受賞監督インタビュー

わずか14分 俳優2人 日本人監督が米国で作った映画を本人が語る

坂部敬史さん
坂部敬史さん

広い家に一人で暮らすおじいさんのもとに、ある日泥棒が現れる。戸惑う二人。けれど、おじいさんは追いやるどころか、若き泥棒を息子と勘違いしたまま親しみをもって声を掛け続ける。どうやら記憶は過去と現在を行き来しながら少しずつ薄れつつあるようだ。言葉を交わすうちに泥棒もまた、おじいさんに“叶わなかった夢”を打ち明ける――。

わずか14分の短編映画『The Right Combination。登場人物は二人だけだが、物語に奥行きがあり、二人のこれまでとこれからに思いを巡らせずにはいられない。監督の坂部敬史さんは、米国で映画を学んでいた2014年、卒業制作として本作をつくり上げた。意外にも認知症についての知識はほとんどない状態からのスタートだった。坂部さんは言う。

「卒業制作のテーマを何にするか、と考えていたときに、担当教師から『自分が考えていることや抱えている個人的な問題から発想してみるといい』とアドバイスをもらったのがきっかけでした。興味があることを掘り下げていったところ、“記憶”というキーワードが浮かび上がってきたんです」

坂部敬史さん

坂部さん自身、「自分は忘れっぽいのかもしれない」という感覚を持ちながら生きてきた。

「たとえば昔からの友人に会って『以前、こんなことがあったよね』と話を振られても、『そうだったかな、よく覚えているな』と思うようなことがありました。このまま忘れていってしまうといったいどうなるのだろう、という漠然とした恐怖があったんです」

記憶を失いつつあるおじいさんに対峙する役として、若い泥棒を据えたのはなぜか。その理由は、坂部さんがこの映画を撮りたいと考えたもう一つの理由を知ることでおのずと見えてきた。

坂部敬史さん

坂部さんの留学先であった米国の大学には、世界中から人々が集まってきていた。生まれ育った環境も、背負ってきたものも違う。さまざまなバックグラウンドの人々が集まるなかで、「自分は彼らに比べ平凡な人生を生きてきたのではないか」ということを思い知らされた気がした。

「父親が教育者ということもあり、子供の頃から道を踏み外したりすることなく生きてきたな、という感覚がありました。“確執”というほど強いものではありませんが、父親に対し『もう少し自由にさせてくれても良かったのにな』という思いがあったのは確かです」

“過去を忘れる者”と“過去を忘れられない者”という相反する二人を物語の中心にするというアイデアが固まり、3ヵ月もの時間をかけストーリーを練り上げていった。

第1回なかまぁるショートフィルムコンテスト受賞作品『The Right Combination』のワンシーン

驚くことに、主演の二人は俳優志望の素人さん。出演希望者を募るウェブサイトを通して募集をかけたところ、それぞれに200人ほどの応募があったという。「映画『ラ・ラ・ランド』で描かれていたように、LAには年齢問わず俳優志望の方がたくさんいらっしゃるんです」。英語の脚本はすべて自らの手で書き上げた。

記憶が失われつつあるなかでも、おじいさんはやかんを火にかけ、自分でお湯を沸かす。キッチンの棚には「皿」や「ナイフ」と書かれたメモが貼られていることから、周囲の手を借りながらも一人で生活していることがわかる。どこか凛とした佇まいも印象的だ。

認知症当事者を直接取材することは難しかったため、坂部監督はYouTubeでさまざまなケースを見ながら、少しずつ知識を蓄えていった。なかでも難しさを感じたのは、おじいさんの認知症の進行の度合いをどれくらいに設定するか、という点だ。

「映画をつくるうえでは、物語を進めないと、と思う反面、あまりに都合が良い見せ方もしたくないな、と。役者さんとは何パターンか試しながら、リハーサルを重ねていきました」

作品が完成した2014年当時、クラスメイトたちは「本当にこんな風に一人で生活できるの?」と訝しんだという。けれど、2019年のいま、私たちはおじいさんの姿を見て、「自立した人だな」と素直に思う。それを坂部さんは「社会の大きな変化ではないか」と見る。

第1回なかまぁるショートフィルムコンテストで最優秀賞を受賞した時の坂部敬史さん

授賞式では、笑いとすすり泣きの両方が聴こえてきた。「認知症に対して深い知識を持っていたわけではないのですが、皆さんにダイレクトに伝わったのが嬉しかった。認知症というものの現実を知っている人と知らない人のコミュニケーションは大切だな、と思いました」

認知症当事者のもとに泥棒が忍び込む、というアイデアも唯一無二のもの。コメディタッチでありながら、観続けていると次第に普遍的な物語だと気づかされる。忘れることは決して悪いことではなく、新たな出会いや人間関係の構築にも繋がるのかもしれない、と思わずにはいられない。

「映画を観た人が『今日はひとつ良いことがあったな』と思えるような作品をつくりたい、という思いが根底にあります。重いテーマではあるので、エンタメの要素を残すなど間口は広く、そこから深く掘り下げていくことが大切なのかな、と。認知症に1ミリも興味がない人が観ても『面白い』と思えるものでないといけないですし、この映画をきっかけに、認知症というものを知りたいと思う方が増えたらいいなと思っています」

坂部敬史さん

現在は映像制作の会社で働きながら、次回作の構想を練る。じつはゾンビ映画も大好きなのだとか。「“記憶”と“夢”という二つを掘り下げていきたい。意識と無意識というものに興味があるんです。映画としては一度長編にチャレンジしたいと思っています」

坂部敬史(さかべ・たかふみ)
1986年生まれ。幼少期はゴジラやスターウォーズを観て育つ。高校生の時に学園祭用にクラス映画を作り、映画制作の楽しみに目覚める。大学や就職後も細々と映像制作を続ける。2013年夏、渡米、NY、LAにて映画制作を学ぶ。2015年、帰国。
MVやCMの制作会社で働く傍ら、次の作品の構想を練っている。牛丼が好き。

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