受賞監督インタビュー

介護とラップは繋がっている 学生監督が受賞したMVはこうして生まれた

川端真央さん

一度聴いたら忘れられないメロディ。歌詞をよく見てみると、「もはや人ごとではない30代」なんて口にしている。歌うのは介護士ラップユニットQOLの2人。とにかくミュージックビデオ「介護しよう。MV feat.おばあちゃん」を見て欲しい――。その監督を務めたのが川端真央さんだ。

一度目にすると、驚きと興奮に包まれ周囲にその存在を伝えたくなってしまう。大学2年生の川端さんが人生で初めて撮ったというミュージックビデオからは、2人に出会った喜び、そして彼らに対する尊敬の念がストレートに伝わってくる。
「映像制作の面では素人なので、綺麗な作品に仕上げるには技術がたりない。でも“学生ならではの視点”は自分だからこそ持てるもの。そのときに感じたリアルな気持ち、自分の視点というものを大事にしたい、と思いました」

川端真央さん

QOLの2人、show-k(ショック)さんと大八さんとの出会いは、ミュージックビデオを撮影する約1年前に遡る。
当時、大学1年生だった川端さんは「映像表現」の授業を履修していた。その最終課題。2人1組でペアになり、自分たちが気になる人物を見つけて、ドキュメンタリーを撮る、というお題が出た。ペアを組んでいた友人とテーマについて話し合うなかで、「介護」というキーワードが自然と上がってきた。当時、介護に関するニュースはテレビなどで頻繁に見聞きしていたからだ。
「介護士 ロック」など、意外性のある組み合わせの単語を思いつくままに検索するなかで、ヒットしたのが“介護士ラップユニット”のQOLの2人だった。
「『面白い!』と思って、一か八か連絡を取ってみたら、すぐに返事を頂いて。早速都内の喫茶店でshow-kさんにお会いしたんです」。介護の問題をテーマに撮る、ということで、課題の点数を少し稼げるかもしれない、という思惑も少しだけあった。けれど、show-kさんが働いている介護施設に一日密着させてもらうと、良い意味でイメージがどんどん裏切られていった。

川端真央さん

「介護はシリアスなもの、と構えていた。現場もとにかく忙しいのだろう、と。でもshow-kさんは忙しそうだけれど、とても楽しそうでした」
川端さん自身、入居者と言葉を直接交わすなかで、一人ひとりの言葉に自分の感情が揺さぶられていくのもわかった。海外赴任経験のある元新聞記者の男性は途中から英語で話しかけてくれて、取材を受けていることを心から喜んでくれた。
「“現場”を知ることにとても意味がある、と感じました。私自身、QOLさんの介護士としての一面と、ラッパーとしての一面をわけて考えていた。けれど、介護の現場にお邪魔すると、『二つの異なる仕事をしている』というよりも、『二つは繋がっているんだ』と」

課題を提出してから約1年後。今度はQOLの2人から川端さんに連絡が入った。「『なかまぁる』のショートフィルムコンテストに作品を応募したいのだけれど、密着したときの映像ってまだ残っている?」というものだった。
「その映像が入っていたUSBが見つからなくて(笑)。だったら一から撮影をしよう、と初めてミュージックビデオを撮ることになったんです」
川端さんが決めていたことは一つだけ。それは家庭用のビデオカメラ、デジカメ、スマートフォンという異なるカメラで撮ったものを掛け合わせる、ということ。出演者はQOLの2人とshow-kさんの祖母。構成を細かく決めていたわけではないが、3人のやり取りを見て、「素材を集めるだけで充分に伝わるのではないか」と思えたという。

カメラが捉えたshow-kさんのおばあちゃんの顔は穏やかでなんだか誇らしそう。「QOLのおふたりが『楽しい?』と尋ねると、『楽しい』と。外出するときも、室内でもずっとニコニコしてくださっていました」。

カメラが捉えたshow-kさんのおばあちゃんの顔は穏やかでなんだか誇らしそう。「QOLのおふたりが『楽しい?』と尋ねると、『楽しい』と。外出するときも、室内でもずっとニコニコしてくださっていました」。

川端さんは1998年生まれ。編集スキルは独学で学んだ。「介護しよう。MV feat.おばあちゃん」のミュージックビデオは夏休みの台湾旅行にまでパソコンを持ち込み、完成させた。<span>授賞式では、「丹野智文さんの評価がとても嬉しかったです」</span>

川端さんは1998年生まれ。編集スキルは独学で学んだ。「介護しよう。MV feat.おばあちゃん」のミュージックビデオは夏休みの台湾旅行にまでパソコンを持ち込み、完成させた。授賞式では、「丹野智文さんの評価がとても嬉しかったです」。

じつは川端さんには“表現すること”の大切さを知った原体験がある。
高校生のとき、母を亡くした。その直後、通っていた高校で作文コンクールが実施された。生前、母が「最優秀賞を穫ってほしい」と川端さんに伝えていたコンクールだ。テーマは「この頃思うこと」。書き始めた当初は、母の死によって自分の心がぐちゃぐちゃにかき乱されていたため、あえて死から距離を置き作文を書いていた。けれど、なかなかうまくいかない。
「『それって、自分が本当に思っていることを書いていないからじゃない?』と教師に指摘されて。そこで、そのとき思っていたことを何度も素直に書いていくうちに、『自分はどんな気持ちだったのか』を整理することができた。“表現すること”で自分が救われた貴重な体験でした」
結果、作文コンクールでは最優秀賞を受賞。同級生たちも自分の気持ちに対し、素直に言葉を寄せてくれた。
「表現をすることでも救われたし、それに共感してもらうことでも私自身が救われたんです」

川端さんと話をしていると、常に思考が整理されている、と感じる。QOLの2人が川端さんにミュージックビデオ制作を託したい、と考えた理由がよくわかる。QOLの新曲「レスパイト」のミュージックビデオも川端さんが手がけた

川端さんと話をしていると、常に思考が整理されている、と感じる。QOLの2人が川端さんにミュージックビデオ制作を託したい、と考えた理由がよくわかる。新曲「レスパイト」のミュージックビデオも川端さんが手がけた。

“表現すること”に魅せられた川端さんは、これからも映像制作への道に突き進むつもりだ。一番撮りたいのは、“家族の物語”だ。
「自分発信だとなかなか動くことができなかったけれど、QOLのおふたりに出会い、彼らに依頼してもらってはじめて私も動き出すことができた。本当に感謝しています」

川端真央(かわばた・まお)
1998年生まれ。慶応義塾大学総合政策学部2年。1年のときに大学の課題でQOLにインタビューしたことをきっかけにミュージックビデオを制作。

なかまぁるShort Film Contest 2020【応募概要】はこちら。

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