もめない介護

通夜MB5 マジでボロ泣き5秒前。義母の眉間に涙引く もめない介護82

高層ビルのガラス清掃をする男性

認知症の義母とともに、亡くなった義父を送り出す。それは想像していた以上に、“山あり谷あり”なできごとでした。義父母がともに認知症と診断され、なりゆきで「介護のキーパーソンをやります!」と立候補してしまってから4年。義父母と過ごした時間を振り返り、思わず涙ぐむ……といった時間はほぼなく、ひたすら義母の一挙一動に気をもむことに。

でも、通夜法要が始まると、ようやく静かな時間が訪れました。会場内に朗々と響く読経の声を聞きながら、祭壇に飾られた義父の遺影を見上げると、グッとこみ上げてくるものがあります。

もの忘れ外来で「これからはヘルパーさんなど、外の力も借りましょう」と医師に言われたとき、義父は「家内がいやがるので」と、真っ先に義母を気遣っていました。ガスコンロを、立ち消え防止機能がついたタイプに交換しませんかと提案した時も、お弁当の回数を増やしたいと相談したときも、必ずと言っていいほど直面したのが「家内に聞いてみないと」というセリフ。

おしどり夫婦で、義父がこう!と決めれば、義母は従うのが常だったのに、義父はいつも義母に意見を求めていました。その姿は食事を決める時に、しつこいぐらいに「何が食べたい?」「“なんでもいい”って言っても、強いて言うと何?」と尋ねる夫の姿と重なって、さすが親子だなと感心するやら、あきれるやら。

天真爛漫な義母が伸び伸び暮らせたのは義父のおかげ

義母はもともと過干渉気味なところがあって、夫(義父)や息子(私の夫)への構い方は、どちらかというとしつこいタイプ。「お茶はいかがですか?」と尋ね、「いらない」と言われても、「ひとくちぐらい召し上がったら?」と、よく食い下がっていました。

そこに、認知症による時間感覚の消失が加わると、しつこさは自然とパワーアップ。義父が「いまはいらないよ」「少し眠りたい」と意思表示をしても、数分おきに「あなた、お茶はいかが?」「目をつぶってるけどどうなさったの? 具合でも悪いの」とやってきちゃう。それでも義父は根気強く、おだやかに「お茶はいらないよ」「少し眠たいだけだよ」と答えていました。

義母は、自分のもの忘れを棚に上げ、義父のもの忘れを責めることもしょっちゅう。義父はなんとか忘れないよう必死にメモをとっていましたが、義母はメモをとる気もなく、義父にお任せ。「あれはどうだったの?」「これはいつなの?」と義父を質問攻めにして混乱させた挙げ句、「昔はもっとしっかりしていたのに、いまではちっとも頼りにならない」「メモをとっているのに、なんで忘れるの?」と責めるといったこともありました。そんなときも義父は言い返すでも怒るでもなく、静かに反省していて、夫と2人で「そりゃ、ないよ!」とツッコんだことは一度や二度ではありません。

認知症になっても、義母がのびのびと暮らしてこられたのは、義父のおかげです。天真爛漫さは失われることなく、むしろ、ますます磨きがかかっていました。結局のところ、義母は義父の言うこと以外はほぼ聞かない。そんな義母を1人残して、あの世におさらばするなんてぜひやめていただきたい。責任感あふれる義父のことだから、義母を置いてはいけないはず。義父の具合が悪くなるたび、そう願い、信じてきました。

どうかお義父さん、このまま無事、葬儀まで終われるようお守りください

義父の死に実感が湧かずにいたのは、そんな思いがあったせいもあるのかもしれません。92歳という年齢を考えれば大往生ではあるけれど、「150歳まで生きます」と宣言している義母を置いて、あっさりと旅立ってしまうなんて。

お義父さん、早すぎるよ。勝手なこと言って申し訳ないけど、やっぱり早すぎる。そんなことつらつら思っていたら、いよいよボロ泣き5秒前。でも、ふと横にいる義母を見た瞬間、またもや涙が引っ込みます。

さっきまで神妙な顔でお経を聞いていたはずなのに、義母はやたらと不機嫌そうな顔で、ご住職の背中をにらみつけています。お経の合間に、義父の名前が読み上げられると、さらに眉間のしわが深くなるのです。え……?

義母がいま、どういう心持ちでいるのかさっぱりわかりません。そうこうしているうちに焼香タイムです。葬儀社のスタッフには車椅子のまま行くよう促されますが、義母は聞こえなかったのか、無視したのか、すっくと立ち上がり仁王立ち。あわてて手を添え、体を支えながら、一緒に焼香台の前に向かいます。そして、無事に焼香を終えたと思ったら、義母の体がグラリ!!!

危ない!と思った瞬間、義母は目の前にあった焼香台に敷かれた布をガシッとつかみ、もっと危ない状態に…!! 左手でよろける義母をつかみ、右手で焼香台の布がそれ以上動かないよう支えてセーフ。スローモーションで香炉がふっとび、頭から灰をかぶる義母とわたしの幻が見えました。新春隠し芸大会か!

義母はさすがの度胸で「あらまぁ」と決まり悪そうに笑ってすませていましたが、こちらは動悸が止まりません。どうかお義父さん、このまま無事、葬儀まで終われるようお守りください。静かに見送るどころの騒ぎではなくて本当に申し訳ないけれど、どうかよろしくお願いします。ひたすら、義父に祈りながら、通夜法要を終えたのでした。

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