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悪口、文句ばかりの認知症の義母 「年のせい」は禁物 もめない介護99

テレビを見る人
コスガ聡一 撮影

年をとって、親の性格が変わった気がする。いつもイライラして文句ばかり言う。口を開けばご近所さんの悪口ばかりでウンザリ。正直言ってもう会いたくないんだけれど……。そんな相談をされることがあります。

攻撃的な親の言動に、戸惑う子ども世代。「昔はこんな人じゃなかったのに……」と不安を覚えるケースもあれば、「うちの親は昔から身勝手で!」と、腹を立てるケースもあります。たしかに、年をとるほど、もともと“困った性格”がより先鋭化されるといった話はあちこちで耳にします。

でも、すべてを「年のせい」と決めつけるのは禁物です。

たとえば、おっとりと穏やかだった母親(あるいは父親)が、急に攻撃的になった場合、認知症の予兆であることも考えられます。家族の知らないところで何か困りごとが起きていて、ご本人も不安でいっぱい。それが、周囲への八つ当たりにも見える言動に現れているのかもしれません。また、認知症ではなくとも、何かの不調や病気に由来する変化の可能性もあります。

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私が「親のきつい言動」の対応を迫られたのは、義父母が夫婦そろってアルツハイマー型認知症だと診断され、しばらく経ってからのことです。
義父はアルツハイマー型認知症といっても「軽度」で、多少もの忘れがある程度という状態が続いていました。「2階にドロボウがいる」と訴える義母をなだめ、戸締まりをし、お金を管理し……と、献身的に義母の暮らしをサポートしてくれていました。

エスカレートしていった義父への罵詈雑言

ところが、そんな義父に対して義母は言いたい放題。

「お父さまはヒゲもうまくそることができない」
「よくそんな服装で、外出しようという気になれる」
「何もかも忘れてしまって、本当にダメ」
「もっとちゃんとしてほしい」

ものをなくすのも、予定を忘れるのも圧倒的に義母のほうが多かったのですが、「忘れたこと自体を忘れてしまう」ため、ご本人はどこ吹く風。「忘れてしまった」という自覚があった義父が一生懸命メモをとっていたのに対して、義母はメモをとる気もなく「ちゃんと覚えておいてくださいね!」と、のたまっていました。

ひどいやりとりだなと思いながらも義父母に会うのは、もの忘れ外来の往診付き添いの時などに限られています。目くじらを立てるほどでもないかと見過ごしてしまっていましたが、ある日、訪問介護事業所から連絡がありました。

「ご夫婦のことなので、これまでの関係もあると思って見守ってきたのですが、どうにもお父さまへの“当たり”がきつく……。もしかしたら、認知症の進行なども関係しているかもしれません」

言いづらそうにしているサービス提供責任者(訪問介護サービスのコーディネート全般業務に携わる役目。“サ責”とも呼ばれる)の方に詳しく尋ねると、義母の罵詈雑言エピソードが次々と……。

認知症の薬には「活発にする薬」と「穏やかにする薬」がある

サ責さんの進言を受け、もの忘れ外来を受診。医師と相談し、1カ月間だけの期間限定で抗精神病薬が処方されることになりました。このとき、医師から繰り返し注意されたのが、「認知症の進行が原因だったとしても、薬だけでムリヤリ症状を押さえようとするのはよくない」ということでした。

認知症の薬は大きく分けると、「活発にする薬」と「穏やかにする薬」の2種類があり、それぞれメリットもデメリットもある。今回、処方するのは後者にあたり、強制的にボーっとさせる作用がある。飲むことできつい言動はやわらぐかもしれないけれど、同時に、活動量が減り、衰えにもつながるので、長期間は服用させたくないという説明でした。
「ケアでの対応が基本で、薬はあくまでも補助的な存在にすぎません」

ケアマネさんやヘルパーさんとも、義母への対応について相談しました。
「もしかしたら、お父さまばかりが褒められるのが、お母さまからしたら面白くないのかもしれません」
そう気づいてくれたのは、ケアマネさんです。義父はもともと真面目な性格で、「1日最低でも500mlペットボトル2本分のお茶を飲みましょう」と医師に言われると、きっちり守るタイプ。一方、義母は気まぐれで、他人から強制されることをとことん嫌がります。その結果、「水分をしっかりとって素晴らしいですね」と褒められるのはもっぱら、義父。「A子さん(義母の名前)も飲みましょう」と声をかけられることが、プレッシャーになっていたのではないかということです。

ケアマネさんやヘルパーさんと相談し、義父母を比較するような言動は避けるという方針を決めました。そんなつもりはなくとも、義母が「比較されてけなされた」と思うことがないよう、家族も改めて気を付けるようにしました。

穏やかな義父が、強く苛立つことも

薬の調整をしてから約1カ月後。義母は相変わらず、義父への文句を言うものの、ボリュームもきつさもやや軽減。時には優しい言葉も出てくるようになり、予定通り、抗精神病薬はストップすることに。いまに至るまで、もう一度、抗精神病薬を必要とする状況にはなっていません。

一方、ひたすら穏やかに義母の聞き役に徹していた義父でしたが、その後何度か、強いいらだちをあらわにする時期もありました。

「家内がおかしなことばかり言って困る」
「存在しない子どもの話をしょっちゅうしていて、付き合いきれない」

そんな愚痴のような、義母に対するクレームのような相談が急に増えたのは、夫婦そろって有料老人ホームに入所したころのことです。
義母はもちろん、義父も生活環境が変わったストレスを感じていた時期だったのかもしれません。ふたりとも認知症が進んだのかなと感じさせる言動も少しずつ増えていました。

そのときは思い切って、義母が認知症であることを話してみました。義父母はともに、自分たちが認知症だという認識はありません。家族からも、あえてそのことには触れないようにしてきました。伝えても忘れてしまうし、繰り返しショックを与える必然性がなかったからです。この時は、初めて伝える必要性に迫られたタイミングでした。

周囲の専門職に助けを求めながら、みんなで解決策を

義母がいないタイミングをみはからって、義父が言う「おかしな言動」は認知症に由来する可能性があると伝えました。論理的なやりとりを好む義父なら、話を聞いてくれるかもしれないという期待がありましたが、もし、「そんなはずはない!」と怒られたら、即座に撤回する腹積もりもありました。
義父のリアクションは、想像していた以上に穏やかなものでした。

「彼女(義母)には黙っておいたほうがいいね」

そして、なんらかの納得がいったのか、義父のイライラは少しずつおさまり、義母が「見えない子ども」(おそらく幻視)の話を繰り返しても、苦笑いしながら聞き流してくれるようになりました。

これまでと違う親の姿を見ると、あまりにショックで強い言葉で本人に反省を促したくなったり、薬に頼りたくなったりするかもしれません。でも、本人も好きでそうなっているわけではないことも多々あります。きつい言動にさらされると、なかなかそうは思えないかもしれませんが、あわてて自分ひとりで対処するよりも、周囲の専門職に助けを求めながら、みんなで解決策を探ってみる。それは一見、遠まわりなようでいて、穏やかな日常を取り戻す近道なのではないかと思うのです。

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