「お遊び」ちゃうで!介護レクの極意 あるある探検隊の活動報告52
構成/福光恵
「あるある探検隊」のリズムネタで一世風靡したお笑いコンビ・レギュラーの松本くんと西川くんは、いま全国の介護施設をまわって、お年寄りたちを笑顔にする活動をしています。ところがここ数カ月、新型コロナウィルスの影響で思うように活動ができません。そこで今回は、2人が3年前に取得した民間資格「レクリエーション介護士」を手がける「スマイル・プラスカンパニー」の“師匠”たちとリモートで対談。高齢者を笑顔にするための極意を、改めて教えてもらいました。
「かつて介護施設のレクリエーションというと、ヒマを持て余している高齢者にレクリエーションという名の”遊び”をしてもらう、というくらいの位置づけでした」
そう語るのは、介護レクリエーション専門誌「介護レク広場.book」編集長で、「レクリエーション介護士」の資格の開発に中心的にかかわった玉城梨恵さんだ。
「戦後の高度成長期に『遊ぶ暇があったら勉強しなさい、働きなさい』と言われてきた世代にとって“遊び”は負のイメージ。その世代の利用者さんたちにレクリエーションと言っても、すんなり参加してもらえないことが少なくありませんでした。そんなふうに軽く見られていたレクリエーションを、高齢者のQOL(生活の質)を高める活動のひとつと位置づけようと、新たに生まれたのがレクリエーション介護士の資格です」
「レクリエーション介護士」は、介護関連事業を手掛けるBCC(本社・大阪市)の社内カンパニーである「スマイル・プラスカンパニー」(当時はスマイル・プラス株式会社)が2014年に創設した民間資格で、〈自分の趣味・特技を活かしながら、アイデアや着眼点によって、高齢者に喜ばれるレクリエーションを提供できる人材〉(公式サイトhttps://www.japan-ac.jp/)を創出している。玉城さんは、この「スマイル・プラスカンパニー」の創業メンバーだ。レギュラーの2人も3年前に「2級」を取得するなど、資格取得者はすでに全国で2万人以上いるという。
一般的に介護現場では、さまざまな資格を持った専門スタッフが働いている。そのなかで「レクリエーション介護士」の目的はひとことで言うと、施設を利用している高齢者の方々を“笑顔にすること”である。
資格取得のための講座では、レクリエーションの作り方や進め方を学ぶだけでなく、高齢者の心と身体の特徴や具体的なコミュニケーション術なども学習。レギュラーの2人は、資格を取ったあとも同社が紹介する施設にボランティアで出かけては、介護レクリエーションの腕を磨いてきた。
そんな2人の“母校”ともいえる「スマイル・プラスカンパニー」の玉城さんから改めて学ぶ、里帰り講座のスタートだ。
松本くん 考えてみると、僕らもレクリエーション介護士の資格を取ったとはいえ、その歴史はよう知りません。スマイル・プラスカンパニーは創業10年ということですけど、そもそも資格制度を始めたきっかけはなんだったんですか?
玉城さん 実は、もともと私はデザイン会社の営業担当だったんです。当時の代表が、おばあちゃんが介護施設で幼稚園のお遊戯のようなレクリエーションをしているの見て、「こんな幼稚な内容で楽しいのだろうか」とショックを受けたのです。それがきっかけで、デザイン会社の社内ベンチャーとしてできたのが、スマイル・プラス(現スマイル・プラスカンパニー)という会社でした。
西川くん たしかに、施設のレクリエーションというとお遊戯的なことが多いですよね。
玉城さん 塗り絵や折り紙をしたり、童謡を歌ったり……。そこでデザイン事務所の強みを生かして、高齢者の方々にも楽しんでもらえる「大人の塗り絵」を無料でダウンロードできるサイトを立ち上げたんです。すると、それが何十万のアクセスを稼ぐヒットになった。これは世の中的にも求められているものなんだ――そう確信して、スマイル・プラスカンパニーを法人化することにしました。
松本くん 介護レクリエーションのルーツが、大人の塗り絵だったとは!
玉城さん 当時、レクリエーションはただのお遊びと軽く見られることが多くて、そのお遊びのためにわざわざスタッフさんが勉強したり、研修に行ったり、という考えは基本的にありませんでした。それでスタッフさんたちが仕事終わりなどの時間を使って考えるんですが、どうしてもネタがないし、マンネリ化してしまう。利用者さんたちの求めるものとミスマッチが起きてしまう。ならばと、介護のなかでもレクリエーションに特化したノウハウや知識をまとめ、これを「介護レクリエーション」と名付けたんです。
西川くん これまで“お遊び”の延長線だったレクリエーションを理論づけたわけですね。
玉城さん まさに理論がないから軽んじられてきたのです。レクリエーション介護士は、プロのパフォーマーやエンターテイナーとは違います。レクリエーションはエンターテインメントの場ではなくて、主役はあくまで高齢者。レクリエーション介護士は、高齢者が主役になるための支援者じゃないといけない。そのためにどういうお声がけをするか、どういう行動をするか、そしてどういうレクリエーションの展開が必要かなど体系立てて学ぶ必要があります。
松本くん 僕らの介護レクリエーションも、常にトライ&エラーです。
玉城さん 2人のレクリエーションは、独特のテンポがありますよね。ふつう、あのテンポでは速すぎてお年寄りには聞き取りにくいものなんですが、声が大きくて聞きやすいし、2人の掛け合いがあるんで、細かく聞き取れなくてもなんだか面白い。やっぱり、面白い雰囲気って大事(笑)。素人にはできないレクです。
松本くん そう言われると嬉しいなあ。だけど、まだまだテクニックを磨かなくちゃ。介護度が高い利用者さんたちが多いときなど、なかなかうまくいかないときもあります。
玉城さん 介護度が高い利用者さんたちに楽しんでもらうのは難しいことですが、ひとつ言えることは、“待つ”ことが大切です。高齢者は頭で理解してから言葉に出すまで、時間かかる。たとえば、「おぼろ月夜」を歌ったときに、歌い終わってようやく「おぼろ月夜だ!」と思い出す人もいる。その人にすれば、やっと曲がわかったから、もう1回歌いたいんですよ。そういう様子に目を配って、もう1回曲を流すなど臨機応変にプログラムを変えられるといいですね。これからの時代に避けて通れないオンラインの介護レクでは、利用者さんたちの理解度や会話のテンポなどが変わってくるので、なおさら工夫が必要です。
西川くん なるほど、僕らは職業病でついつい「間」を埋めてしまうからなあ。勉強になります!
<オンライン・インタビューを終えて>
西川くん 3年前に僕らがレクリエーション介護士の資格を取ったときは、いろいろ勉強させてもらったな。レクの最初に雑談などで場を温める「アイスブレイク」の大切さとかも、最初に教えてくれたのは資格の講座やった。
松本くん あのとき印象深かったのは、介護現場ではスタッフさんたちが忙しくて独自のレクリエーションまでできていないっていう先生の話や。単なる遊びやなくて、利用者さんの人生に喜びや楽しみを与えるワンランク上の“大人のレクリエーション”を、というコンセプトは目からウロコやった。
西川くん 介護現場にはさまざまなプロがいるけど、レクリエーション介護士もひとつの仕事になってきたんやないかな。僕らが資格を取った3年前と比べても、介護レクの重要性がずいぶん認識されてきたと思うで。
松本くん 当時は僕らも「レクリエーション介護士」の名前を知らなかったからな。僕らは介護職員初任者研修の資格を取ったものの、それをどう使っていいやら、さっぱりわからへんかった。そこで、この資格も取ってみようということになったんやね。
西川くん 初任者研修の資格を取ってから実際に施設に行ってみようと思っても、なかなかルートがなくてな。施設に頼んでも「前例がないから受け入れられない」などと断られるケースが多かった。その点、介護レクリエーションは僕らの本業と結びついたスキルやし、「スマイル・プラスカンパニー」さんの紹介でいくつか現場をまわって技術を磨くことができたのは、ほんまによかったわ。
松本くん しかも、もともと僕らのお笑いのステージは、客席とのやりとりを通して盛り上げるのが強み。主役は利用者さんという介護レクのコンセプトにピッタシや。うすうす思っていたけど、僕らは生まれついてのレクリエーション介護士かもしれへんで(笑)。
西川くん 松本くん、それはたしかにアルな!