「困ってますか」の声 その一歩で助けられる人がいるかもしれない
《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
あの人、どうしたんだろう?
声をかけてみようか。
いやいや、おせっかいだろう。それに、変な人だったらどうする。
…でも。
「あの…なんか、困ってますか?」
僕の声はみっともなく、上ずった。
「……は? 大丈夫だけど」
返ってきた答えに、顔が赤くなる。カッコ悪い自分!
でも、その手の通帳はぼろぼろで、なんかやっぱりおかしくて。
「散歩ですか?」
「えっと、銀行に行きたいんだけど…」
重ねた会話はどこに向かうか、僕にもわからない。
…でも、もう少し。
もう少しだけ、近づいてみるんだ。
令和元年の1年間に、警察に届け出があった行方不明者のうち、認知症またはその疑いが原因と考えられる人は、1万7,479人にのぼるそうです。
私は今までに五回、帰宅困難になった認知症当事者の方と出会っています。それも、この人数の多さゆえでしょうか。
でも、これを読んでくださっている方の中には、行方不明になった当事者とは会わない、または見つけられない、という方がほとんどではないでしょうか。
何故でしょう?
もしかしたら、あることへの理解があるかないか、の差かもしれません。
それは「道に迷っている、認知症の当事者はいない」ということです。
多くの場合、さまよわれる当事者の方々には目的地があります。
つまり、ご自身の心情としては、迷っているのではなく、目的地へ向かっているだけ、なのです。
今一度、故郷に帰りたいのもしれませんし、誰かに会いたいのかもしれません。
その思いが勝るゆえ、声をかけても「大丈夫です、○○に行く途中です」などと、ごく自然に返答されるのです。
でも、私たちは頭でその返答を理解しても、そのちぐはぐな様子をどこかで感じ「なんだか、おかしい」と、うっすら気づくのではないでしょうか。
だからこそ、もしかしたら、という方に出逢ったら。
声をかけてみる。
会話を続けてみる。
その方を頭だけではなく、心で感じてみる。
間違ったっていいじゃないですか。
あなたのおせっかいが、必ず誰かを助けます。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》