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家の中で通帳を持ち歩く母。なくして大騒ぎ、預かると怒る【お悩み相談室】

認知症の母がお金に執着する

居宅介護支援(ケアマネジャー)の市川裕太さんが、介護経験を生かして、認知症の様々な悩みに答えます。

Q.同居している母(76歳)が2カ月前に認知症と診断されたのですが、お金への執着が強く、家の中でもしょっちゅう通帳を持ち歩き、どこにしまったのかわからなくなり、大騒ぎをします。なくさないように私が保管しようとすると「お金を使い込もうとしている」と怒るので、どのように対処すればいいのか困っています。(46歳・女性)

A.通帳は大事なものだからこそ、自分だけがわかる場所にしまおうと考えますが、認知症のためにしまった場所を忘れてしまい、結果「泥棒に盗まれた」「あの人が盗ったのではないか」と疑うことが起こります。そして、家族が通帳を一緒に探したとしても、本人よりも先に家族が見つけると、「最初から知っていたのではないか」と余計に疑いの念が強くなる可能性もあります。

この場合の対応としては、通帳を一緒に探して仮にご家族が見つけたとしても、お母様が「自分で見つけた」と思えるように仕向けるのが適切だと思います。つい、お母様に対して「ほら、やっぱりあったじゃない、お母さんが置いたんでしょ」などと本人のせい(そうではあるのですが)にしたり、責めるような言い方になってしまったりすることがあります。けれどもお母様が見つけた際には「よかったね~」と安堵感を演出して、共有できるようにしてみましょう。介護者としては、自分の言いたいことを抑えるのは苦しいかもしれませんが、認知症介護に必要な「否定しない」「責めない」ことは、先の疑いの念や感情の起伏の高ぶりからくるトラブルを回避することにもつながるのです。

認知症に最初に気づくのは本人だと言われています。わからないことが多くなってきたり、忘れっぽくなったりしている自覚があり、そのことにより自分の中で悲痛・悲観な経験をしている可能性は十分に考えられます。ご家族が気づく前から、お母様は大きな不安の中で生活をしていたはずです。そうした中で、もしかしたら大事なものを守りたいと思い、お母様にとっては生活の必需品である「お金」に辿り着いたのかもしれません。私たちもお金があるのとないのとでは、日々の安心感は違います。そして大事なものを守るために、盗まれないように、なくさないようにして、肌身から離す際には自分だけがわかる場所にしまうのでしょう。ですが、しまった場所を見失う、もしくはしまったこと自体を覚えていない可能性もあります。つまり「いつの間にかない」状態に陥るのです。家族にとってはこうした行動は「困った」行動だと思ってしまいますが、一番困っているのはお母様自身です。しかしだからといってあらかじめなくさないようにと家族が管理するのは、今回のように逆効果の場合もあるのです。お母様のように、不安が強くなる可能性もありますので対応が難しいところです。

お母様が抱えている不安がなくなれば、お金への執着もなくなるかもしれませんが、これは認知症になったことで抱えている不安であることもありますし、もしくは過去にお金に関連するトラブルがあった可能性もあります。後者だと根深い思いがあるかもしれません。思い当たることはないでしょうか。どちらにしても簡単に解消するのは、難しいことです。一つの方法としては、そこに執着しないように何か別のことに気を向ける時間を作ることで、不安を感じる時間やお金のことを考える時間を減らせる可能性があります。例えば家族との会話を増やしたり、社会とつながる接点をもったり、昔の趣味を再開したりする時間をつくってはいかがでしょうか。家で一人でなにもしないでいると不安がつのり、余計にまともな判断ができなくなってしまう場合もあります。

生活を充実させて気がまぎれることで、通帳を持ち歩いたり、どこかにしまい込んだりする頻度は低くなっていくかもしれません。

【まとめ】お金に執着して通帳をすぐなくす母にどう対応すればいいのか

  • なくしたものは一緒に探し、本人が自分で見つけたと思えるように働きかける
  • 過去の本人の体験などから、通帳やお金に執着する理由を考えると、本人の行動が理解でき、解決のヒントを得られることがある
  • お金のことばかりに気が向かないように、ほかに気持ちが充実できる時間を作ってみる

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