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診察券10枚以上 どこまで付き添う?義父母の通院 もめない介護102

車内からの風景
コスガ聡一 撮影

離れて暮らす親の認知症がわかったとき、悩むことのひとつに「病院付き添い」があります。家族の誰かが付き添ったほうがいい? でも、その“誰か”って誰の役目……? 時間をどうやりくりする?など、課題は山積みです。

親が病院好きか病院嫌いかによっても、苦労のしどころが変わるかもしれません。たとえば、ある女性は医者嫌いの父親を受診させるだけでひと苦労。やっとの思いで連れて行き、なんとか薬をもらってきても、父親は「医者の言うことなど信じられない」の一点張り。揚げ句、「毒を盛って殺す気か」と怒鳴り散らすので手に負えないと嘆いていました。

一方、我が家の場合、義父母は病院が大好き。「病院に行きたくない」とごねられることはまずありません。むしろ、行きたくて仕方がない。でも、義父母が行きたい病院に、義父母のタイミングに合わせて付き添っていたら、体がいくつあっても足りないというぐらい、さまざまなかかりつけ医を持っていました。

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たとえば、「風邪気味」「おなかの調子が悪い」など、ちょっとした体調不良のときは近所にある内科クリニックに行き、薬を処方してもらいます。義父は前立腺、義母は甲状腺に持病があったので、それぞれの専門医にかかりつつ整形外科や歯科に通い、ときには皮膚科に顔を出し……と、ほぼ毎週、何らか受診をしたようです。診察券を確認したら、新旧おりまぜてそれぞれ10枚以上ありました。さらに、そのラインナップに「もの忘れ外来」が加わるわけです。

タクシーを使って、義父母ふたりで来院

うちから夫の実家までは、電車と徒歩で約1時間半かかります。通えない距離ではないけれど、週に何度も足を運ぶとなると厳しいというのが正直なところです。

もの忘れ外来までは、夫の実家から車で30分ぐらい。公共交通機関を使って行こうとすると、電車とバスを乗り継ぐか、最寄り駅からタクシーに乗り換えが必要と、少々不便な場所にありました。

「自分たちでもタクシーで行けたみたいだから、次は現地待ち合わせでいいかも」

義姉から言われたのは、2度目の受診のときです。初回はレンタカーを借りて夫と私が付き添いましたが、2回目は義姉に付き添いをお願いしました。義姉は何かの事情で義父母との約束の時間に遅れて実家に到着。すると、義父母の姿はすでになく、ふたりだけでタクシーで向かっていたのだそうです。

たしかに、当時の義父母にはまだ、ふたりだけで外出できる力が残っているように見えました。同時に、知らない場所に出かけるときの不安感や緊張感は強く、「病院で直接、待ち合わせしましょう」と決めるには、ストレスがかかりすぎるのではないかという懸念もありました。

もの忘れ外来への受診は、腹をくくって付き添うことに

認知症にともなう症状を少しでもやわらげ、進行をゆるやかにしたい。そのための通院なのに、負荷を増やしてしまっては本末転倒なような気もします。そこで、月1回のもの忘れ外来に関しては、腹をくくって私と夫で付き添うことにしました。

実家の最寄り駅でタクシーを拾い、実家に寄って義父母をピックアップ。もの忘れ外来での受診が終わったら、再びタクシーで戻る。途中、どこかに寄り道をして昼食を食べたり、買ったり……というルーチンはラクではないけれども大変すぎない、私たちにとっては仕事や日常生活との折り合いもつけやすい“ほどほど”の負担におさまりました。

もの忘れ外来はこれでいいとして、問題はその他もろもろの通院です。以前、この連載でもご紹介したように、のちのちは「訪問診療」にまとめていくことになりますが、一朝一夕でまとめられたわけではなく、移行までには少し時間がかかりました。義父母には義父母の生活習慣があります。「認知症になったから」といって、突然すべてのことができなくなるわけではありません。むしろ、認知症だからこそ、急に環境を変えてしまうと大混乱に陥り、できることもできなくなってしまうリスクも抱えていました。

では、もの忘れ外来以外の受診はご本人たちに任せてしまおうか!

受診の度に、大捜索となる保険証

ケアマネさんにも「いいと思います。全部ご家族がやろうと思うと大変ですから」と背中を押してもらい、一件落着!……と思いきや、今度は保険証紛失の問題が浮上します。義母が「ドロボウに盗まれたくない」という一心で保険証をしまいこみ、自分でもしまい場所がわからなくなってしまう……。もの忘れ外来受診のたびに、「ない!」「どこ?」の大捜索。それを何度か経験した後、保険証を預かることに。
ただ、そうなると今度は「思い立ったときに病院に行けない」ということが義父母のストレスになってしまうという無限ループ!

義父から電話がかかってきてあわてて折り返すと、「いますぐ保険証持ってきて」と強い口調で言われ、仰天したことがあります。その日は打ち合わせ続きで身動きがとれないことを伝えると「困ります!」となじられ、あっけにとられました。心のシャッターがガラガラと音をたてて降りていくのを感じながら、「すみません。無理です。すみません。仕事なので……」と淡々と繰り返し、義父があきらめてくれるのを待ちました。

電話を切った後、しばらくはむしゃくしゃが止まらず、その場で「知るか!」「身勝手か!」と悪態をつきまくったのを覚えています。周囲から見たら完全に変な人です。でも、独り言が止まりません。アブない!

義父にとって「思い立ったら、すぐ病院!」ができなくなったのは、よほどつらかったのだろうと思います。でも私にとってもそれは、抜群にストレスフルな出来事でした。このままだと義父にウンザリしてしまう。頭ごなしに命令されたことに対して我ながら相当に腹を立てていて、義父のことを大嫌いになるのは時間の問題だろうと感じていました。早急に次の手を打たないとマズい!

1本の電話が、解決の糸口になることも

そこで、義父母が持っていた診察券から「かかりつけ病院リスト」をつくり、片っ端から電話をかけました。「高齢のせいか、健康保険証の管理が難しくなっている」という事情を説明し、「後日、家族が健康保険証を持っていくので、保険証なしでも受診させてもらえないか」と交渉しました。

すんなりOKしてくれたところもあれば、渋りに渋られなんとかOKしてくれたところもあります。義父母ふたり分で15件ほど電話しましたが、明確にNGだと言われたのは1~2件でした。OKをもらえたところにはわたしの携帯番号を伝え、義父母が受診したときは連絡をもらえるようお願いしました。義父母がどれぐらいの頻度で受診するのかは神のみぞ知るですが、夫の実家に行ったときにまとめて保険証を見せに行くほうが、いちいち呼び出されるよりもマシなはず。交渉不成立だったところについては、「義父母が行きたい気持ちになりませんように」と祈るのみ。

苦しまぎれの作戦でしたが、「保険証なしでも受診OK」の環境を整えたことで、義父母の気持ちは落ち着きました。義父からとがった声で「保険証をすぐ持ってきてください」の要請があったのは、後にも先にも、あの電話だけです。「心配だから」と何もかも家族が引き受けようとすると、時間がいくらあっても追いつきません。お互いに無理が重なると、「やってあげてるのに感謝しない」「頼んだわけでもないのに押しつけがましい」といった衝突の原因にもなります。抱え込まずに、周囲に事情を話してみる。1本の電話から思いがけず、解決策が見つかることもあるかもしれません。

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