肺炎で認知症の親が入院!手続きの盲点、体重や既往歴知ってる? もめない介護48
編集協力/Power News 編集部
認知症の親が入院するとき、どんな困りごとが起きるのか? 恥ずかしながら、私は義父の入院に直面するまで考えたことがありませんでした。
当時、夫の両親はそれぞれアルツハイマー型認知症と診断されながらも、それ以外は元気いっぱい。高血圧などいくつかの持病はありましたが、決まった薬を服用すればいいという程度でした。義父が89歳、義母が86歳という高齢ながら、杖もつかずに自分たちでスタスタ歩き、多少の失敗はありつつトイレもほぼ介助なしで、夫婦ふたりの暮らしを続けていたのです。
そんな折り、義父が肺炎をこじらせ、入院することに。
その日は午前中に、普段お願いしているホームドクターに臨時往診に来てもらい、そのまま、ケアマネジャーも交えて緊急ケアカンファレンス。義父自身、そして義母の意向も聞きながら、入院の方向で意志を固めたところで、受け入れてくれる病院探しがスタートしました。そして、夕方には救急車が迎えに来て、搬送先の病院に向かうという急展開でした。
「いまは大体のものが病院に揃ってるから大丈夫ですよ。足りなくなったら、あとで持っていけばいいですから」
往診のドクターやケアマネさんにアドバイスされ、言われるままに身一つのまま、義父母とともに救急車に乗り込みました。思えば、うちのおばあちゃんは、いつ入院しても大丈夫なように風呂敷包みをひとつ作っていたけれど、ホントにあれ、いらないの……?と引っかかりながらも、いまさらどうしようもないと腹をくくったというのが、正直なところでした。
入院手続きには既往歴のメモ、印鑑、保証金が必要
病院に着くと義父はストレッチャーに乗せられたまま、検査・診察に向かったようです。私と義母は待合室のソファで呆然。そうこうしているうちに看護師さんが、さまざまな書類を持ってやってきます。
聞けば、着替えなどはレンタル衣料が利用可能。あとは「入院のしおり」を見ながら、必要そうなものを適宜、持ち込んでほしいと説明がありました。たとえば、老眼鏡やひげそり、歯ブラシやコップなど。確かに、持ちものはとくに持ち込まなくても“なんとかなる”し、いざとなれば、病院の売店で揃えることもできそうなものばかりでした。
むしろ、困ったのは書類の記入でした。生年月日に身長、体重、血液型……? と、とっさに聞かれるとまごまごします。とくに手間取ったのが「これまでの病歴(既往歴)」でした。何年か前に手術をしたことがあると聞いたけど、その内容や時期は詳しく聞いておらず、義母に聞いても「あの人ってホント、昔から病気がちなのよ。弱いわねえ」と、ちぐはぐな回答が返ってくるばかり。思い出せる範囲でキーワードだけでも……と、かなり適当に回答しました。
そして入院の申込み手続きでは、印鑑(認め印)と入院保証金として現金10万円が必要でした。保証金は退院時に戻ってきます。しかし、支払時に渡される預かり証をなくすと面倒なことに。入院時はかなり慌ただしいこともあって、無意識のうちについ適当なものに挟み、そのまま忘れてしまうことがあるので要注意です。几帳面な方からするとありえないことかとも思うのですが、私は2回ほどこの書類を見失い、冷や汗をかきました。
点滴を抜いてしまうなどのせん妄への対応として、ミトンや身体拘束が行われることも
「お父さまが点滴を引き抜いてしまうので、ミトンを装着させていただいてもよろしいでしょうか。まだはっきりとしたことは言えないのですが、『せん妄』の可能性もあります。もし、暴れるなどがあった場合は何らかの身体拘束が必要になるかもしれませんが、その場合はまたご連絡します」
病院からそう連絡があったのは、入院した翌日のことです。「せん妄」は、意識障害をともなう精神症状のひとつで、比較的高齢の方が入院したり、手術を受けたりすると発症しやすいと言われます。急におかしなことを言い出したり、幻覚が見えたり、興奮したり……といった症状がよく見られます。安静にしていられなくなると治療の妨げになり、また事故のリスクも高まるため、ミトンをはじめとする何らかの手段が病院側から打診されるといった具合です。
せん妄への対応としては、ご本人が落ち着いて、安心できる環境を整えることが大切だとか。でも、入院している時点ですでに環境がガラっと変わっているけれど、そこで何かできることはある……?
テレビとイヤホンで、穏やかな入院生活
わたしの母親(元看護師)に相談すると、こんなアドバイスが返ってきました。
「病室に、時計やカレンダーを掲示するといいかも。認知症の患者さんだと入院したことを忘れてしまう、“なぜ、こんな場所にいるのか!?”と不安になる人が多いので、入院したことをカレンダーにもしっかり書いて。あと、状況が許せば、ラジオやテレビの差し入れもおすすめ。情報が遮断されていると不安になるから」
病院に問い合わせたところ、イヤホンをすれば大部屋でもテレビは視聴可能。病院内でレンタルできるとのことだったのですぐ申込みました。そして、直近でお見舞いの予定があった義姉にラジオとカレンダーを持っていってもらうことに。さらに、義父の「備忘録をつけたい」というリクエストで、ノートと筆記用具を追加しました。
大好きな野球や相撲中継が見られて気晴らしになったのか、単なる偶然なのかはわかりませんが、義父の“せん妄”らしき症状は結局1日でおさまりました。そして、入院をきっかけに認知症が一気に進むということもなく、おだやかな入院生活を送ることに——。
その後も、義父は何度か入退院を繰り返していますが、その度に思い出すのは、この点滴引っこ抜き事件。半分はお守りのようなつもりで、入院中のテレビとイヤホンを調達しています。