なかまぁるクリップ

深夜に開店「認知症カフェ」静寂にパッションを届けるラジオの裏側

毎晩数十万人が耳を傾けるというNHK『ラジオ深夜便』。静かな夜を邪魔しないゆったりとした語り口は多くのリスナーから好評を博しています。
毎夜(月曜~日曜、23時過ぎから翌5時まで)放送されるこの番組には、認知症をテーマにしたトークコーナーがあります。その名も「認知症カフェ」(原則、第2・第3木曜、23時台)。
カフェの「オーナー」として多彩なゲストと向き合ってきた佐治真規子ディレクターに、番組についてお聞きしました。

ラジオブースでゲストと向かい合う佐治真規子さん
ラジオブースでゲストと向かい合う佐治真規子さん

――佐治さんの現在のお仕事を紹介していただけますか?

現在はNHKラジオセンターの契約ディレクターであり、NHK甲府放送局ではオリンピック・パラリンピック関連のテレビ番組制作も担当しています。また、放送大学では講座の案内役や、授業の聞き手として出演しています。大学卒業後、地元のNHK仙台放送局でキャスターとして働きはじめて以来、ずっと放送の仕事に携わってきました。

――「認知症カフェ」コーナーが始まったきっかけはどのようなものだったのでしょう?

きっかけとなったのは、私が放送大学で出演している3つの科目(『家族と高齢社会の法』『交通心理学』『公衆衛生』)のすべてで認知症について取り上げていたことでした。それにより、介護や認知症が現代社会にとって重要なテーマになっていることを知り、ディレクターを務めていた『ラジオ深夜便』で、認知症について情報提供できるインタビュー番組を提案しました。はじめは単発企画だったのですが、プロデューサーの後押しもあり、2017年4月から毎月ひとりゲストをお呼びするシリーズとして放送が始まりました。

この日のゲストは認知症当事者の佐藤雅彦さん
この日のゲストは認知症当事者の佐藤雅彦さん

――「認知症カフェ」という名前はどこから?

言葉自体は、オレンジプラン(認知症施策推進5カ年計画)などを学んだとき、施策として登場していて、「なんだろう、これ?」と印象に残っていました。架空の喫茶店を舞台にした『日曜喫茶室』(NHK-FM、2017年終了)という番組が好きだったので、そんな雰囲気でゲストと認知症についてお話しするコーナーにしようと考え、「認知症カフェ」という名前にしました。実は、昔から喫茶店のオーナーになりたいという夢もあって、ラジオの中でそれをかなえるチャンスだとも思いました(笑)。

――番組はどのように作られるのでしょう?

まず、私からゲストの方に出演の打診を行います。メールで連絡する場合もあれば、講演会などに参加し直接交渉することもあります。たとえば丹野智文さんの初回は、講演会で声をかけさせていただきました。その後、ゲストの方と打ち合わせなどをして、大まかな流れを台本にします。そして東京・渋谷のNHK放送センターまで来ていただき、ラジオブースでお話しを収録、その内容を編集し、放送に載せられるようなパッケージにするところまでが私の役割です。

――これまで印象的だったゲストの方はいますか?

いつもゲストのみなさんからはパッションを感じています。「DAYS BLG!」の前田隆行さんとか、ジャーナリストの町永俊雄さん、医師の繁田雅弘先生など、みなさんとても情熱的です。どうしてこんなに熱いのか、パッションを持ち続けていられるのかということを知りたい、その核心に触れたいと思いながら、「認知症カフェ」のコーナーを続けてきました。
そして認知症当事者の方たちは特に印象的です。「わたしたちはどん底を経験しているから」とおっしゃって、認知症に偏見のある社会を変えようというパッションを感じます。
もともと仕事を通じて認知症というテーマに出会った私は、認知症のご本人としっかりお話ししたことがありませんでした。ですから樋口直美さんが客観的にご自分のことを言葉にされている様子だったり、佐藤雅彦さんには打ち合わせでお見合いみたいに言葉に詰まってしまった私をフォローしていただいたり、そうした出会いを通じてそれまで自分が漠然と考えてきた認知症の人のイメージが大きく変わっていきました。

本番中、マイクの前で話す佐治さん
本番中、マイクの前で話す佐治さん

――やはり、佐治さんも認知症のイメージが変わるという経験がありましたか?

ガラッと変わりました。昔は「認知症=怖い病気」で、家族に迷惑をかけてしまうものと思っていました。でもどんな病気も怖いわけで、認知症だけが特別ではないと考えられるようになりました。どんな病気も怖いですし、つらいこともあるけれど、それとともに生きていくことができるし、そうした方法は認知症にもあるのだと。本人ではない立場で軽々しくいってはいけませんが、いま自分の近くに認知症になって落ち込んでいる人がいれば、『大丈夫だよ』と声をかけられると思います。

――リスナーからはどのような反応がありますか?

認知症当事者の方たちが出演するのを聞いて「認知症といっても普通なんですね」とか、「外見からでは分からないということが理解できた」という声をいただきます。また、ベッドの中で聞いているという認知症当事者の方から「丹野さんのお話を聞いて元気をもらった。ずっと引きこもっていたけれど自分も一歩外へ出てみようと思う」というお便りをいただいたことがあります。

――今後、やってみたいことなどはあるでしょうか?

「今日は一日認知症カフェ」なんてどうでしょう。2019年11月にオープンした「渋谷スクランブルスクエア」というビルに「NHKプラスクロスSHIBUYA」というスタジオができたので、そこで公開放送とか。いま、認知症当事者の方の音楽とか芸術がたくさん登場してきているので、そういった方たちと一緒にお祭りができたら楽しそうですね。渋谷に買い物とか遊びにきた人にも参加してもらえたらと夢が広がります。

ラジオ深夜便の「認知症カフェ」コーナーは原則、第2・第3木曜の23時台に放送。公式ウェブサイトやアプリ『らじる★らじる』で聴き逃し配信もされています。
『ラジオ深夜便』公式サイト

佐治真規子さん

佐治真規子(さじ・まきこ)
1969年生まれ。仙台市出身。宮城教育大学で野生のニホンザルを研究するゼミでフィールドワークを学ぶ。1993年、NHK仙台放送局のニュース番組でキャスターとしてデビュー。2000年、東京に拠点を移し、NHKのBS放送やラジオ、放送大学の番組制作に従事。2017年から『ラジオ深夜便』の「認知症カフェ」コーナーにディレクターとして自らも出演中。現在は山梨県甲府市在住。

<「認知症カフェ」出演者リスト>

2017年
4月 浦上克哉さん(鳥取大学医学部教授)※翌5月も
6月 六角僚子さん(獨協医科大学教授)
7月 竹内弘道さん(NPO法人 Dカフェまちづくりネットワーク代表理事)
8月 樋口直美さん(レビー小体病当事者)
9月 佐藤雅彦さん(日本認知症ワーキンググループ共同代表)
10月 前田隆行さん(NPO法人町田市つながりの開 DAYS BLG!理事長)
11月 島田裕之さん(国立長寿医療研究センター部長)※翌12月も

2018年
1月 和田行男さん(介護福祉士)※翌2月も
3月 下河原忠道さん(サービス付き高齢者住宅運営)
4月 今井幸充さん(和光病院院長)
5月 山本龍生さん(神奈川歯科大学大学院教授)
6月 藤田和子さん(日本認知症本人ワーキンググループ代表理事)
7月 高井隆一さん(遺族長男)
8月 石山洸さん(AIベンチャー企業経営)
9月 熊谷まどかさん(映画監督)
10月 矢吹知之さん(東北福祉大学講師)
11月 上野秀樹さん(精神科医)
12月 菅原弘子さん(全国キャラバン・メイト連絡協議会 事務局長)

2019年
1月 今野裕之さん(医師、日本ブレインケア・認知症予防研究所所長)
2月 谷川直子さん(作家)
3月 レギュラー(お笑いコンビ)
4月 町永俊雄さん(福祉ジャーナリスト)
5月 丹野智文さん(おれんじドア実行委員会代表)
6月 舟田彰さん(川崎市立宮前図書館司書)
7月 徳田雄人さん(NPO法人認知症フレンドシップクラブ理事)
8月 松浦謙一さん(認知症フレンドリーよこすか)
9月 丹野智文さん(おれんじドア実行委員会代表)・佐藤実希さん(認知症ピアサポーター)
10月 コスガ聡一(フォトグラファー)
11月 繁田雅弘さん(日本認知症ケア学会理事長)
12月 今井幸充さん(和光病院院長)

2020年
1月 佐藤雅彦さん(日本認知症本人ワーキンググループ理事)

※所属・肩書きは出演時のもの

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について