栄光は無声アニメ!認知症もダイバーシティー 短編映画祭授賞式リポート
取材/朴琴順 撮影/伊ケ崎忍
「なかまぁる Short Film Contest 2021」の授賞式が9月25日、オンラインで開催された。「なかまぁるSFC」は認知症フレンドリー社会の実現を目指し、今年で3回目の開催。ノミネートされた7作品から、最優秀賞、優秀賞、ヤングディレクター賞が発表された。
ノミネート作品は、「なかまぁるショートフィルムコンテスト2021ノミネート発表!」で視聴できる。
国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)などを手がけるショートフィルムの総合ブランド「SHORTSHORTS」の協力を受け、6月1日から8月10日まで作品を募集。45作品の応募があった。
授賞式は司会の町亞聖さん、松浦祐子なかまぁる編集長のスタジオと、映画コメンテーターのLiLiCoさん、福祉ジャーナリストの町永俊雄さん、そしてノミネートされた監督らをオンラインでつないだ。
町永さんは「今年も力作ぞろい。ただ今年はどれも手ごわい作品が集まった」と講評。認知症をドラマや映画で描く定型的な物語を解体して、見る側に託している作品が多いこと、コロナ禍で多くの人が感じた「存在の不安」と、認知症の人たちの「これからどうなっていくんだろうという不安が共鳴している」と今年のノミネート作品の多様性や現代性をたたえた。
ヤングディレクター賞は藤井翔太監督の「音楽と認知症」
今後活躍が期待される監督に贈られる「ヤングディレクター賞」には藤井翔太監督のドキュメンタリー作品「音楽と認知症」が選ばれた。
参加できなかった藤井監督のメッセージを、美術担当のStella Creary(ステラ・クリーリ)さんが代読で読み上げた。
撮影のきっかけは若年認知症の方々が働くカフェに偶然入ったこと。そこで今回のドキュメンタリーの主役であるご夫婦に出会ったという。「ご夫婦が人前で演奏を成功させ、テレビに出演したというストーリーで2019年に完成させようとした」が、やめたという。この間に「若年認知症の進行が早いことに気がつきました。取り戻した演奏の能力も再び失われるのだ」と分かったからだ。完成したのは2020年11月。「困難な現実に対して強い意志を持って立ち向かっている方を映像として表現したかった」。
LiLiCoさんは「認知症でできなくなることはあるけれど、できることに目を向けて夫婦力合わせてやっていく姿。音楽というユニバーサルなものを通じてコミュニケーションしている。夫婦の意味というのも考えさせられた」と感想を話した。
優秀賞は板橋知也監督の「ある母」
優秀賞は板橋知也監督の「ある母」に贈られた。
新作のロケハン中という板橋監督は、車の中から中継して参加。「不意にきてびっくりしちゃいました」とひと言。
「この話は複数の友人の話を元にしました。親が認知症になって子どものようになるのが本当につらかったんだけれど、ある瞬間に『可愛い』と思って、肩の荷が下りたという話をしていたんです。それを聞いたときに映像にしてみたいと思いました」と作品の狙いを話した。
LiLiCoさんは「映画としてエンターテインメントになっていたと同時に、リアルがあった。もっと長い作品も見てみたい。これからも素晴らしい作品、シビアなテーマも色々な切り口で作ってくれるのではないか」と期待を寄せた。
難しかった部分は?という質問に板橋監督は「重いテーマなので、どう扱ったら良いのか悩んだ。人間ドラマにしようかなど考えたけれど、最終的には淡々と描いて観客にゆだねる見せ方になりました」と振り返った。
最優秀賞はアニメ作品 FOREST Hunting Oneの「MIA」
最優秀賞に輝いたのは、FOREST Hunting One(フォレストハンティングワン)のアニメ作品「MIA」(エムアイエー)。
制作チームを代表して参加した森りょういちさんは「今回は監督を立てずに、会社名にした。衝突もいっぱいあるけれど、民主的な方法でチームでやりたいと思って作った作品」と話す。
「ど忘れすることってあるけど、それって頭の中はどうなっているんだろう」というのが最初の発想だったという。そこから「若い人の思い出し方と高齢者の思い出し方は違うんじゃないのか」「(認知症の人でも)どうしても思い出したいものを思い出す奇跡」「きっと本人のなかで(そのピースを探して)かけずり回っている」とイメージが膨らんでいった。
LiLiCoさんは「言葉はないのに、これだけ通じるのがすごい。世界中に通じる作品」。町さんも「やっぱり日本のアニメはレベルが高かったんですね」と絶賛した。またLiLiCoさんは「老夫婦の(記憶の)倉庫の棚に物がないのが切なすぎた。涙で前が見えなかった」と感動を語った。
つながる認知症、ダイバーシティー、バリアフリー
受賞発表の後も、トークは盛り上がった。
「1回目は授賞式も会場で、たくさんのマスコミにきていただいた。いまはこうやってオンラインになっているけれど、できることもある。今年もやったのがとても大事なこと。3回目でどんどん作品も増え、若いクリエーターが才能を見せられること、とても大事」とLiLiCoさん。「みんなが映画のことを話しながら、自分の話をできる。だから映画って長くても短くても素晴らしい」。
町永さんも「映画を語ることは自分を語ること、それは名言」と同意。
町さんは「今日作品を見て、社会は既に多様だし共生していると思いました。それにいかに私たちが目を開けるか…。映画を一つの気づきのきっかけにしたい」と話した。
松浦編集長は「みなさんの話を聞いて、そういう解釈もあるのか、もう一度見直してみなきゃ」「認知症やダイバーシティー、バリアフリーはそれぞれ解決すればほかの解決につながると思いました」と感想を語った。