「聞いていない!」義母ご機嫌斜めで、あわやもめそう もめない介護41
編集協力/Power News 編集部
「みんなが集まるなんて聞いてない。どうして教えてくれなかったの!」
認知症介護がスタートしてから3度目にあたる今年のお正月。元旦早々、義母の猛烈なクレームにあたふたする波乱の幕開けとなりました。
「施設の人から『明日、ご家族がいらっしゃいますよ』と言われたけど、私は聞いてない」
「なにも知らなかったから、『準備なんてしなくてもいい』と伝えてしまった」
「やるならやるで、事前に知らせてくれれば良かったのに!」
義母の止まらない愚痴を聞きながら、(しまった……)と思っていました。
例年だと、どこか義父母のお気に入りの店で家族の新年会を開催するのですが、義父が入退院を繰り返していたこともあって、今年のお正月は外食を断念。義父母が暮らす有料老人ホームの応接スペースを借り、おせちを持ち込んで新年会をしようと計画していました。
ところが、年末に義父は誤嚥性肺炎で緊急入院! そのまま、現在も病院で療養しています。そこで急遽予定を変更し、元旦はまず、義母の昼食に合わせて有料老人ホームに集合し、新年のお祝いをする。その後、義母を連れてみんなで義父のお見舞いに行くという段取りになっていました。
義母には、面会のたびに伝えており、「それは楽しみね」という答えが返ってきていたのですが、きれいさっぱり忘れてしまったようです。
「私は聞いてない」の一点張り
こちらも、義父の入院対応に気を取られ、「貼り紙」をするのをすっかり忘れていたのです。もの忘れ外来の定期受診をはじめ、さまざまな予定は口頭で伝えるだけでなく、わかりやすく紙に書いて、壁に貼っておく。自宅にいるときからの習慣で、有料老人ホームに来てからもずっと続けていたのに……。
大晦日の日、元旦も義母の昼食は普段通り提供してもらえるよう、施設に確認の電話を入れたときがラストチャンスでした。「明日は予定通りうかがいます」と伝えてあったため、義母が「家族は来ない」と言い張っても、職員さんたちを混乱させずに済んだのは不幸中の幸いでした。でも、職員さんたちに「ご家族がいらっしゃいますよ」と声がけしてもらい、実際、言われたとおりに私たち家族が現れたことで、義母のプライドはいたく傷ついたようでもありました。
「今日は、おせちもいろいろ持ってきましたよ」
「昨日、お父さんのお見舞いに行ってきたんですけど、ずいぶん体調も良くなってきたようで、たくさんおしゃべりされていましたよ」
「今日はお天気が良くて気持ちいいですね」
あの手この手で気をそらそうとするのですが、義母はなかなか乗ってくれません。
「別に怒っているわけではないんですけどね。でも、やっぱりきちんと言っておいてほしかったわ」と、“私は聞いていない!”に話が戻ってしまいます。
平身低頭平謝り作戦で乗り切ってみる
そこで作戦変更。真っ正面から謝ることにしました。
「おかあさん、ごめんなさい! 予定をしっかり紙に書いて貼っておけば良かったんですが、お父さんの入院のどさくさで忘れてしまいました」
「あら、そう……。貼らなくても言ってくれたら、それで良かったのよ」
「何度かお話はしたんですが、わかりづらかったと思います。ごめんなさい!」
「あら、そう……。え、誰と誰が話したの?」
「わたしとお母さんです!」
「あら、そう……」
義母はなんとなく気まずそうにしています。もう一声! さらに、こう謝りました。
「お父さんの病気のこととか、一緒にいろんな話をしちゃったのでわかりづらかったと思います。ホント、しっかりお伝えすべきでした。ごめんなさい!」
「いいのよ。家族が入院するって大変なことですもの。誰でも忘れちゃうわ。気にしないでね。さあ、お正月のごちそうをいただきましょう」
失敗も成功も次の糧になるように、普段から家族で相談を
鷹揚な義母が戻ってきました。すっかり機嫌が直った義母は昼食をペロリと完食した後、持ち込んだおせちも「おいしそうね」と、次々に味見。88歳になっても尚、衰える気配のない健啖家ぶりを見せてくれました。
「周囲は皆、知っているのに自分だけが知らない」という不安と焦り。それが怒りという形で表現されることがある。それは、認知症の人とかかわる上で知っておきたいことのひとつです。ここで「言った・言わない」の言い争いをすると、さらにご本人の孤独感を深め、追い詰めてしまう可能性があります。
「さっきのあれ、おふくろには“サプライズ”だったと伝えてもよかったね」
「その手があったか! 思いつかなかった……。でも、そうすると『サプライズなのにバラしちゃダメでしょう』と、職員さんにダメ出し始めそうじゃない?」
「おふくろならやりかねない……」
新年会の帰り道、夫とそんな話になりました。今回の「私は聞いてない!」は、平身抵当平謝り作戦が功を奏しました。でも、時にはうまく切り返せないこともあります。その場でなんとか対応するのはもちろん、対応した後も他の選択肢をシミュレーションしてみる。「次に言われたら、こう返してみよう」と普段から家族で相談することを習慣づけると、失敗も成功も次の糧になります。