母が施設に入り認知症が悪化。在宅で頑張っていればと後悔【お悩み相談室】
更新日 構成/中寺暁子
居宅介護支援(ケアマネジャー)の市川裕太さんが、介護経験を生かして、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.5年前に母(80歳)が認知症になり、自宅で介護してきましたが、夜間の問題や排泄のトラブルが続いたため、3カ月前から施設に入所しています。入所してから症状が一気に進行してしまいました。母のためには在宅でもっとがんばるべきだったのではないかと後悔ばかりしてしまいます。(53歳・女性)
A.ご自分を責める必要はありません。これまでお母様が自宅で生活できたのは、相談者がいたからこそです。また、施設に入所することは必要な選択肢の一つとして、介護サービスの中にあるのです。相談者自身を守るためにも必要な選択だったかと思います。以下にも記載しますが、ご本人、ご家族、双方にとっての介護負担を軽減し、新たな関係が築けるように施設は設けられているのです。
施設に入居後、症状が進行してしまう方はいます。一つは環境の変化が大きく影響しています。それまでは食べる時間、寝る時間など自分のペースで生活できていたのが、集団生活になり、施設のルールに合わせることが増えてきます。さらにはトイレの場所や自分の部屋をなかなか覚えられないストレスもあるでしょう。慣れない場所で生活するのは、認知症ではない人でもストレスですから、認知症の方にとってはなおさらで、慣れるまでには時間が必要だと思います。慣れてきたら、症状が少し落ち着くこともあるでしょう。ただし、全てが環境の変化のせいともいえません。夜間帯のトラブルがあったことなどを考えると、その時からお母様の何らかの状態が変化していた可能性もあります。
これまで自宅で生活していた方が、ある時から違う場所で、集団で、そしてなぜ自分がここにいるかわからない、という状況に置かれたとしたらどうでしょう。それが毎日続くとしたらどうでしょう。いくら24時間介護してくれる施設であったとしても、入所すれば全てが上手くいくことは決してないのです。ここで大事になるのは、家族との関係性の継続です。
私も長年認知症の方が生活するグループホームに関わってきましたが、ご家族はそれぞれの形で入居者と関わっておられました。例えば入居者の運動不足を心配されていたあるご家族は、週に2、3回面会に来て、本人を散歩に連れ出してくれました。また別のご家族は、本人は音楽が好きだからと、夜に開催されるコンサートに連れ出してくれました。施設は家族と本人を切り離す場所ではなく、新たな関係を築く場なのです。
相談者も施設での生活の様子を見ながら、自分には何ができるのか、施設のスタッフと相談して考えてみてください。施設側も相談してもらえると、家族しか知りえないさまざまな情報を得ることができて、今後お母様に合った介護をしていくうえでのヒントにもなるでしょう。
認知症が進むと本人は入居した目的を忘れてしまい、自分がなぜここにいるのかわからなくなって不安を感じることがあります。そんなときに、相談者の顔を見れば、安心できるでしょう。例えば昼食のタイミングで面会に行き、一緒に食事をするだけでも、お母様は安心できる時間を過ごせると思います。ぜひ、ご家族だからこそできることも含めて、関わりを検討してみて下さい。
これからは新しいお母様との時間が始まる、と捉えられるといいですね。
【まとめ】母の施設入所を後悔しているときには
- 今後のお母様との新しい関係に目を向ける
- 施設のスタッフと相談して、自分ができることを考える