ちいさな秋の香り、手触り…五感を通して心に問いかけるアートワーク
《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
色とりどり。
机に広がる、秋の色彩。
葉がカサカサと、小さな音をたてる。
乾いた手ざわり、森の匂い。
よみがえるのは、みずみずしい体感。
葉っぱ一枚。
巡りあうのは、
今ここにある、実感。
「高齢者や認知症がある方へ、どうやってアートワークをするのですか?」
私は高齢者施設で、アートワーク(芸術療法をもとにした、プログラム)を行ってきたので、たまに、そう聞かれます。
様々なやり方、視点があるのですが、私はシンプルに、
「アートを使って、対話すること」と答えます。
対話のはじまりは、問いかけです。
葉っぱが一枚あれば、
「どんな色が見えますか?」
「どんな香りがしますか?」
「どんな気持ちになりますか?」
そうやって、今ここに意識を集中させた、
対話をはじめられます。
それは、記憶障害がある方にも、話やすい状態でもあります。
そして、その対話には必ずしも、ご本人の返答はいりません。
無言のご本人に「きれいな色ですよね」と言葉を重ね、場をおさめる必要もないのです。
問いかけ、そのまま共にいるだけ。
それだけで、いいのです。
色や香り、手触り、音、味覚。
五感を通して動いている、ご本人の心に問いかけ、共にたゆたうこと。
それこそが、
アートワークの対話なのです。
その対話は、高齢者だけではなく、共にいる私たちにとっても、
今、生きている実感をよみがえらせてくれます。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》