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遠距離介護の父(82)が心配。呼び寄せて同居するのも心配【お悩み相談室】

車椅子に座る父と散歩をする息子のイメージ

居宅介護支援(ケアマネジャー)の市川裕太さんが、介護経験を生かして、認知症の様々な悩みに答えます。

 Q.地方に暮らす一人暮らしの父(82歳)を遠距離介護しています。2週間に1回は帰省しているのですが、認知症の父をひとり残して自宅に戻るときはいつも心配で胸が締めつけられます。自宅に呼び寄せたいとも考えているのですが、知らない土地での新しい暮らしにたえられるかどうかも心配で悩んでいます。(49歳・女性)

A.心配なので呼び寄せたいというお気持ちはよくわかります。ただ、そのお気持ちが一方通行になる場合もありますので、環境の変化には慎重に対応する必要があります。まずはお父様自身のお気持ちを確認してみるのはどうでしょう。家族には本心を言いづらいこともあるので、ケアマネジャーなど第三者から聞いてもらうのもいいと思います。「実は一人暮らしは限界だと思っている」もしくは「ずっとここで暮らしたい」といった本音を引き出せるかもしれません。

相談者様が心配されている通り、環境の変化は認知症の症状を進行させるリスクがあります。一人暮らしをしていると、自分のペースで寝たり起きたり、食事をしたり、買い物に行ったりすることができます。一人暮らしをしていた期間が長い方がグループホームなどに入居すると、なかなかホームのペースに合わせられずに苦労しますし、ストレスで落ち着かなくなる場合などもあります。相談者様とお父様は家族とはいえ、別々に暮らしている期間が長いのであれば、生活のペースも違っているはずです。それを合わせていくのはお互いにストレスがたまりますし、家族となると余計がまんできずに口論などが増えることも考えられます。

もちろん、同居がうまくいくケースもあるでしょう。お父様の同居に対する意思を確認できたら、できればいきなり同居するのではなく、お試しとして短期間相談者様の家に泊まりにきてもらうのはいかがでしょうか? 同居するうえで、不足しているもの、必要なものがわかり、スムーズに同居を始めるための準備をしやすくなると思います。例えば熱中症が心配な夏の間だけ泊まりにきてもらい、その期間限定で地域のケアマネジャーや介護サービスを利用することもできます。短期間とはいえ、同居を想定した生活をしてみることで、お父様にとってのメリット、デメリットもより明確になると思います。

また、同居するにあたっては、相談者様の家がお父様にとって居心地良く過ごせる場になることが大切です。認知症の人は、自宅にいるのに「自分の家に帰ります」と言って出て行こうとすることがあります。これは居心地も関係します。家族といえども同居すると気をつかいますし、相談者様の生活に入り込む形になるお父様は、より気をつかうかもしれません。ストレスになれば、「やっぱり自宅のほうがよかった」と思う可能性もあります。そうなると「家に帰りたい」という気持ちがめばえ、行動に出る可能性があるのです。

相談者様の介護環境はどうでしょうか。近くにいれば緊急時にすぐ対応できるなどのメリットはありますが、同居しても一人でいる時間が長ければ、自分の好きなこともできずに退屈したり、外に出ても地理がわからないため引きこもりになったり、精神的に負担が生じるかもしれません。このため、「居心地のよさ」をヒントに考えてみてもらいたいと思います。その条件はもちろん人それぞれではありますが、例えば、父親なら「家族の一員として頼られる」「何かしらの役割を担い家族の一員として認められる」という感覚があると、そこが自分の居場所だと感じられるかもしれません。家族の「介護する」という意識や心配がお父様に伝わり過ぎると「迷惑をかける」「情けない」という思いをお父様に生じさせてしまいます。同居を考える際、少しでもお父様が居心地よく過ごせるような環境づくりができるかどうか、ということを大切に考えてみてほしいと思います。

【まとめ】一人暮らしの父を自宅に呼び寄せるかどうか迷うときには

  • 本人の意思を第三者から確認してもらう
  • 短期間自宅に泊まってもらってから、同居できそうかどうか判断する
  • 本人にとっての居心地のよさを、同居するかどうかの判断基準にする

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