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認知症の義母にコロナワクチン意思確認「お先に悪いわね」もめない介護108

ホームに停まる電車のパンタグラフ
コスガ聡一 撮影

「春になったら、新型コロナウイルスを予防するための予防接種が始まります。順番が回ってきたら、申し込んでもいいですか?」

義母にワクチン接種の意思確認をしたのは、今年の2月半ばごろのことです。

「コロナ……? 何か最近、良くない病気がはやってるらしいわね」
「そうそう、そのコロナです」
「道理でみなさん、“手を洗いましょう”、“マスクをしましょう”って大騒ぎなの」
「そうですねえ」

新型コロナウイルスの感染拡大による施設の面会制限は、いまも続いています。このあたりは施設によってもルールや対応は異なりますが、義母が暮らす介護付き有料老人ホームでは、面会は原則、LINEのビデオ通話機能を使ったオンライン面会。しかし、希望すれば月1回、15分間の対面での面会も可能です。

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うちの場合は、その貴重な対面での面会機会は、「もの忘れ外来の往診付き添い」に充てています。義母の様子を確認するのと同時に、医師とも情報共有できるので一石二鳥だと考えたのです。

「お先にどうぞ」と、予防接種を譲ろうとする義母

よほどのことがない限り、「新型コロナウイルスのワクチン接種をしない」という選択肢はないだろうと思いつつも、今年89歳になる義母にとって、どれぐらいの負担がかかるものなのか見当がつきません。接種後に、発熱するなどの副反応が出たというニュースを見かければ不安になるし、積極的に「予防接種をしましょう」とも言いたくないけれど、「しばらく様子をみましょう」と逃げ腰にもなりたくない。

困ったときは、ダメもとでご本人に聞いてみよう。イヤだと言われたら、また改めて考えようと、夫と相談。まずは義母に意見を聞いてみることに。

「予防注射はしたほうがいいわねえ」

義母からは、こちらが拍子抜けするほどあっさりと、前向きな答えが返ってきました。

「なんだか、私ばっかり“お先に”というのも申し訳ないわね。あなた、よかったらお先にどうぞ」
「いえいえ、こればっかりは年功序列ですから」
「あら、そう? 悪いわねえ」

しきりに譲ろうとするので、やはり何か引っかかるところがあるのかと思いきや、まったくそんなことはなく、「年の順なの? ありがたいわねえ」と、義母はニコニコ。ワクチン接種の意味をどこまで把握しているのかはわかりませんが、順番が回ってきたら参加する気満々のようです。気になるのは副反応ですが、もの忘れ外来の医師に往診のついでに相談してみたところ、「副反応といってもインフルエンザの予防接種よりもリスクが低いぐらいですし、ご心配いらないですよ」とのこと。

詳細の記されない接種券が送られてくる自治体も

認知症の確定診断が下ってから足掛け5年、主治医として義母を診てもらっていますが、これまでとくに激しいアレルギー症状が出たこともないため、「高齢の方が新型コロナにかかるリスクを考えると、“副反応が怖いから接種しない”という選択肢は、いまのところ考えにくいのかなと思います」という助言もありました。

ただ、いつどのような形で、順番が回ってくるのかはハッキリしません。いまこの連載を書いている時点でも、わかっているのは「“接種券”が義母宛てに送付されるらしい」ということぐらい。施設側も正確なスケジュールがまだ把握できておらず、「接種券が届いたら、なくさないよう、とっておいていただけますでしょうか。必要になるかどうかも、よくわかっていないのですが……」と申し訳なさそうに説明がありました。

この接種券がなかなかのクセモノで、地域によって、予約方法が記載された書類が同封されている地域もあれば、接種券のみで「詳細は追って後日お知らせ」となっているところなど、自治体によってバラバラのようです。

仙台で暮らす両親(ともに70代)のところには、すでに接種券が到着。しかし、接種券のみで予約方法や接種時期についてはまだ決まっていないようです。

「なくさないようにキープしておくのが、ひと苦労だね」
「『よくわからん』と問い合わせをする高齢者が続出して、役所はてんてこ舞いらしいよ」
「次、どうすればいいのか、わからないと不安になるもんね」
「細かい字でいろいろ書いてあるけど、よくわからないのよ」

老親との付き合いは、驚きと笑いの連続

両親からそんな話を聞いてると、手元にあるのはホントに“接種券だけ”なのか疑念もわいてきます。しかし、確認だのなんだのと書類を引っ張り出して、なくすきっかけづくりにひと役買うのもマズいと思いなおしました。そもそも実家の母に関しては、60歳を過ぎてから毎年、春から夏にかけて強めのアレルギー症状が出ていることもあって、ワクチン接種は「主治医の先生とも相談しながら慎重に検討したい」と聞いています。

一方、父のほうはというと、「アレルギー症状があるわけではないのだけれど……」とモゴモゴ。よくよく聞くと、どうやら父は注射が大嫌い。「できることなら打ちたくない」という気持ちがあるようです。そっちか!

高齢者は新型コロナウイルスに感染したときのリスクが高い。そのことは重々知っていて、ニュースも欠かさず見ていたとしても、「打ちたくない……」という気持ちが優位になる瞬間はある。それが人の心の難しくも悩ましいところ。かと思うと、認知症の影響もあり、最近は家族の名前もおぼつかなくなってきた義母が、接種時期は「世の中で“春ぐらい”って言ってるってことは、きっと夏は過ぎるでしょうね」と鋭く指摘する瞬間も。

老いた親との付き合いは奥深く、一筋縄ではいかない発言の数々に驚かされてばかり。でも、思わず吹き出す瞬間も少なくないことが救いになっています。そして、ちいさな「こだわり」を軽んじることなく、本人と話し合いながら、日々の暮らしとの落としどころを探ることは、自分の老いの予行練習にもなっているのではないかとも思うのです。

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