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「町内会の人」指数でわかる ベテランへルパーの技 もめない介護90

コスガ聡一 撮影

「おふたりとも、在宅生活を続けるのはもう限界だと思います!」

認知症介護がスタートしたころからお世話になっているヘルパーさんから、そう告げられたのは2018年の夏のことです。とくに前フリがなく、少しきつめの口調だったのでびっくりしたのを覚えています。

当時、義父母が介護老人保健施設(以下、老健)でのリハビリ生活を経て、自宅に戻ってきて数カ月というタイミングでした。当初、2018年の夏は老健に戻り、「猛暑をやり過ごしてからまた家に帰ろう」ということで義父と話がついていたのですが、直前になって「やっぱり施設には行きません」とキャンセル。通所リハビリ(デイケア)通いも施設暮らしも嫌がっていた義母にとっては、万々歳の夏となりました。家族としても、義父母が強く嫌がることは無理強いできない(命にかかわること以外)、と考えていたのです。

この老健キャンセルについて、担当ケアマネジャーさんは「いいと思います。今回無理にお連れするより別の機会にお話しされるほうが、お気持ちも変わるかもしれませんし」と支持してくれました。一方、ヘルパーさんからは「考えが甘い」というようなことをやんわり言われていたのです。さらに、こんなコメントも。

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「入所が決まっていると聞いていたから、土曜の休みも返上でお世話したんですが、それがかえってよくなかったのかもしれないですね」

冗談まじりではあったものの、ちょっと本気の苦言のニュアンスも見え隠れします。「休日も返上」は初耳で、どういうことだろう……?とけげんな気持ちになりつつ、担当ケアマネさんに確認すると、お願いしていた介護訪問事業所は本来、土曜日はお休み。ただ、義父母のデイケア通いに合わせて、休日出勤してくれていたというのです。そうだったの!?

限界なのは義父母ではなく

さらに、そのヘルパーさんがこれまでは、いちヘルパーとして働いていたけれど、最近「サービス提供責任者」(利用者さん、ケアマネジャー、ヘルパーの橋渡し役)となったということも聞きました。

実はこの方、義父が肺炎で緊急入院することになり、義母が「自宅で帰りを待つ」と言い張ったときに、「ひとりで暮らすのは無理だと思いますよ」とアドバイスしてくれたヘルパーさんです。認知症介護がスタートして以来、定期的に訪問介護で入ってくれ、義父母の暮らしぶりもよくわかってくれているのは常々感じていました。

でも、今回の「無理だと思います」のやりとりには、どうも違和感があったのです。わたし自身、義父母の衰えを認めたくないという心理が働いてるのかなとも考えてたのですが、それとも少し違っていました。「無理」と強く言い切るだけの理由が見えてこない。担当ケアマネさんと話をする中でたどりついた共通認識としては、在宅生活が難しくなりつつあるのは確かだけれど、では今すぐ諦めるべきかというと、そうとも言えず……と、中ぶらりんな状態。

なので、結論としては「様子を見ましょう」。それはそれとして、メーンで担当してくれているヘルパーさんが、どうも限界を感じているらしいことに対して、どう対処するかという新たな課題に直面することに。

増えていく“町内会”の方

ケアマネさんからは、こうアドバイスされました。
「土曜日に出勤するかどうかは訪問介護事業所が決めることなので、ご家族が気にされる必要はないと思います」
その通りだなあと思いつつも、ふんぎりがつかなかったのには理由があります。

「最近、よくいらっしゃる“町内会”の方、ちょっとアレなのよねえ……悪い方ではないと思うんだけど」
「いろいろ良くしてくださるんだけど、できればもう少し来ていただく回数を減らしてほしくて。あなたから“町内会”の方にそれとなく伝えてくださらない?」

当時、義母の愚痴として急に登場回数が増えていた「“町内会”の方」は、よくよく聞くとヘルパーさんを指していました。「要介護1」から「要介護3」になり、家に出入りするヘルパーさんが増える中で、義母は気づくと、気に入ったヘルパーさんを名前で呼び、気にいらないヘルパーさんを“町内会の方”と呼んでいたのです。

「あの人は私に言うことを聞かせようとする」と義母が繰り返す愚痴に登場するのは、どうも「在宅は限界です!」のヘルパーさんのようです。以前は気の置けない、いい関係を構築できていたように見えていたのですが、どこかで気持ちのすれ違いが生じてこじれつつあるのかも……。そんな不安が頭をよぎりました。

ヘルパーさんの休日出勤の負担を減らすために

「複数の訪問介護事業所にお願いするのって、難しかったりしますか?」

一部のヘルパーさんとぎくしゃくする瞬間があるとはいえ、これまでお願いしていた訪問介護事業所に不満があるわけではありません。むしろ、義父母の暮らしをずっと見守ってくれていて、理解もしてくれている。義父母がヘルパーさんたちを信頼しているのも伝わってきます。なので、訪問介護事業所をまるごとチェンジしたいわけではない。ただ、いまの体制を続けると、どこかでもっと大きなトラブルが起きそうな気もする。

そこで思いついたのが、お願いする訪問介護事業所をふたつにしちゃうのはどう? というアイデアでした。土曜日もやっているところにお願いすれば、少なくとも休日出勤の負担は減らせます。そうすれば、ちょっとはヘルパーさんのイライラも減るのでは…?とも思ったのです。

ケアマネさんは「それもいいですね!」と二つ返事で、すぐに候補となる訪問介護事業所を探してくれました。もともとお願いしているところに対しては、ケアマネさんを通じて「いまのところ、施設入所は考えていない」と在宅継続希望の意思表示をするとともに、とはいえご負担をおかけしているのが申し訳ないため、別の訪問介護事業所とも連携したい旨を伝えてもらいました。

義母がしきりに愚痴っていたやりとりについては、いったん保留。ケアマネさんと相談し、今後も関係がこじれていくようであれば、その時点で改めて訪問介護事業所と話し合おうと決めました。

ネガティブな情報との向き合い方

この体制変更の結果、義父母のもとにはこれまで以上に、さまざまなヘルパーさんが訪れるようになりました。その変化がストレスになるかもしれないのが気がかりでしたが、義父母は想像以上に動揺することなく、ひょうひょうと受け止めてくれました。

「水曜日の佐藤さん(仮名)は、まだ仕事は慣れてないみたいだけど、とっても感じがいいの」
「木曜日のあの方、ほらメガネをかけている佐藤さんは気が利く人でね、この間はスーパーに行ったついでに桃を買ってきてくれたのよ。よく熟れていておいしかったの」

義母はご機嫌で、会うと楽しそうにヘルパーさんたちとのやりとりを教えてくれます。名前を覚えるのは難しくなっていて、来る人来る人みんな“佐藤さん”になってしまっていますが、「“町内会”の方」の登場回数はまた少なくなっていったのです。そして、すったもんだしながらではありましたが、まだもう少し、在宅での暮らしを続けることもできました。

日ごろ、身近なところで生活を見守ってくれているヘルパーさんの声は、離れて暮らす家族にとって貴重な情報源です。「在宅生活を続けるのはもう限界」というネガティブな情報にも耳を傾けたほうがいい。かといって、うのみにするのもよくない。とっても難しくはあるけれど、参考情報のひとつとして捉えてもう一度、「今」を捉え直すことが大事なんだなと気づかされたできごとでした。

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