認知症とともにあるウェブメディア

もめない介護

「幻覚? 10人見えたら来て」悪評を知った意外な経緯 もめない介護103

湖に浮かぶ足こぎスワンボート
コスガ聡一 撮影

介護が気になり始めたら、まず活用したい場所として、真っ先に挙げられるのが「地域包括支援センター」(以下、地域包括)です。地域包括は、高齢の方々が住み慣れた地域で暮らし続けられるよう、社会福祉士や保健師、主任ケアマネジャーといった専門資格をもった職員が連携しながら、悩みや課題の解決に取り組んでいる機関です。さまざまな相談に乗ってくれるほか、必要に応じてさまざまな制度や関係機関の紹介、自宅への訪問などを行ってくれることも。

住所ごとに管轄が決まっており、親のことは、親の住所地を管轄する地域包括支援センターに相談すればOK。遠方の場合は、電話などで相談することもできます。「うちの親はまだ介護は始まっていないから」というのは、よくある勘違いのひとつ。介護予防も、地域包括が手がける分野のひとつなので、“介護が始まる前”でも、地域包括は利用できます。その地域の高齢者向けサポートに関する情報が集約されているので、効率良く情報収集できるというメリットもあります。

こちらも読まれています : 診察券10枚以上 どこまで付き添う?義父母の通院

地域包括支援センターに相談に行くきっかけは、人によってさまざまです。以前、この連載でも紹介しましたが、うちの場合は、夫のいとこが義母のちぐはぐな会話に異変を察知し、「相談に行ったほうがいい」と強く勧めてくれたのがきっかけでした。

こういう時は、何はともあれ地域包括

当時、義母とのやりとりのなかで「2階にドロボウがいる」という話題は繰り返し出てきていました。「毎晩のように寝室に入ってきて、大切なものを盗んでいく」といった訴えもありました。私としては、うすうす認知症かもしれないと思ってはいて、義母のプライドを傷つけることなく、もの忘れ外来受診につなげようと必死でした。

ようやく受診にこぎつけたと思ったら、診断結果は「おふたりとも認知症ではありません」。でも、よくよく聞くと、医師とのやりとりは通り一遍のもので、義母から「(2階に泥棒がいるとは)聞かれていないので答えていない」と聞かされ、ガックリ。多少強引にでも一緒に受診についていくべきだったか……と後悔していた矢先に、地域包括に相談をしにいくことになったのです。

夫のいとこは「おばさま(義母)の様子がおかしい」と感じた時点でスマホで義父母の住所地を管轄する地域包括を調べ、その場で電話をしてくれていました。その上で、義姉に「できるだけ早く行ったほうがいい」と連絡をくれたのです。介護経験があり、“こういう時は、何はともあれ地域包括!”と知っているからこその、迅速な対応でした。

一方、私はというと、ちょうど大学院の授業で「地域包括ケアシステム」に関する授業をとっていて、講義のなかで「地域包括支援センター」という単語を何度も耳にしていたにもかかわらず、ちっともイメージがつながっていませんでした。

「義母は認知症かもしれない」
「できるだけ早いタイミングで専門医につなげたほうがよさそう」
「かといって、無理強いして本人のプライドを傷つけると厄介なことになる……」
というところで連想が止まっていて、地域包括に相談に行くという発想は皆無でした。

地域包括に相談すればなんとかなるの?

相談当日も、特に相談ごとがまとまっていたわけではなく、「とりあえず気になることを全部聞いてみるか」という感覚に近かったと思います。気がかりなことはたくさんあるけれど、そのなかでも特に難関だったのが、次の2つです。

(1)「認知症ではない」と診断されて大喜びしている義父母に、どうやって再受診を切り出すか
(2)介護保険の利用申請をしたいけれど、義父母にどう納得してもらうか

どちらもひと筋縄ではいかなさそうで、どこから手をつけたらいいものやら……。地域包括に相談したところで、なんとかなるものなのかと半信半疑でもありました。

地域包括で相談に乗ってくれたのは、看護師さんと保健師さんでした。義父母はすでに“見守り対象”になっており、地域包括の職員さんたちが定期的に訪問してくれていたこともこの時に初めて知りました。そして、「認知症ではない」と診断を下した病院についても、思いがけない事実が判明します。

「ここだけの話ですけれど、実はあまり評判が良くなくて……」
「“見えないはずのものが見える”とご本人やご家族が訴えても、とりあってくれないという相談が寄せられています」
「『(幻覚が)まだ数名でしょ? 10人見えたらまた来て』と言ったドクターがいたとか……」

えー! そこまで!? 

まずは「相談に行く」という一歩から

一緒に受診しなかったのは、こちら側の手抜かり。でも、もう少し丁寧に問診してくれてもいいのに……と、うっすら不満にも思っていたけれど、そこまでヤバかったとは! 9割方、別のクリニックを探すほうに心が傾きつつも、「もう一度、受診したほうがいいのだろうか」というためらいが完全に消え失せます。もう二度と行かない。決定!

地域包括に行ったからといって、すべてが魔法のように解決するわけではありません。でも、何に困っているのか、その困りごとにどのように対処していくのか、整理する上での強い味方になってくれます。もっとも、対応してくれた人のスキルやお互いの相性もあって、「ぜんぜん親身になってくれなかった」「“大変ですね”と繰り返すばかりで、話が先に進まなかった」という嘆きを耳にすることもあります。

たとえ不完全燃焼だったとしても、「相談に行く」というミッションをクリアしただけで大きな一歩です。「この人、苦手……」という人に出くわしてしまったら、忘れずに名前を確認してメモ。次回は別の職員さんに相談しましょう。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について

認知症とともにあるウェブメディア