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往復4時間がむなしい。私に敬語を使う母に面会する意味は【お悩み相談室】

施設にいる認知症の母のイメージ

居宅介護支援(ケアマネジャー)の市川裕太さんが、介護経験を生かして、認知症の様々な悩みに答えます。

 Q.認知症の母(85歳)は半年ほど前からグループホームに入所しています。週末は会いに行くようにしているのですが、私のことはわからないようで敬語で話しかけてきます。自宅から往復4時間かけて会いにいっても、あまり意味はないのかとむなしくなります。(56歳・男性)

A.毎週末、往復4時間かけてお母さまに会いに行かれるのは大変なことと思いますが、大切に思われているお気持ちが伝わってきます。

長年、認知症の方が入居するグループホームに関わってきましたが、たとえ本人が家族のことを忘れてしまっているように思えても、家族にしかつくれない貴重な時間というものがあると感じています。はたして本当に忘れてしまっているのだろうかとも思います。記憶は失われても、感情の記憶は残るといわれています。お母さまは、これまでともに過ごした時間や、存在としての記憶は忘れてしまっても、いま過ごしている時間の中で、息子さんのことを「この人は自分にとって安心できる人」と感じたり、他人とは違う何か、たとえば愛情などを感じとったりしているのではないでしょうか。

お母さまは入居して半年ということですから、まだ緊張していて今の環境に慣れるのに時間がかかっているのかもしれません。ホームでの暮らしに慣れてきたら、緊張が解けて思い出すこともあると思います。また、面会に行く時間帯や過ごし方を変えてみるというのも1つの方法です。たとえば午前中はまだ頭がぼんやりしているからわからないことが多いけれど、午後になって覚醒してくるにつれて思い出すこともあるかもしれません。部屋で2人だけで過ごすと会話に困ることもあるかもしれませんが、一緒に散歩に出ると景色を見ながら自然と会話が生まれたり、ほかの入居者もまじえて話すと会話がはずんだりすることもあるでしょう。また、昔の写真を見たり、馴染みのものを用意したりすることも記憶への働きかけにつながります。そうした中で、最初はお子さんだとわからなくて敬語で話していたのが、会話をしているうちにだんだん思い出して、家族の名前を呼ぶようになるという方もいらっしゃいました。

ある利用者は、家族の中では厳格で怒りっぽい父親だったようなのですが、入居後にお子さんたちが面会に行くと、ほかの入居者に冗談を言いながら穏やかに談笑していたそうで、お子さんたちは驚かれたそうです。「これまで知らなかった父の姿を見ることができた」と、おっしゃっていました。それ以来頻繁に面会に訪れるようになり、家族のきずなが深まっているように感じたこともあります。

またある利用者は、お子さんに対して「面会になかなか来ない」といつも怒っているのに、いざ来ると「なんで来たの?」「早く帰りなさいよ」と言うのです。相談者のお母さまも、面会したときはわからなくても、息子さんが来るのを心待ちにしているかもしれません。

お母さまの記憶が失われていくのはつらいと思いますが、無理のない範囲で面会に行って、かけがえのない時間を過ごしてほしいと思います。

ただ、最後に1つ、心にとめておいていただきたいことがあります。認知症は記憶に障がいが起こる状態です。これは脳や海馬の萎縮によるもので、思い出してもらいたくても思い出せないことはどうしてもあります。私たちの「何とか思い出してほしい」という願い、それが認知症の人につらい思いをさせてしまうこともあるということを、ご理解いただければと思います。

【まとめ】息子のことがわからない母に面会に行く意味はある?

  • 息子のことを安心できる存在であると感じたり、息子からの愛情を受けとったりすることはできている
  • まだ施設に慣れていないために一時的にわからなくなっている可能性がある
  • 時間や過ごし方を工夫すると思い出すこともある

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