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介護の裏ワザ、これってどうよ?

今度は母になりきる マル秘話聞いて楽しんじゃえ これって介護の裏技?

青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!

「あんたは結婚してもいっしょに住むって思ってたのにー!! この裏切りものー!!」「ん・・・? 嫌味か?」結婚の予定がまったくないゆずこ

夫婦の馴れ初め、こっぱずかしい話も聞けちゃう

苦楽を共にし、何十年も連れ添った夫婦や仲のいい親子でも、認知症になると急に真顔になって「……あなたはだぁれ?」と言われてしまうことも少なくありません。これは、脳の神経細胞の働きが低下してしまうことで起こる「中核症状」と言われるもの。その中の一つに、現在の日付や時間や場所、人が分からなくなる「見当識障害」があります。

ばーちゃんは孫のゆずこのことを度々、大工や家電の修理作業員(体力仕事は嫌いではないので実際によくやっていた)、そして時には女中さんだとその都度本気で思い込んでいました。
そして、誰に一番間違われていたかといえば、母よしこ(仮名)です。ばーちゃんにとっては実の娘(長女)。ばーちゃん的には結婚してからも自分の家で一緒に暮らしたかったようですが、ゆずこの父(農家の長男)と電撃結婚をして地方に嫁ぎ、ばーちゃんの夢は残念ながら叶わなかったとか。そのせいで、ゆずこを娘と間違えては、「あんたは親を捨てて出て行った!」「嫁になんか出すんじゃなかった!」と、時間や場所も関係なく、これまで積もり積もった怒り(?)を独身のゆずこにいつも思いっきりぶつけてくるのです。

自分の今のポジションを面白がっちゃえ

誰かと間違われて「なんでわたしが文句を言われないといけないの!」とイライラする時もありましたが、否定したり正論で言い返してしまうとばーちゃんはもっと暴れますし、ふと思ったのが「あれ? あたしのポジションって結構面白くないか?」ということ。
それは、普段聞く機会もないような両親のこっぱずかしい馴れ初め話や、マル秘話なんかも聞けちゃうなんてレアな機会すぎる!からです。
しかも、ばーちゃん的にはわたしを母や友達だと思い込んでいるので、“対孫”や“対家族”用に表現を柔らかくするのではなく思いの丈をそのままぶつけてくれるから、話が赤裸々すぎてめちゃくちゃ面白いのです(両親は絶対に話してくれないであろうことまでバッチリ聞けた)。

「まったく・・・アンタ(ゆずこ母)はしげおさん(父)と会い過ぎじゃないかい? 毎回迎えに行くこっちの身にもなっておくれよ・・・ほぼ毎日じゃないか」

ときにはご近所さんやばーちゃんの友達と間違われて、こたつにお茶菓子、お茶まで用意してくれることも。大抵は噂話や世間話、その方との昔話で盛り上がるのですが、一度だけ「うちの孫のゆずこがね……」と、わたしの話題になったことがありました。お!珍しく第三者にはホメてくれるのか!?とルンルンで期待したのですが、続きは一言だけ。

「いくら言っても全然痩せないんだよ」

ねぇねぇばーちゃん、やめて。本人、目の前にいるの。
そしてその後はまったくゆずこの話題は出ず……それだけかい!

許容範囲なら、相手の世界を否定せずに誰かになりきってOK

そんなこんなで誰かに間違われるのも結構面白いものですが、ある時期を境にわたしを母よしこと間違えることが一気に増えたのです。ふと考えてみると、ばーちゃんは母やオバには絶対的な信頼をおいているというか、よく子どものように甘えるのです。
ということは、それだけわたしへの信頼や安心感が増したということなのでは……。そう考えるとどこかじわじわと嬉しくて、余計にニヤニヤしながらばーちゃんの母への愚痴を聞けるようになりました。

誰かと間違われても、そこに楽しみを見出しちゃう。こんなゆずこの受け取り方を、認知症の在宅医療推進や認知症情報の発信に積極的に取り組み、『認知症の人を理解したいと思ったときに読む本 正しい知識とやさしい寄り添い方』(大和出版)の監修を務める、湘南いなほクリニックの院長・内門大丈先生はこう分析します。

「このような人物誤認や見当識障害は、アルツハイマー型認知症だと、時間→場所→人、というように段階を踏んで悪化する傾向があり、レビー小体型では割と早期に症状が出ることが多いと言われています。
今回のゆずこさんの場合、まず、おばあさんの世界や話を否定しなかったことがすごくいいと思います。おばあさんはゆずこさんのことをずっと誰かと間違えているわけではなく、正しく認識しているときもありますよね。主介護者に過度の負担がかからない、許容できる範囲……というのは大前提ですが、楽しそうに話しているのならわざわざ相手の世界観を壊したり、正論で訂正する必要はありませんからね」

自分じゃない誰かと間違われることは時にストレスにもなりますが、「おばあちゃん」という仮面を外したばーちゃんを見られることはすごく面白い。“対孫”というずっと変わらない関係性だったら、まず見られません。そんな面白い刺激があるからこそ、色んな物事を色んな角度で見つめることってすごく大事だと思います。痩せます。

内門大丈先生
内門大丈先生
湘南いなほクリニック院長。いなほクリニックグループ共同代表。日本老年精神医学会専門医・指導医。日本認知症学会専門医・指導医。認知症の在宅医療推進や認知症情報の情報発信に積極的に取り組んでいる。『認知症の人を理解したいと思ったとき読む本  正しい知識とやさしい寄り添い方』(大和出版)監修。

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この連載について

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