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新型コロナに立ち向かう認知症の人たち 負けない動じない介護現場

新型コロナウィルスの感染拡大が収まらないなか、介護施設の集団感染も相次いで報告されています。利用者や家族が不安な日々を送る一方で、介護現場で働く人たちも一層の緊張を強いられています。彼女ら彼らはウイルスという見えない敵にどう立ち向かっているのでしょうか。

コロナに立ち向かう現場(消毒のイメージ)

「コロナに負けない」現場の生の声を聞いてみた!

まずお話を聞いたのは、デイサービスや居宅介護支援、小規模多機能ホームを運営し、認知症などによる行方不明者ゼロを目指す『ただいまプロジェクト』(東京都江戸川区)代表の梅澤宗一郎さんです。

「介護現場のマスク不足や消毒液不足はより深刻化しています。使い捨てマスクの内側に入れたガーゼを何度も付け替えて使うのはもちろん、毎日洗いながら一カ月以上使っているスタッフもいます。機能的に外部からのウイルスの侵入を防ぐ効果は落ちるかもしれませんが、万が一私たち職員が保菌者だった場合、咳やくしゃみによる別の人への飛沫感染リスクを下げる確率は高い。現場ではみなギリギリの状態で奮闘しています」

梅澤さんは、利用者へのケアに加えて、スタッフが“ウイルスの媒介者”にならないように細心の注意を払っていると話しています。

スマホも車のハンドルも消毒!

訪問介護やグループホームなど、介護のニーズに合わせて総合的な支援を行う「有限会社心のひろば」(東京都青梅市)代表の井上信太郎さんも、スタッフの衛生面の管理の重要性を語ってくれました。
「出勤前には各自検温を徹底して、37.5度以上ある場合は事務所に連絡します。事務所内では各自の手指以外に、電話の受話器や自動ドアのスイッチ、ファンヒーターのスイッチも消毒。さらに“職員それぞれのスマートフォン”や、利用した車のハンドルやレバーの消毒も忘れません。施設の入口に体温計と消毒液をいつも置いていて、スタッフや利用者さんのご家族だけでなく、薬局の方や業者の方、マッサージ師さんら出入りする関係者にも検温と消毒をお願いしているんです」

「コロナウィルスを持ちこまない」。徹底した管理に加え、梅澤さんも井上さんも緊急事態宣言が出された今では、研修や講習会を中止。会議はすべてインターネットを使ったビデオ会議に切り替えて行っています。さらに、梅澤さんの関連グループの施設では、一時的に学校が休校になった子どもを連れた出勤を認めて施設の一部を開放していましたが、事態がより深刻になった今ではあえて一度ストップしているそうです。

「今までは施設の一部屋を子どもたちに開放していましたが、それではスタッフや利用者の方々と“接触”することもある。感染のリスクを極力減らすためにも一時的に中止しました。今後は施設の一部ではなく、使っていない小規模の施設一棟の開放を検討しています。
スタッフもお子さんの休校が長引いたり、旦那さんがテレワークになってずっと自宅にいたりと、食事や家事などの負担がいつもより増えているはずです。その中でなるべく負担を減らして安全に仕事に取り組んでもらえるよう、僕たちも状況に応じて柔軟に対応していきたいと思います」(梅澤さん)

コロナにも動じない、人生の先輩たち

一方で、介護施設を利用する方たちはこの未曾有の事態にどのような反応を示しているのでしょうか。
「『もうこの歳になったら何も怖くないわよ!』、『そんなの気にしたら生きていけない』と、堂々と構えているメンバーさん(施設の利用者)もいますね。また、世間がデマによるトイレットペーパー不足で騒いでいても、今より物が少ない時代を生き抜いてきた人たちだから、ほとんど話題にしないし、動じません」(東京都町田市のデイサービス「DAYS BLG!」代表の前田隆行さん)

コロナに立ち向かう現場(マスクのイメージ)

パワフルに我が道を突き進む方もいれば、不安と戦いながら毎日を過ごしている方もいます。「連日テレビでひっきりなしに新型コロナウィルスの報道がされているので、精神的に不安になる方も少なくありません。また、世代的に『マスクは病気の人がするもの』とあまりいいイメージがない方もいて、相手がマスクをして近寄ると『あなた病気なの?』と余計に心配したり、『私って汚い?』と落ち込んでしまったりする方も正直いらっしゃいます。マスクをすることでスタッフの声が聞き取りにくくなる方も。でも、今の事情を端折らずにきちんと説明して、不安ならとにかくお話をたくさん聞いてあげるとみなさん徐々に落ち着かれますよ」(梅澤さん)

海千山千の人生経験をもつ利用者のみなさんも、状況の受け取り方は千差万別のようです。

大切なのは情報共有と、緩急つけた柔軟な対応!

マスクや消毒液がなかなか手に入らない状況が長引いていますが、運良くお店で入荷のタイミングに遭遇したら、そこで重要なのはスタッフ同士の“SNSネットワーク”だそうです。
「いつどこに入荷するか分からないので、もしもスタッフが偶然見かけたら職員同士のグループLINE(ライン)で写真とともにすぐ共有。その日は休日のスタッフも『休みだから自分と家族のついでに施設の分も買っておくわ』など。買占めはもちろん絶対しませんが、大勢のスタッフ間で一斉に情報共有できるのでなにかと助かっています。
マスクや消毒液の在庫に余裕がある別の法人から譲ってもらうこともありました。『困ったときはお互いに助け合いましょう』と。これは日頃から交流会や研修会をひらいて、積極的にコミュニケーションをとれていたおかげかもしれません。

ほかの法人や施設と情報を共有する中で『これは大事だな』と感じたのは、“消耗品の仕入れ先は複数の業者さんに分散すること”です。マスクや消毒液なども業者さんによって入りやすさが結構バラバラ。リスク分散を日頃から意識した方がいいと思います」(井上さん)

井上さんは、マスク不足をきっかけに広がった“ある動き”を教えてくれました。
「たまたま裁縫が得意なスタッフがいて、その場で型紙をとって手縫いで作れる布マスクを考案したのです。するとスタッフの間で一気に手づくりマスクが広まって、インターネットで素早く『輪ゴムとバンダナだけで作れる簡単マスク』の情報などを共有し合ったんです。利用者さんたちともワイワイ楽しみながら作りました。今が大変な状況だということは重々承知していますが『物がない』『〇〇しちゃダメ』とマイナス思考に縛られるだけでなく、今の状況で『どうしたら〇〇できるかな』と発想を前向きに切り替えることも大事だと思います」

注意するところはきちんと気を付けつつ、楽しめることもちゃんと見つける。日々刻々と変わる不安定な状況の中で、介護のプロたちは緩急付けた対応と工夫を凝らして毎日を全力で乗り越えているのですね。

「有限会社心のひろば」スタッフの手作り布マスク
「有限会社心のひろば」スタッフの手作り布マスク。中にキッチンペーパーを入れ、頻繁に取り換えることで洗う手間が減るという(写真=井上さん提供)

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