暴力ふるう夫の帰宅時間が怖い…デイから施設に変える?【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
デイサービスを運営する島田孝一さんが、介護経験を生かして、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.認知症の夫(82歳)はデイサービスに通っていますが、帰宅すると私に対して「お前は誰だ! 泥棒!」といって暴言、暴力をふるいます。帰る時間になるとビクビクしてしまい、限界を感じています。施設への入所を考えたほうがいいのか悩んでいます(79歳・女性)
A.ご主人の暴言、暴力は、奥様にとって大きな不安の種となっていることでしょう。現在の生活と、これからどうなっていくのか先の見えない暮らし、認知症が要因になっていると思われる症状などがたくさんの課題として降りかかっているので、相当の苦痛をお感じになっていることかと思います。
まず、施設への入居をお考えになっているとのことですが、それも一つの方法かと思います。今まで多くの認知症の人とそのご家族の人生に関わらせていただきましたが、施設入居を選んだご家族に対して、その選択が間違っていると思ったことは一度もありません。それぞれの家庭にそれぞれの選択があり、ご家族の立場を知れば知るほど、私にはその選択が間違っているようにはとても思えないのです。
今回は、ご主人の暴言、暴力に対してのお悩みということですが、ここでは、デイサービスから帰宅した時だけに焦点を絞りたいと思います。つまり、デイサービスに行かなかった日やデイサービスにいるときには暴言や暴力は起こっていないという前提でその要因を探っていきたいと思います。
はじめに思いつくのは、「デイサービスでどのように過ごされているか」という事なのですが、過ごし方以上に「過ごした結果」のご本人の状態を考えてみます。例えば「疲れ」。これは、思っている以上に認知症の人の症状を左右する大きな要因となることがあります。認知症になったからといって、すべてわからなくなるわけではありません。社会性を保ち、気遣い、気配りをするなど、他の人がいる場所では多くの精神的な疲労があると思います。ましてや、認知症の状態であれば、相手のことを覚えていなかったり、「場違いにならないように」とか「間違わないように」などと、とても慎重になったりしていると思います。
また、そんな心理を周囲に気づかれないように明るく振る舞われる方もいらっしゃるでしょう。
さらに、ご主人は疲れが蓄積した状態で車に揺られて自宅に帰ってくるわけですから、「眠気」もあるかもしれません。
そう考えてみると、ご主人にとって帰宅時は一番症状が出やすい時間帯で、この疲れのピーク時は普段のようにうまくいかず、奥様に「お前は誰だ! 泥棒!」と言ってしまうのだと思います。
これは、状況や人に対する見当識の障害と考えてみると理解しやすくなります。夕方になると、自分の家にいるにも関わらず「家に帰る」と出て行ってしまうのと同じです。ここでもやはり夕方というのがポイントで、ご主人と同じ、「疲れ」や「眠気」などがきっかけになっていると考えることができます。
具体的な改善の方法としては、デイサービスでの過ごし方から考え直してみましょう。せっかくのデイサービスですし、他者と関わることやさまざまなプログラムはご主人にも必要なのではないかと思います。そこで、帰りの送迎時間の1時間前からは負担がかからない内容にするとか、少し居眠りできるくらい何もない時間があっても良いかもしれません。
デイサービスで疲れないようにするのではなく、デイサービスでの疲れをある程度回復してから自宅に戻るという方法です。実は、私が運営するデイサービスでもこの点は心がけています。認知症の人に活気のある日常のお手伝いをする反面、ご家族の介護負担が増えてしまってはデイサービスを利用する意味が半減してしまいますから。
上記のような、ポイントを踏まえて、ケアマネジャーやデイサービスのスタッフなどに相談してみてはいかがでしょうか。
【まとめ】デイサービスから帰ってくると夫が暴言・暴力をふるう
- 状況や人に対する見当がつかない状況にあることを理解する
- デイサービスでの過ごし方について、ケアマネジャーやデイサービスのスタッフなどに相談してみる