認知症と切っても切れない関係にある「もの忘れ外来」(認知症外来)。定期的に診察を受け、専門医に経過を診てもらい、日々の困りごとを相談できることは家族にとっても、心強いものです。

ただ、本人にとっては必ずしも“行きたい場所”になるとは限りません。「もの忘れ」「認知症」というフレーズを目にするだけでなんだか不愉快な気持ちになっても不思議はありません。診察内容や医師の助言がプライドを傷つけることもあれば、「どうしてこんな場所に連れてこられなくてはいけないのか」と釈然としない気持ちを引き起こす可能性も考えられます。

幸い、義父母はどちらかといえば“病院好き”。「お医者さまの言うことなら……」と耳を傾けるタイプでしたが、それでも主治医の先生との信頼関係ができるまでは、いつ「こんなところ、もう来ません!」と言い出されるのかと、ヒヤヒヤする思いで付き添っていました。

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クリニックに掲げられている「もの忘れ外来」の文字を義母が目ざとく発見し、「ここは何の病院なの? 誰が“もの忘れ”なの?」と問いただされ、答えに困ったこともあります。義父に「あとどれぐらい通わなくてはいけませんかね。近所のかかりつけ(これまで通っていた内科で、もの忘れ外来ではない)で十分だと思うんだが……」と言われ、ギョッとしたこともありました。

月1回の定期受診を、いかにストレスなく続けていくかは重要課題。今回は、そのためにしていた工夫を紹介します。

1)出合いがしらに義母の服装を褒める

義父母が通院していたもの忘れ外来は、義父母が暮らす家(夫の実家)から車で30分ほどの場所にありました。最寄り駅でタクシーを拾って、実家で義父母をピックアップし、そのまま、もの忘れ外来に向かいます。

タクシーが到着するころ、たいてい義父はビシッと準備を終え、帽子もかぶって玄関で待機。義母は「バッグが見つからない」「上着がない」「こんな服装じゃ、やっぱりヘンだわ」と部屋のなかをウロウロしているのが常でした。「早く準備をしなさい」と静かな声で注意しながらも、ややイラっとしている義父を横目で見ながら、「おっはようございます~!」と義母に声をかけます。そして、せかしたい気持ちはグッと抑えて、「今日のブラウスもいい色ですねえ! バッグ、かわいいですね。さあ、出発しましょう」と褒めながら出発を促すと、義母も「あら、そう?」と、すっかりご機嫌になって靴を履いてくれました。

2)戸締まりを代わりに行う&指さし確認

義母には「もの盗られ妄想」があり、外出時は緊張感が高まります。服装を褒められいったんは気がそれても、すぐに「あらやだ、窓のカギを閉めたかしら」「ガスの元栓が開けっぱなしかもしれないわ」と言いだし、部屋に戻ろうとすることもしばしば。そんな時は「代わりに見てきます!」と宣言し、「窓よーし! ガスコンロよーし! 電気よーし!」と大声で指さし確認するのが有効でした。

義父母がうっかり戸締りを忘れていないかどうか、確認もできて一石二鳥。そのうち、「代わりに見てきますね」と伝えるだけで義母がホッとしたような顔を見せてくれるようになり、さらには「あなたも見てくれた?」「見ました」のやりとりだけで済むようになって……と、どんどん簡略化してOKになっていくという、思わぬ展開もありました。

3)移動中のタクシーのなかでは、義母とせっせとおしゃべり

「この道路はどこに続いているのかしら?」
「見覚えがあるけど、どこに行くの?」
「東西南北でいうと、どちらの方角?」
タクシーに乗り込んだ途端、義母のマシンガントークがスタート。最初の5~10分ぐらいは義父が相手をしてくれますが、そのうち、疲れた顔で生返事になることが多々ありました。義父を疲れさせないためにも、おしゃべり担当をバトンタッチ。

情報収集も兼ねて、「最近、食欲はどうですか?」「よく眠れてますか」などと質問もまじえながらおしゃべりしていた時期もあれば、“車の中であまりリハーサルしないほうが、ありのままの姿を医師に診てもらえるのではないか”と思い、ふんふんと適当なあいづちを打つだけにとどめた時期もありました。

ただ、こちらの思惑を知ってか知らずか、義母はとことんマイペース。移動中のタクシーで積極的に質問してもしなくても、診察中の義母の様子はさほど変わらないと分かってからは、(こちらが)ストレスにならない程度に盛り上げるという、さじ加減に着地しました。

4)待合室では、さらに義母とのおしゃべりに全集中

もの忘れ外来は予約制ですが、30分から1時間待ちはザラ。混んでいる日は、2時間近く待つこともありました。義父は黙って静かに座っていたいタイプ。一方、義母はとにかく、しゃべりたくて仕方がない。スキあらば義父に話しかけては、ウンザリした顔をされていました。

義父も無言、息子(わたしの夫)も無言……。義母が「つまらないんだけど……?」と飽きてしまうのも時間の問題です。

こんなときこそ、わたくし、お調子者の嫁の出番! いや、本音を言えば、わたしひとりで対応するのは気が重い。でも、四の五の言っても始まらないのでバッターボックスに立つのです。

「今日は、なんだか混んでますねえ」
「あの観葉植物は何でしょうね」
「あのアナウンサーさん、よく見る人ですねえ。誰でしたっけ?」

目についたものを片っ端から口に出し、義母に話しかけます。
「今日は日曜日だから、きっと混んでるのね」(平日です)
「あの植物はねえ、あれよ、あれ……なんだったかしら」
「あの方はねえ、ずっと以前からやってらっしゃるの。人気がある方よ」

義母の返答もかなり適当ですが、楽しそうならそれでよし。いまになって思うのは、ここでのおしゃべりは、義母との心の距離をグッと縮めてくれたということです。会話の内容よりも楽しくしゃべっている雰囲気を共有することのほうが、よほど大切なのかもしれません。

これらのステップをふまえて、いよいよ診察室へ。診察中の医師とのやりとりの際、どのようなコミュニケーションを心がけていたかは次回、お伝えしたいと思います。

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