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高齢の親の「施設選び」ポイントは?我が家はこうでした もめない介護89

コスガ聡一 撮影

年老いた両親が心配。いずれは施設のお世話になる必要がありそうだけど、いつから施設探しを始めればいいのか。そんな悩みをよく耳にします。

また、いざ「施設を探そう!」と決めても、今度は「どう探せばいいのか」「誰と一緒に見学に行くのか。親は一緒に行ったほうがいい…?」と悩みは尽きません。

わが家も施設選びはそのたびに悩み、右往左往してきました。最初の施設見学は、この連載コラムでもご紹介した「デイケア」(通所リハビリテーション)選び。もの忘れ外来で、医師から「デイサービスに通う必要性」を説明され、しぶしぶ納得したような、隙あらば「やっぱり、やめた」と言い出しそうな義父母と見学に行くのは、とっても緊張しました。

幸い、義父母は最初に見学に行った2つの施設のうち片方をまあまあ気に入ってくれて、デイ通いがスタート。途中、「キャンセルしてほしい」「もう通うのはやめたい」「今日は行きません」など紆余曲折はありつつも、その通所リハビリ施設には、介護付き有料老人ホームに入所する直前までお世話になりました。どちらかというと、義父は囲碁仲間がいるデイ通いには乗り気で、義母は消極的でした。

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義母は口を開けば「行きたくない」「面倒くさい」と言っていたのに、いざ辞めるとなると、「急に辞めたら“気に入らないことがあった”とみなさん(職員さんたち)が心配するんじゃないかしら」と気をもんでいたのも印象に残っています。

逆に、半日型のリハビリに特化したデイサービスの見学はうまくいきませんでした。

義母ひとりでの在宅継続は難しい

当時、義母はあの手この手で義父を説得し、デイ通いがある曜日の朝になると、義父から通所リハビリ施設にキャンセルの連絡を入れさせるということが増えていました。ちょうどそのころ、義父の脚力が少しずつ弱っていたこともあり、「夫婦別々のデイサービスに通うのはどうか」と、もの忘れ外来で勧められたのですが……。

「運動をするなら、わたしも一緒に行きたい」と見学についてきた義母が、あれやこれやと理由をつけて大反対。もともとスポーツクラブに通っていた義父は乗り気だったものの、義母が「施設の雰囲気があまり良くない」「家から遠いので通うのが大変」「人が多すぎる」などなど、ネガティブなことを言いまくるものだから、「またの機会にしようと思う」と、だんだん後ろ向きに。

「うちから歩いて行けるぐらいの場所があったらいいんだけどねえ」と、したり顔で言う義母をどやしつけたくなったのも、いまでは懐かしい思い出です。

そして、義父が肺炎で緊急入院した2018年2月。その間、義母が一時的に入所した介護付き有料老人ホームは、義父母も、わたしたち夫婦もまったく見学しないまま入所を決めました。

義母ひとりでの在宅継続は難しいと、日ごろ来てくれていたヘルパーさんに助言され、「お試し入所」という形で入ったこの介護付き有料老人ホームは、担当ケアマネさんが探してくれました。義父の入院にあわせて、「できれば今日中、それがダメなら明日にでも入所したい」と切羽詰まっていたため、ゆっくり見学の時間をとる余裕はゼロ。せめて「無理やり放り込まれた」と義母に思わせることがないよう、入所日には夕飯をいっしょにとってから解散……というのが当時、わたしたちにできたギリギリ精いっぱいのことでした。

その後、義母は地元の介護老人保健施設(老健)に移り、のちに退院した義父が合流したのですが、この老健はデイケア(通所リハビリ)で通っていた場所だったので、フロアこそ違うものの“勝手知ったる”という雰囲気。あえて見学しようという話にもなりませんでした。

第一候補の施設でインフルエンザの患者が

そして、再び在宅に戻ったのちの2019年2月に、義父母が夫婦そろって入所した介護付き有料老人ホーム。義父が亡くなったいまも、義母はこの施設で元気に暮らしています。

施設探しのきっかけは、義父の低栄養です。訪問診療の先生や訪問看護、訪問介護など、これまで在宅生活を支えてくれていた専門職の方々から、「これ以上の状態改善が難しい」と聞かされ、義父はしぶしぶ納得。義母からも「義父がそう言うなら……」と施設探しにゴーサインが出ました。ただし、「終の住みか」ではなく、あくまでも「一時療養」であり、「元気になったら自宅に戻る」という設定になっていました。

義父は長時間の外出ができる状態ではなかったので、見学は必然的に夫とわたしのふたりだけで行くことに。施設を決め、衣食住が確保された安全な環境に一刻も早く義父を移したいという状況だったため、大急ぎで見学のスケジュールを組みました。

その少し前に「もし、ショートステイやその後の長期入所を考えるなら、おすすめの施設がある」とケアマネさんに教えてもらったところが第一候補。見学に行き、施設長さんとの面談も済ませ、あとは入所日の調整を待つばかり……という段階で、思いがけない事態に直面します。

施設内にインフルエンザの患者さんが出たため、原則として新規契約者の受け入れも禁止。ただし、すでに施設長面談も終わっていたことから、「もし希望があるなら特別に受け入れを許可しますが、どうしますか?」と、ケアマネさんを通して施設から問い合わせがあったのです。

私をよく知る夫から、こんこんと訴えられ

このときは本当に迷いました。当時はまだ新型コロナの影もかたちもなく、冬の怖い病気といえばインフルエンザが代表選手。でも、高齢者が大勢いる以上、インフルエンザがはやる時は、はやる。それを理由にせっかく良さそうな施設をあきらめるのか。でも、もしも義父がインフルエンザにかかってしまったら……?

でもまた、最初から施設を探すかと思うとウンザリする。もう、これ以上探さなくてもいいのでは……。

「受け入れてくれるなら、いまお願いしているところに行きたいです」

そう答えようとしていたわたしにストップをかけたのは、夫でした。

「ケアマネさんが、インフルエンザがまだ出ていない施設を探してくれるというなら、探してもらおう。もし、おやじがインフルエンザにかかって、万が一のことがあったら多分、自分のことを責めるよ。俺は絶対にそう思わないよ。でも、きっと『わたしのせいだ』って思うでしょ? そんなのつらいじゃん。やめようよ」

おっしゃる通り! よくわかってるね!! 義父母を早く施設に移したいのはやまやまだけど、あと1~2週延びたところで状況は大きく変わらない。“万が一”が起きたとしても、わたしたちのせいではない。もともと義父母は「家で暮らしたい」と言っていたのだから、それはそれでオッケーのはず。夫にこんこんと訴えられ、施設を再び探すことに決めたのです。

おいしい食事と週1回のリハビリが決め手に

ケアマネさんがつないでくれた、有料老人ホームの相談員さんから提案された施設は2カ所。どちらも施設内でインフルエンザは出ておらず、見学可能だと言います。大急ぎで夫とスケジュールをすり合わせ、見学をセッティング。食いしん坊の義父母への提案材料として、ランチも試食させてもらうことに。

同じ企業が運営する施設でしたが、実際に見学してみると建物内の雰囲気も、リハビリメニューも、食事内容も違いました。最終的に入所の決め手になったのは、施設の雰囲気と食事のおいしさ、そして理学療法士が常駐していて、週1回のリハビリが確約されていること。もともと入所を希望していた施設に比べると、こぢんまりしているけれど、その分アットホームで、ここなら義父母もなじんでくれそうだと感じました。

実際に施設の食事は「ここの食事はなかなかいい」「特別なものは出ないけど、悪くないの」と義父母からお褒めにあずかり、「自宅に帰りたいけど、帰りたくない」と揺れる気持ちをなだめる役割も果たしてくれました。

施設探しのタイミングはご本人の気持ちや、そのご家族の事情にも左右されます。切羽詰まった中での施設探しとなると、「もっと、こうすべきだったか」「ああすればよかったのでは……」と後悔のような気持ちが残ることもあるかもしれません。新型コロナの影響で思うように見学もできず、こんな少ない情報で決めてしまっていいのか……と戸惑い、悩んでいるという話も聞きます。

でも、ご本人の言葉に耳を傾け、気持ちをおしはかり、その人の人生を大切にしながらの選択であれば、100点満点の正解かどうかは別として、きっと間違いではない。100人いれば100通りの、わが家にとっての“正解”があると思うのです。

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