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もめない介護

あわや呼吸停止でも呼ばない救急車 誰が決断?もめない介護47

タイル張りの浴槽のイメージ
コスガ聡一 撮影

みなさんは「親の入院」を経験したことがありますか? 私が初めて、親の入院に直面したのは、認知症介護がスタートしてから7カ月後のことです。当時、義父は要介護1、義母は要介護3になったばかりでした。ヘルパーさんや訪問看護師さんが定期的に訪問してくれる生活にも少しずつ慣れ、通所リハビリ(デイケア)の回数を増やすことを検討しはじめた矢先に、義父が救急搬送される騒ぎがありました。

ただ、最初の救急搬送では「肺炎による脱水症状がある」と説明され、点滴を受けた後、抗生剤を処方され、帰宅するよう言われました。義父母は夫婦ふたり暮らしです。急に具合が悪くなっても、面倒を見れる家族はほかにいません。ただ、往診のドクターもお願いしていたし、訪問看護も定期的に利用していたこともあって、自宅療養に対してとくに疑問を持つこともなく、搬送先の医師に言われるがまま帰宅しました。

もっとも、救急搬送直後に、義父母をふたりきりにするのはさすがに心配だったため、当日夜はわたしたち夫婦が泊まり込み、翌日からは義姉に来てもらうことに。救急搬送されたのが金曜夜だったことも幸いしました。

抗生剤は1回飲むだけでOK。脱水症状を起こさないよう、しっかり水分をとり、熱が38度以上まで上がっていたら解熱剤を服用する。たしか、そんなような指示がなされていたと記憶しています。

義父母だけでは体温測定や解熱剤の服用が難しいかもしれない。でも、少なくとも直近の土日2日間は義姉が来てくれるから大丈夫。月曜日以降が気がかりだけれど、看護師さんやヘルパーさんの訪問回数を増やしてもらえるよう相談すれば、なんとかなりそう。かなり楽観的にとらえていました。

酸素の数値が救急搬送レベルも、在宅療養を希望した義姉

ところが、事態が思いもよらない方向に急展開したのは、救急搬送の翌々日、日曜日のことです。

訪問看護師さんから携帯電話に着信があり、怪訝に思いながら通話ボタンを押すと、焦ったような声で次のように言われました。

「酸素の数値が下がっています。本来であれば、救急搬送したほうがいい数値ですが、『在宅での療養』をご希望とのことだったので、救急車は呼んでません。ただ、酸素が吸入できる機械を入れる必要があるんですが、手配しても良いですか?」

一瞬、何を言われたのかよくわかりませんでした。救急搬送したほうがいい数値なのに、そのまま様子を見るっていったい……。頭にカッと血が上りそうになるのを必死にこらえ、こう尋ねました。

「すみません、『在宅での療養を希望』というのは誰の希望ですか。義父ですか? それとも義母でしょうか」
「娘さんがそうおっしゃっていたので……ただ、キーパーソンは真奈美さんですから、ご確認をと思いまして。機械を入れるとなるとレンタル料もかかりますので……」
「酸素吸入の機械は大至急入れてください。機械を入れれば、救急搬送は必要なくなるということでしょうか?」
「それは、いまの時点ではなんとも……。ただ、娘さんがおっしゃるにはお父さまが入院されるとお母さまが困るというお話だったので……」

いやいやいやいや、入院しての治療が必要かどうかの判断と、義父が入院した後で義母の生活をどうするかは別の問題ですから!

「『何がなんでも在宅を希望』という考えではありませんので、そこは訂正させてください」
「わかりました……」

在宅療養を薦める往診医。では一体誰が面倒を見るのか

訪問看護師さんとの電話を終えた後、すぐにケアマネさんに電話をかけました。「認知症高齢者同士での在宅療養には不安がある」「しかも、酸素の数値が下がっている状態で在宅にこだわる必然性はないと思っています」といったことを伝えたところ、「明日、できるだけ早いタイミングで往診の先生にも来てもらって緊急ケアカンファレンスをしましょう」と提案されました。こちらとしては願ってもないことです。

翌日、往診の先生による診察をふまえて、ケアマネさん、私たち夫婦、そして義母の5人でこれからの対応について話し合いました。

「認知症がある高齢の方が入院すると、一気に認知症が進んでしまうことがあるんです。お父さんの場合はまだ食欲もあるようですし、このまま、ご自宅で様子を見る選択肢もあるかと思いますが……」

往診の先生はどちらかというと、入院には後ろ向きでした。ただ、その一方で「水分と食事については、どれぐらいとれているか記録して、確認する必要があります」とも言います。いや、ちょっと待ってください。その記録って誰がやるの? ヘルパーさんが来てくれるといっても1日1時間程度。残りの時間は義母しかいないんですが!?

これはわたしの考えすぎだったのかもしれませんが、「お父さまのご年齢を考えると……」という往診医の言い回しが、勝手に看取りのステージ認定しているようにも聞こえ、反発を覚えたのも確かです。

本人や家族の意見をどうすり合わせるのか、予めシミュレーションを

これは入院のターンでは……? そう思っていると、義母がふいに、夫を部屋の外に呼び出しました。そして「あの子(義姉のこと)は“家がいい”と言っていたみたいだけど、わたしは反対だった」「素人にはとても手に負えないと思う」と、しきりに訴え始めたのです。おかあさん、マジで!?

実際に、義母と義姉の間でどのようなやりとりがあったのかはわかりません。義母の気が変わったのか、何かを察知したのか、義父の入院を猛プッシュ。うとうとしていた義父に「親父はどう思う?」と夫が聞いたところ、義父からも「きちんとしかるべき機関で治療したい」という意思表示がありました。

すぐさま引き受けてくれる病院探しに切り替え、なんとかその日のうちに、入院にこぎつけることができました。そして検査の結果、驚くべきことが判明します。義父の状態は想像以上に悪く、呼吸停止の一歩手前まで来ていたのです。あと少し遅かったら、危なかったかもしれない。入院先の病院で担当医師にそう説明されながら、血の気が引きました。

在宅で療養するか、入院に踏み切るか。どちらがいいとは一概には言えません。正解がないからこそ、どのようにご本人の気持ちを確認するのか。家族の意見をどうすり合わせるのか。頭の片隅でシミュレーションしておくことが大切だと思うのです。

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