なかまぁるクリップ

涙を誘うアニメ映画。魂やどる家族の味。監督に聞く、初受賞の制作秘話

「なかまぁる Short Film Contest 2020」クリエイター部門において、「パパのパイ」で優秀賞受賞の監督のにじたろうさん

落ち込んだときは、いつも“パパぐま”がパイを作ってくれた。でも、老いてしまったいまはもうパイは焼けない。それどころか、こぐまのことすら忘れてしまって――。
わずか5分のミュージックビデオ。にじたろう監督の「パパのパイ」は、せりふがないにもかかわらず、観る者に様々な記憶をよみがえらせる。作品にどんな思いを込めたのだろう。

■母が祖母を介護する姿を見ていた

――自分の家族のことを思い浮かべ、胸がいっぱいになったという感想が多く寄せられたと聞きました。どのようにストーリーを練り上げていったのですか

これまで10年以上にわたり、CGクリエーターとして「ほしぐま」という、クマの親子の物語をつくっていたのですが、数年前からジェイ・アニメ・ドットコムというアニメ制作会社と共同作業を行うようになり、そのなかの一つとして「老い」をテーマにした作品を作ることになりました。アニメ制作会社の担当の方も、お父様が介護施設にいらして、という背景があったので身近なテーマだったのかもしれません。

そこから物語を膨らませていくわけですが、僕は「ほしぐま」の作品を作る際は、いつも絵コンテの段階で一緒に暮らす母や弟に見てもらうようにしています。自分一人で考えていると、果たしてそれでいいのかわからなくなってしまうので。

いまは亡き祖父母とも、数年前まで同居していました。祖母は亡くなるまでの5年ほど認知症の症状が出ていたので、この作品においては介護をしていた母の経験も役に立つのではないか、とも思いました。

――お母様からは具体的にどのようなアドバイスを受けましたか

たとえば、授賞した今回の作品には“パパぐま”がアルバムを見ているシーンがあり、これは母のアドバイスが参考になりました。「アルバムを見せてピンとこなかったら、パパぐまは記憶が薄れてしまっていることが伝わるよ」と。母はクリエーティブな業界に属しているわけではないからこそ、一般的な感覚でアドバイスをくれます。

祖母を介護する姿は僕も間近で見ていましたし、本当に大変な日々だったと思いますが、祖母は色々なことを忘れていくにつれどんどん穏やかになっていきました。忘れていくということは、すべてから解放されていくということ。家のなかの雰囲気が暗くなることもなく、祖母のニコニコしている顔が印象に残っています。

「パパのパイ」は、2019年のキネコ国際映画祭(日本)、オウル国際子ども・青年映画祭(フィンランド)などにオフィシャルセレクションとして選出されている。

■題材が「パイ」であった理由

――親子を結ぶ大切なモチーフとして、「パイ」を選んだのはなぜでしょうか

僕自身にも、“家族の味”と呼べるものがあります。子どもの頃から、親戚が集まるときは、父方の祖父がいつも皮から手づくりしたギョーザを振る舞ってくれていたんです。祖父は、若い頃に中国に渡っていて、レシピはその時に現地の方に教えてもらったものだと聞きました。祖父が亡くなってからは僕といとこたちがレシピを受け継ぎ、みなで集まるときはギョーザパーティーをするのがお決まりになっています。30人ほどの親戚が集まるので、300個ほどのギョーザをつくって、水ギョーザと焼きギョーザの両方で楽しむんですよ。

祖父は亡くなってしまったけれど、“祖父の魂”みたいなものは餃子という形で僕らのなかに存在している。そんなふうに感じるんです。なので、パパぐまの物語を作るうえでも最初はパイではなく「ギョーザ」で考えたのですが(笑)、パイの方がわかりやすいかな、と思い設定を思いつきました。料理を中心に、家族同士の温かいコミュニケーションが続いていけばいいな、という思いが根底にはあります。

――「パパのパイ」では、受験に失敗するなど、私たちの人生で起こるさまざまな事柄も描かれます

ケンカして、受験に失敗して、失恋して……。人生において、「成功」なんてなかなかしないですよね。自分自身が失敗してきたことを思い浮かべながらつくっていた部分はあります。「ほしぐま」のストーリーはもう10年以上にわたりつくっているので、どこか僕の一部のような存在になっていますね。

楽曲は、ミュージシャンであるいとこの眞中やすさん、イシイモモコさんが手がけた。

■「当たり前が幸せ」と気づいた

――にじたろう監督は、そもそもなぜアニメーションの世界に飛び込んだのですか

僕はもともとグラフィックデザイナーとして働いていて、その頃はクライアントからの要望を受け仕事をしていました。ですが、次第に「自分のキャラクターで、自分のストーリーで世の中を感動させたい」という思いが強くなっていきました。
なので、いまはストーリーを考えることにもっとも時間を費やしています。一般的にミュージックビデオというと、曲ありきで物語をつくっていくバターンが多いですが、「ほしぐま」の場合、先に物語があります。これは珍しいパターンかもしれないですね。

――今後はどんな作品を発表していきたいと考えていますか

「家族」というテーマで物語をつくりたい、という気持ちは年々強くなっています。
家で家族と食事をする。そんな当たり前のことが実は幸せなんだ、ということに気づくことができれば、自分の中に“土台”のようなものができて、たとえ外の世界でつらいことがあっても乗り越えていけると思うんです。

僕は家族といることで幸せを感じていて、都心部は核家族化が進む中、大人数で食卓を囲んでワイワイすることを「珍しい」と感じる人もいるのかもしれませんが、決してみんなができないことをやっているとも思っていないんです。これからも「日常のなかに幸せを見つけ、その幸せを感じることが大切なのではないか」というメッセージを発していけたら、思っています。

にじたろう
CGクリエーター。1976年生まれ、神奈川県出身。武蔵野美術大学卒。2014年に株式会社「にじたろう」を設立。おもに子どもやファミリー向けのCGアニメ・デザイン制作を行う。

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