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菅原進さんが当事者に「白いブランコ」を披露 企画者を動かした思いとは

常に寄り添っている裕さんと君子さん

兄弟デュオとして多くの名曲を世に送り出してきたビリーバンバン。その曲は今もたくさんの人に愛され、歌い継がれています。しかし、12月に行われた今回のライブは、たった1組の夫妻を対象に、同デュオのほかミュージシャンが集結したものでした。どのような背景があったのでしょうか。ステージを終えた菅原進さんと、ライブの発案者であるPAPAS源太さん、認知症当事者の高井裕さんと妻の君子さんにお話を伺いました。

目の前で「白いブランコ」を歌いたいと思った

――ライブは大成功でした。そもそも今回のライブはどのように企画されたのでしょうか

PAPAS源太さん(以下源太さん) 僕は数年前から認知症や介護にも関心を持つようになり、認知症関連のイベントなどで歌ったり演奏したりといった音楽活動を続けてきました。その中で、認知症専門医の内門大丈先生と知り合い、「認知症のご家族に向けた動画を作りたいから協力してもらえないか」と声をかけていただいたんですね。たとえば「母が認知症になってどう対応すればいいのかわからない」というように、認知症に直面して迷ってしまう方がたくさんいらっしゃる。そういう方々に向けて、できれば当事者やそのご家族に登場していただいて動画を作れないかと。その動画に出演していただいたのが、高井さんご夫妻だったんです。
※記事の最後に内門先生が企画した動画へのリンクがあります

高井君子さん(以下君子さん) インタビューをしていただいたんですよね。

源太さん お二人とも音楽が好きで、出会いも音楽がきっかけだったという話をなさった。その流れで「思い出の曲は何ですか」と聞いたら、「ビリーバンバンの白いブランコ」だと。

左からPAPAS源太さん、ビリーバンバン菅原進さん、高井裕さん、君子さん

君子さん そうなんです。若い頃の思い出の曲でもあるけれど、認知症と診断されたあとに、私たちが音楽活動を始めるきっかけになった曲でした。ライブの前座で歌わせてもらって、みんなに喜んでいただいたから、二人でできることをやってみようと思えたんですね。

源太さん 私と(菅原)進さんは昔からの音楽仲間でね。完成した内門先生の動画を進さんに見せたら感動してね。「ゲンちゃん(源太さん)、裕さんに会いに行こうか」って言いだしたんです」

――菅原さんは、動画を見たときどう思われたのでしょうか

菅原進さん(以下菅原さん) それはもう、うれしかったですよ。昔の自分の曲がそんなに愛され、夫婦で歌ってくれているなんて本当にうれしかった。だからとにかく目の前で歌いたかったんですよね。そのときは今日のようにメンバーを集めてライブをやろうなんて考えていなくて、ただ裕さんに会いに行って、裕さんとお話をして、裕さんの前で生歌で白いブランコを歌いたい、と思ったんだよね。

にこやかに今日のライブについて話す高井夫妻

源太さん そうしたら進さんも僕も調子に乗っちゃってね。「せっかくだから裕さんに会いに行くだけじゃなくて、裕さんが通っている横浜市の施設でミニライブをやったらどうだろうということになって。12月4日に開催することになりました。さらに「ライブの様子を撮影して配信して、ほかの施設に通所しているみなさんにも楽しんでいただけたらいいよね」なんて、どんどん企画が膨らんで、施設側の了解も得て準備を進めていたんです。

コロナで疲れている今こそ、音楽を届けたい

――ところが11月半ばから新型コロナ感染症の流行が再拡大して、計画は中止になってしまったそうですね

源太さん そうなんです。施設には高齢の方や基礎疾患をもつ方もいらっしゃるし、みなさんに聴いてもらうとなるとどうしても密になりがちですからね。施設側と相談して「残念だけれど中止にしましょう」ということになりました。ただ、動画配信の計画も同時に進めていたので、「無観客ライブにして、今回は裕さんにだけ白いブランコを聞いてもらおう」ということになり、会場もスタジオに変更したんです。

菅原さん 今はコロナ禍でイベントがどんどん中止になって、みなさんヘトヘトになっていますよね。暗くなりがちだけど、こんなときこそ、ちょっとしたクリスマスプレゼントとして音楽を楽しんでもらえたらいいよねって思ったんですよね。つかの間でもいいから、明るい気持ち、穏やかな気持ちになってさ。みんなで歌えたらいいなと思って。

――お二人の歌は息がぴったりでした

源太さん ぶっつけ本番だったんですよ。

菅原さん いつもそうだよね。ワンコーラス目は僕、ツーコーラス目は源さんとか、曲によって変えています。練習しないでも歌えます。そこは才能です(笑)。

時折、笑顔を見せながら取材に対応した裕さん

――ビリーバンバンのお二人で演奏している時と違って、今回のように複数の楽器が集まるとまた違った良さがありました

菅原さん サウンドが違ってきますからね。ちょっと派手な感じっていうかな。バイオリンみたいな弦楽器が加わると、またいいでしょう? 鍵盤ハーモニカ(ピアニカ)の音色も素晴らしかった。クリスマスだから、みんなで豪華に楽しめれば最高だよね。

源太さん 今回集まってくれたプレーヤーは、バンドのサポートメンバーをしていたり、有名歌手のアレンジャーをしている人もいたり…。そうそうたる顔ぶれです。例年なら12月は忙しい時期ですが、今年はコロナ禍でライブなどのイベントがどんどん中止になっていたので、遠方からもボランティアで参加してくれました。動画配信も、施設のスタッフが「せっかくやるならコロナで外に出られない人のために配信してくださいよ」と提案してくれなければ、考え付かなかった。コロナがなかったらこういうイベントは実現しなかったかもしれない。コロナも悪いことばかりではないと思いたいですよね。

音楽は世の中を明るくしてくれる

ライブ終了後に握手を交わす裕さんと源太さん

――君子さんは今日のライブはいかがでしたか?

君子さん 生で聴く白いブランコは本当に素晴らしかったです。ライブ中に裕さんがどんな反応をするのかハラハラドキドキでしたが、みなさんごく自然に受け止めてくださった。裕さんも楽しんでいましたし、私にとっても素晴らしい一日になりました。

源太さん 認知症の介護の現場はとても大変なんです。そんな中で、君子さんが裕さんに寄り添っている姿を見て、これこそが内門先生が動画で伝えたかったことなのではないかと思いました。「認知症の当事者にどういう風に接すればいいの?」という問いに対する答えだと思う。寄り添ってください、それが大事だと。今日、進さんはそんな思いを込めて歌ってくれたんだと思います。

君子さん 認知症を発症してから今年で13年目、夫婦で音楽活動をするようになって、8年くらいになります。大好きな音楽にかかわってきたおかげで、認知症の進行が遅かったのだと、私は思っています。

菅原さん 夫婦で歌えるって素晴らしいよね。最高の愛のコミュニケーションだと思う。

――今回のようなイベントをやってみて、いかがでしたか?

源太さん 今後もさまざまな形で音楽を届けていきたいですね。

菅原さん 僕らの歌を聞いてみたい、歌いたいと思ってもらえるなら、今後もこういった催しをいろいろなところでやってみたいと思っています。今度は施設でもやってみたいし、行くことができなければ配信でもやってみたい。音楽は世の中を明るくしてくれるからね。

※文中に登場した、内門大丈さん(湘南いなほクリニック院長。いなほクリニックグループ共同代表)企画の、認知症当事者の家族向け動画「安心して」は、こちらからご覧になれます

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