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もめない介護

認知症介護にデイサービス 本人が嫌がる場合には もめない介護15

車を運転するイメージ
コスガ聡一 撮影

「生活リズムを整えるためにも、日中はデイサービスの利用を検討してください」

義父母がアルツハイマー型認知症だとわかった後、わりと早いタイミングで医師から何度かアドバイスされました。

昼間はしっかり活動し、夜はぐっすり眠る。こうした生活リズムを整えることで、不安感がやわらぎ、「ものとられ妄想」などの周辺症状もおさまるというのです。また、新しい人間関係が始まることはよい刺激になるのはもちろん、自信を取り戻すことや生きる気力にもつながるとも説明されました。

ただ、デイ通いをいやがるお年寄りも少なくないという話もよく聞きます。義父母も当初は、まるで気乗りがしない様子でした。

ただ、医師から「デイサービスに通う必要性」を説明されるうちに、少なくとも義父は検討する気になったようです。「ケアマネジャーさんによく相談して、(自分に)合う場所を探してもらって」と医師に言われたとき、誰よりも早く「わかりました!」と返事をしたのも義父でした。

施設候補探しと見学の予約に関しては、「進めていい」と義父の了承を得ることができました。義母のほうはというと「おとうさまがいいなら、いいわよ。お任せするわ」といった調子で、まったく関心がなさそうです。

家族の声かけが、ポジティブなイメージを印象づける

見学をしたあと、父母の気持ちがどう変わるのか、変わらないのか。この時点ではまったくわかりませんでした。担当ケアマネに相談し、まずは「おふたりに“その気”になってもらうことを最優先で考えよう」という方針を決めました。

では、どうすれば“その気”になってくれるのでしょうか。

担当ケアマネに、これまでに見聞きした家族のふるまいとその後の経過について聞いてみました。すると、いくつかのヒントが見つかりました。

まず、どんなにいい施設だと思っても、家族があまりにも強く勧めるのは逆効果。「結論ありきなのか」「どうせ意見を聞く気はないのだろう」と親がヘソを曲げてしまうケースが少なくないそう。また、こんなアドバイスもありました。

「ただ、なにも言わずに黙って見学するだけだと、せっかく参加者の方々が楽しそうに過ごしているのを見かけても、印象に残らないんです。ご家族が『みなさん、楽しそうね』『お花がきれいね』などと声がけすることで、ポジティブなイメージを印象づけることも大切かもしれません」

施設への質問攻めは、本人の不安をあおることも

さらに、目からウロコが落ちる思いだったのが、見学先の施設とのやりとりに関する助言です。「疑問に思ったことはもちろん、なんでも聞いていただいて構いません」と前置きしながら、担当ケアマネはこんなケースを教えてくれました。

ある認知症の高齢女性と、その娘さんがデイサービスの見学に行った際、娘さんは施設の体制をきびしくチェック。対応してくれた職員を質問攻めにしたそう。職員はしっかり答えてくれて、娘さんは納得したものの、ご本人はすっかり不安になってしまい、「なんだか怖いからいくのをやめる」と気持ちが後ろ向きになってしまったとか。

親のことを思い、良かれと思ってした質問が逆に、不安感をあおってしまうこともあるのだと知りました。そこで今回の見学では「その場ではご本人たちが聞きたいことを中心に最小限の確認だけする」「聞きそびれた質問については、あとから改めてやりとりする」と決めました。

そして迎えた見学当日。義父母は思いのほか機嫌がよく、「デイ通いなんてしたくない!」という拒否も出ず、午前に1件、午後に1件と計2件の見学をすることができました。

念入りな下準備が実を結んで

「今日行った2つの施設では、どちらがお好みでしたか?」
見学を終え、担当ケアマネがそう尋ねると、義父母からはこんな答えが返ってきました。

「そうねえ。どちらも悪くはないと思うけど、しいていえば午前中のほうかしら」
「僕はどちらでも構わないよ」

なんとか合格はもらえたようでした。
「希望の曜日に空き状況があるかどうかわからないので、まずはそこを確認し、都合が合うようなら手続きを進めてもいいですか」

こう尋ねることも、あらかじめ担当ケアマネと打ち合わせしてありました。できるだけ大げさに聞こえないよう、遠回しな表現にしながらも、ご本人たちの了承を得て進めていくという作戦です。

「そうね。お願いします」
「向こうにも都合があるだろうからね。よろしくお願いします」
と、こちらについてもあっさり承諾。担当ケアマネの協力のもと、念入りな下準備の甲斐あって「週に1回、デイに通う」というスタートラインに立つことができたのです。

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